今市隆二さん推薦「その時までサヨナラ」を純文学マニアが読んだ感想

三代目J Soul Brothersの今市隆二さんが、以前ラジオ番組で号泣したと話されていた、山田悠介さん著「その時までサヨナラ」ブックレビューです。

今市隆二さんの言動で世の中がほんの少し動く今市効果(が、あるのかは分からないが)により、この本も売れているそうです。

今市さんは品川の駅ナカにある小さな本屋さんで買ったとお話されていました。

品川駅は昔通勤で毎日利用していたので割と詳しいのですが、今市さんは新幹線利用だと思うので、新幹線の改札の方にある書店だと思います(ほんとにちっちゃいよ)。

私も先日品川の駅ナカの本屋さんでそのエピソードを思い出したので、その場で買いました。


「その時までサヨナラ」あらすじ

出版社で働く主人公の悟は仕事人間だった。出世街道を突き進むも、家庭内には不和が生じている。妻と4歳の息子とは別居中。

そんな中、旅先にいた妻と息子が列車事故に巻き込まれ、息子は九死に一生を得る。

これまで家事はおろか、子育てにまったく関与していなかった悟が仕事と子育てを両立できるはずもなく、この事故をきっかけに生活環境は一変する。

そんな困惑する悟の前に、ある日妻の親友と名乗る一人の女性が現れ、事態は急展開を迎える。この女性は一体何者なのか?そして妻はなぜ旅先へ向かったのか?

愛と絆を描いた感動ミステリー!(ここは裏表紙から引用しました)

普段子育てにノータッチな、仕事に生きるお父様方にこそ読んでいただきたい。そして感想を聞いてみたくなるような内容ですね。

作者の山田悠介さんについて

この本を書いた山田悠介さんは、1981年6月東京都生まれ。

余談ですがこの経歴、私も全く同じで、生まれた月も一緒の同い年で、途中で神奈川県に移住した経験があって今は執筆業をしているところまで同じでした!

山田さんが通っていた湘南にある高校は、私が住んでいた茅ヶ崎市のすぐ近くだったりと、縁が深いのでもう友達ということで良いでしょうか。

2001年、「リアル鬼ごっこ」で作家デビュー(この頃は自費出版していたそうです)。

「親指さがし」「パズル」など、発表する作品はすぐに映画化され話題に。ホラーやミステリーを得意とする売れっ子作家さんです。

今回の「その時までサヨナラ」は、普段の山田悠介さんの作品とは一味違います。

しかし、思えば山田さんはジャンルこそホラーですが、常に「命」というテーマを扱っているんですよね。

特に日本人が描くホラーって、死を通じて「生」を伝えていたり、どことなく生きることの儚さみたいなものを感じます。

日本のホラーが流行った時期がありましたが(今もそう?)、そういうメッセージ性もはらんでいる背景もあると感じているんです。

日本のアニメが世界で流行するのと少し似ているかなと思います。バックボーンがきちんとあるという点において。

今回の作品は、そんな山田悠介さんだから書けたストーリーであり、彼の思う死生観というものを一度伺ってみたい気持ちになりましたね。

ご本人はホラー映画は好きではなく、「Always 三丁目の夕日」が好きだということでますますどんな方か不明になりました。

愛と命を考える

「その時までサヨナラ」は、主人公の目線を通した家族愛が一貫したテーマになっています。

同時に、夫婦や親子、上司と部下、愛人、義父母など、誰もが必ず直面するであろう人間関係を描いた作品なので、自分に重ね合せる場面も多くあることと思います。

愛とは?命とは?普遍的なテーマとともにSF的な要素もあったりと、山田悠介さんの新境地とも言える作品。

ホラー作家って、愛情とか命とか、プライスレスなものに対する思い入れ、ともすると憧れにも近いような感情ががけっこう強い気がします。

いい意味で、山田さんらしさからは期待を裏切られる作品だけど、彼が思い描く愛や命って、こんな側面もあるんだなと意外でした。

通勤電車でサクッと読める内容は魅力ですし、「この先どうなるんだろう?」と続きが気になる展開にさせるのは、作家の度量が試されるところ。

その点ではとても優秀な作品だと思います。後半は人前で読むと号泣注意です!

今市さんは1日で読了したそうですが、私は2日に分けて読みました。小説とかをさらっと1日で読んじゃう男性って素敵ですね。

心のすさんだ純文学マニアが読むとこうなる

私が普段読む小説は、三島由紀夫とか太宰治、江戸川乱歩、谷崎潤一郎など、一筋縄ではいかない作品ばかりです。

最近の小説も読むのですが、どうしても語彙力が乏しい気がして満足できず、昔の作品に戻ってしまいます。

「その時までサヨナラ」は、「泣いてしまった」という方もいれば「展開が読めた」という意見もあり人それぞれのようですが、私はどちらかというと後者の方でした。

おそらく、日頃から人との縁に感謝できたりする愛情深い人は、素直に良いと思えるのでしょう。

私は屈折しているので、主人公の心の変化に疑問を覚えたりして、純粋に楽しめないところも。。

今市さんは圧倒的に前者タイプの素敵男子なので、号泣したというエピソードも納得です。太宰とか読んじゃうくすんだ人間から見ると、太陽のように見えてきます。

とはいえ、私もかなり泣きましたよ! ただ、皆さんの泣きどころポイントとは違ったと思います。

ラストも泣けるのですが、中盤で息子が主人公に「休みの日に・・」ってお願いするシーンに心が痛くなって。

片親の環境で育った私は、子供が親の問題のために我慢している姿を見ると、自分と重ね合わせてしまってだめですね。泣いてしまいます。

普段の三島由紀夫とかのフィルターでこの手の作品を読むのは禁じ手だと思ってますし、別物と捉えています。

総合評価

テーマは誰もが感情移入できる身近な題材。そこに壮大なSF的要素が加えられた、山田悠介さんならではのバランス感覚。

ドキドキするし涙もする、普遍的テーマを扱いながらも、心地よい読後感をも覚える素敵な作品でした。

総合的に見て☆3.5

読書はやっぱり楽しいです。私も食わず嫌いせずに、もっと最近の小説を読んでいきたいと思います。

文 / 長谷川 チエ(@Hase_Chie

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!