Official髭男dism『Editorial』ネタバレのないライブレポート

Official髭男dismが2021年8月にリリースしたアルバム『Editorial』の全国ツアー『Official髭男dism one-man tour 2021–2022 – Editorial -』ライブレポをネタバレなしで書きました。

これから参加する方や、公演の中止などいろいろな事情で行けなくなった方も、みんなが読めるレポートになっています。




直感で聴く『Editorial』

Official髭男dismが1年10ヶ月ぶりにリリースしたアルバム『Editorial』を再生した瞬間、午前7時。

後でゆっくり聴きたいので、軽く流すつもりでかけてみると、1曲目のデジタルクワイアが鳴り響いただけで止められなくなった。

「ああ、こんな早朝から、私は泣いてしまうのか」滲んでいく視界と逆行するように、いろいろな想いが鮮明に蘇ってきた。

ーー私は音楽好きのライターだ。音楽ライターと名乗れるほどの専門的知識もない。

とはいえ、このサイトでは音楽をメインに扱っているので、多少なりとも勉強する必要がある。続けるうちにお仕事をいただく機会もあり、こんな自分でも少しは音に詳しくなったりする。

すると冷静な視点というものが自ずと必要になり、知識と引き替えに感情を見失いそうになった。

知識と感情、いわば頭と心のバランスを保ち、両立させることがこんなに難しいなんて、思いもよらなかったのだ。

音楽に関する記事を読んで感動するのはいつも、音楽好きな一般の方が一生懸命書いた文章で、音楽ライターさんの記事はとても勉強になるし尊敬するけれど、心を動かされるのとは少し違ったから。

そのどちらでもなくなってしまった自分は、一体何者なのか分からない。

でも溢れる感情を逃したくなくて、それを記事にしたくて、私は“音楽好きなライター”で居続けようと、ある時思った。

それを思い出したのがこの瞬間だったのは、『Editorial』がまさにそう思わせてくれる理由のようなアルバムだったからだ。

再生して数秒で泣くなんてめったにないし、それを語れる音楽理論も存在しない。

前作『Traveler』は4人の前進していく決意のようなものを感じ、パワーのこもったアルバムだと感じていた。

『Editorial』も、挑む姿勢は相変わらず感じるのだが、音に余白があると思った。晴れでもなく雨でもない、曇りの日の表情が見えてきたり、想像力も、創造性もより豊かに。

「上手く言葉にできないけど、なんか良い」という直感で聴ける作品。それが『Editorial』だと思った。

ネタバレなしのライブレポ – Official髭男dism編

そのアルバムを引っ提げ、Official髭男dismは7ヶ月に渡るツアーをスタート。私は2日目のぴあアリーナMM(神奈川)公演を拝見することができた。

ファイナルまで情報は避けきれないかもしれないけれど、ライブを観て、髭男からの愛を受け取れる内容だと感じたので、極力セトリは知らずに観た方が楽しめそうな気がする。

そのため、この記事では曲名が一切出てこないレポートに徹したいと思う。最近はネタバレなしに挑むのがCulture Cruiseの恒例企画になりつつある。

このツアーは、2020年に開催予定だった『Official髭男dism Tour 2020 – Arena Travelers -』のチケットを持っている人には、振替公演の対象となっている。

みんなが待ちに待ったライブだ。髭男はフェスや配信では何度も拝見しているけれど、単独の有観客ライブは今回が初めてだった。

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オンラインでOfficial髭男dismのライブを初めて観た感想

何とか雨を逃れたような曇り空だったが、晴れ間も見えてきた。

周りを見渡すだけで、多様な客層がこのバンドの素晴らしさを物語っている。バンドのライブは、年代や性別、たいていどこかに偏りがあるものだ。それも悪いことではないのだけど。

Official髭男dismのライブは、若い世代を中心に、年代も性別もバランスよく分散していて、会場に入る前からすでに魅力が伝わってくる。まるで奇跡のような光景だと思った。

もちろん一番は音楽性だと思うけれど、日頃の活動や彼ら自身の人柄とか、多角的に見ても多くの人を惹きつける魅力があるということだ。何度でも言うが、バンドでこのステージに登りつめることは本当にすごいと思う。

17:00 開演

17時過ぎに開演。髭男の4人とサポートメンバーが登場する。みんな笑顔だ。それだけで嬉しくて、自然と笑みがこぼれてしまう。

髭男はステージ上にいる時が一番楽しそうで、いつも笑っている。初めてフェスで観た時、なんて素敵なバンドなんだと一瞬で好きになった。

コロナ禍につき、観客はマスクをして声も出せない中、髭男は容赦なくブンブンに飛ばしまくる。油断すると置いていかれそうになるくらいだ。

派手な演出とか、バカ騒ぎするとかじゃなくて、音楽への情熱が体じゅうから溢れ出してる、みたいな感じだ。

でもそれは、観客の立場を慮ってこそのテンションなのだと思う。「楽しんでくれてること、ちゃんと分かってるよ」の気持ちの表れなのだと。マスク姿の我ら、どれだけ救われたことか。少なくとも私はそうでした。

この日はお子さんもわりと見かけた。こんなに小さな子を喜ばせられるなんて、素敵だなぁと思っていたのだけど、それにしては髭男はあまりにもストイックで、スキルフルで、ロックスターである。

ビッグバンドの生演奏や、音源にはない小笹さんのギターソロパートだとか、生の迫力は髭男ライブならではの魅力であり、彼らの真骨頂だと感じる。

楽曲自体も、耳をなぞる音はPOP仕立てだったりするが、実際にはものすごくストイックなロックが身体を通過していく。

彼らの音楽ルーツが、バンドの基礎を支えていることが尊い。子どもの目にも、全身にずんずん響く音とロックスターな姿こそが、のちの記憶として鮮明に残るのかもしれない。

藤原さんは、口から(喉から?)音源などという次元はとっくに通り越して、もはやその先を行っている。

高いクオリティには驚かされるばかりだが、それ以上に歌う姿に胸を打たれるのだ。ロングトーンに気を取られていると、私の涙はすぐに溢れ、気付くと流れている。

曇りの日の髭男

もちろんずっと飛ばしまくりではなく、じっくり聴かせるモードもあります。どんな曲調でもパワーは衰えず、それは単に勢いだけで出すものではなくて、もっと内側にある情熱が、音や歌声の細部に宿っているような。

ミディアムテンポに心地良く流れる時間もあって、個人的にはこの雰囲気がお気に入りだった。

生で髭男ワンマンを観るのが初めてだった自分からすると、フェスではあまり出会わない時間だったし、アルバム『Editorial』で深みを増した表現力のようにも思えた。

“曇りの日”と前述したように、“どっちつかずな髭男”という人間味が、私はすごく好きなのだと確信した。

Spotifyの総再生回数は10億回を突破。タイアップの需要にも期待以上の供給を果たす。確実に日本の音楽シーンの中心をひた走るバンドだ。

どの曲が流れても、すべてがシングル級の名曲ばかりで、めまいがしそうなほど圧倒される。人気曲が流れればみんなとても喜んで、すごいのは、それが人気である以前に名曲だということだ。

いい作品を作ろうとする4人の姿勢は変わらず、結果的にヒットする構図はずっと変わらないのではないか。ヒットしたって、しなくたって、髭男が好きだから聴いているのだ。

パブリックイメージは快晴かもしれないが、むしろ髭男は曇りの日に形成されて、やっと顔を出した太陽をみんなが目撃しているだけに過ぎない。

その過程を見ることができるのが、髭男のライブであり、今回のアルバム『Editorial』なのかもしれない。

藤原さんはMCでも印象的な言葉をたくさん届けてくれて「今日ここに来た人も、来ないことを選択した人もリスペクトしている」とお話されていた。

ライブのMC中にその場にいない人のことまで思いやれるなんて、本当に心根の優しい方々なのだなと思うとまたしても泣けてくる。

この日は、払い戻し分の再抽選に当選した方や、手放す方のリセールでチケットを入手した方もいて、手放したどこかの誰かへ向けた感謝のツイートもたくさん目にした。

演者も観客もみんなが、今日ここに来られなかった人たちに思いを寄せていて、暖かい空気が会場に漂っている気がした。離れている方々にも伝わってほしい。

最後には「全公演欠かさないことが、このツアーの一番重要なことだとは思っていない」と前置きしながらも「いってきまーす」と髭男さんは旅に出るのだった(ここかわいかった)。

規制退場のルールをみんなが守りながら、順序よく会場を後にする。すっかり暗くなった空はやっぱり曇りで、1日持ち歩いた折りたたみ傘の出番はなかった。

帰りの電車の中で『Editorial』を再び聴きながら、「“音楽好きなライター”のままで良かった」と静かに思った。

なぜ今なのか? の答え

ライブ業界に対する世間の風当たりは強まる一方で、音楽を聴かない人だけでなく、聴く人でさえ、「なぜ今やる必要があるのか?」と思う人は多いかもしれない。

けれど、創作は常に呼吸している。このライブは今の髭男だからできるプログラムなのだと思う。

こんなに素晴らしい『Editorial』を世に放った今の彼らの音に触れられないことが、我々にとってどれだけの痛手となるだろうか。

彼らはこのステージに身を捧げていた。ツアーを経験してその先に立った時、きっともっと魅力的なバンドになっているはずだ。

その音楽を世界中のリスナーが共有する。だからライブは大切で、その場にいる人だけが消費する一時的な娯楽ではないのだ。

お客さんはみんなそれを理解して、ガイドラインを懸命に守って行動していた。当たり前の時間だと思っている人なんて1人もいない。身が引き締まる思いがした。

次回の青森公演が中止となり、謝るメンバーのSNSを目にして、観ることができたものは記事に残していこうという気持ちになった。

ネタバレなしで抽象的ですが、むしろそれは行けない方とも共有できるかもしれないと思い、綴ってみました。

1公演でも多く、1人でも多くの方に届いてほしい気持ちは変わりませんが、このツアーに関わる誰かが矢面に立たされるのも見たくないので、どうか無理せず、安全な中で開催されてほしいと思います。

文/長谷川 チエ


Official髭男dism 公式サイト

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ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。2016年、別業種からフリーライターとして独立。2017年にCulture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。カルチャーについて執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、別名義で小説や行動経済学についての書籍も出版。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!