2021年上半期にリリースされたアルバムの中から、特に印象に残ったアルバム7枚をピックアップしました。全体のバランスなど、さまざまな視点から見て名盤だと感じたアルバム7選です。
aiko『どうしたって伝えられないから』
日常の中で創造力を与えてくれるaikoの楽曲。コロナ禍を経て、そのありがたみが沁み入るように心に伝わる。しかし時に非日常を彷彿とさせる実験的なアレンジは、彼女のさらなる進化を予感させてくれる。
「ハニーメモリー」から「青空」「磁石」へとつながる神曲の流れは、アルバムの中でもひときわ輝いている。
それを取り囲むように、あるいはぽんとそこに置かれたように「愛で僕は」「しらふの夢」などのアルバム曲が散らばる尊さ。
どれも本当に素晴らしいのだが、個人的に大きなポイントとなったのは、1曲目の「ばいばーーい」。普通こんな並びにはできない。
4:12からの美しいストリングスに乗せて放たれる「ばいばい」のメロディは、シンプルにして深い世界が見える。aikoのアルバムにおける極意のようなものを感じ、1曲目にして心をわしづかみにされた。
KID FRESINO『20,Stop it.』
STUTS&松たか子 with 3exes「Presence I」のfeat. アーティストとしても注目されたKID FRESINO。『20,Stop it.』は1曲ごとの個性が際立っているのに、流れるような押韻で全体にも流動性が生まれている。
長谷川白紙さんとはいつかコラボしてほしいと思っていたけれど、こんなに早く実現してくれるとは思わなかったし、聴いてみるととても相性がいい。
KIDさんも客演側に回るのが上手いと思ってきたが、長谷川さんも先ごろのスカパラとか、フィーチャーされると異彩を放つアーティストである。そんなおふたりの醸し出す空気がすごい。
人気曲のRemixで終わるアルバムは、個人的には消化不良に陥りがちなのだが、「No Sun – toe Remix」は文句なしにかっこいい。あんなにかっこいい原曲を、さらに超えそうなほどの名曲に仕上がっている。
Tempalay『ゴーストアルバム』
Tempalay『ゴーストアルバム』は、各曲の良さと相まって、一貫したコンセプトの元に一つの作品として象られているところがまるでアートのようだ。
ずらっと並ぶ浮世離れしたタイトルを見ただけで敵わないことは分かる。
「忍者ハッタリくん」とはどんなふざけた曲なのかと聴いてみれば、0:00からもれなくかっこよくて焦るし、もう「普通のPOPSに戻ります」って言えない体になってしまう。
個人的には「ああ迷路」のギターリフにまとわりつくような、妖艶なエモさと漂う文学性が病みつきになる。
そしてラストはリード曲「大東京万博」で締めくくられるという隙のなさ。とんでもなく素晴らしい芸術的アルバムが出来てしまったことを喜びたい。
5lack『Title』
「Uz This Microphone」の強靭なプロローグから全14曲、失速することなく走り抜く、フィジカル最強説を唱えたいアルバム。
限定リリースだったCDは、受注開始から24時間も経たないうちに完売したという人気作でもある。
ダークな「Nove」から深く潜り始め、絶妙なところで「近未来 200X」の歌メロが深みを与えている。この曲のトラックがとてもいい。
そこから、鬼太郎が出てきそうでクセになる「現実をスモーク」、Lofiな「Betterfly」、実兄・PUMPEEとの「己知らぬ者たち」へと続く。
さらに「終演」「Sylar」と、延々と聴きどころが続くような、とにかく息切れしないアルバムである。
こんなにボリューミーだったのに、最後はいい意味で肩の力が抜けているというか、意外な着地の仕方をするところに5lackらしさを感じる。ラップのみならず、5lackの高いトラックメイク力を改めて感じた。
ロザリーナ『飛べないニケ』
人生を振り返れば雷雨の日もあるのかもしれないけど、普段は曇り時々晴れか、時々雨。今自分が泣きたいのか笑いたいのかさえ分からない時だってある。
メジャーとマイナーのコード感をバランスよく掬い取って、日常をふわっと包み込んでくれるようなアルバムだと思った。
笑っているようにも、泣いているようにも聴こえてくる透明感ある声はロザリーナさんの魅力で、それはリスナーがどんな感情の時でも受け入れられる。
というよりも、その時のリスナーの気持ちで、聴こえ方を勝手に判断しているのかもしれない。
今までは、もう少しストレートな音だった印象があるが、このアルバムは実験的で空間的な広がりをイメージさせる。
ロザリーナさんのヴォーカルを生かすオートチューンも効果的で、私がイメージしたのは『不思議の国のアリス』みたいな飛び出す絵本だった。
ドラマ主題歌としても印象的だった「涙の銀河」はアルバムの中でも存在感があり、1曲目の「Full of lies」を聴いた瞬間からアルバムの世界に引き込まれる。
DISH//『X』
「ルーザー」に始まり「バースデー」で終わるこのアルバムに、何も語らずともDISH//の強い意志とメッセージが感じられる。
「猫〜THE FIRST TAKE ver.〜」はレーベルセレクトだと加味しても、Nulbarichや緑黄色社会、マカロニえんぴつなど、一枚で旬なアーティストとの多角的な共演を実現させている。
そんな中でも「Seagull」をはじめ、これまでのDISH//らしさはしっかりと残しつつ、自作曲も織り交ぜ、隙あらば進化を続ける。
これだけの軸を持って攻めすぎると聴き手としては疲れてしまいそうなものだが、北村匠海さんのヴォーカルをはじめ、高い表現力がアルバム全体のレンジをコントロールし、バラバラに生まれた曲が1枚に収まっている。
ここまで細部まで網羅できるバンドはDISH//をおいて他にいないだろう。
▼DISH//について書き倒したこちらの記事もあります。
THE FIRST TAKEの「猫」しか知らない我が友へ贈るDISH//の曲たち
FIVE NEW OLD『MUSIC WARDROBE』
そう、アルバムとはこういうことなのだ! 初めて聴いた時「この作品の良さを全力で伝えなければ」と思った。
そのための場として、Culture Cruiseを費やしたかった。そして長い記事を書き上げた。すみませんいつも長くて。
FIVE NEW OLD『MUSIC WARDROBE』の素晴らしさをただ全力で伝えたいだけ
果敢に挟みまくられたインスト曲がこのアルバムの立役者だと、前述の記事でも断言してきた。
ストリーミングでは一番にスキップの対象となってしまうインストを、結成10年を迎えた割と大事なタイミングのアルバムに、割と多めに入れてくるFIVE NEW OLD、なんていいバンドなんだ。
しかも単なる箸休めのインタールードとしてではなく、曲としてのクオリティが保たれているところも素晴らしい。良い音を追求してサウンドで勝負してきたバンドのかっこよさをぜひ感じ取ってほしい。
上半期だけでなく年間を通しても、このアルバムは必ず選んでいたと思う。それどころか、5年後も10年後も、きっと変わらずこのアルバムのよさをひとり語っているだろう。どれだけ語っても言葉は尽きない。よい作品とはそういうものだ。
音楽の聴き方も変化し、アルバムの存在価値が薄れているようにも感じるので、あえてこのような視点で記事を作りました。アルバムだから気付けるアーティストの魅力や、出会える名曲を、今後も探していきたいと思います。
文/長谷川 チエ
▼2020年トップソングはこちら
▼「猫」しかしらない友達に書いたDISH//の記事
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