藤井風『HELP EVER ARENA TOUR』@横浜アリーナ ライブレポート

藤井風さんの『Fujii Kaze “HELP EVER ARENA TOUR”』初日公演のライブレポートを書きました。

以前、『HELP EVER HALL TOUR』の神奈川公演をありがたくも拝見することができ、ツアーに行けなかった方と、その後に参加する方々も楽しめるよう、ネタバレなしのライブレポを書きました。(『HELP EVER HALL TOUR』ネタバレのないライブレポート

今回も同じ流れでネタバレなしに徹しております。




『HELP EVER ARENA TOUR』@横浜アリーナ

2021年10月2日。台風の影響で大雨だった前日の天気が嘘のような、さわやかな秋晴れの横浜。

右に行けば横浜アリーナ。左に行けば、先日藤井風さんが開催したフリーライブの開催地、日産スタジアムという分岐点。今回は右に進んで、横浜アリーナへと向かう。

現地に到着すると、すでにたくさんの人だかりがあった。というか行列。列を乱したり、迷惑な行動をする人なんて一切いないが、行列。

前回拝見したのは2020年12月のクリスマスで、その時にはスムーズに買えた物販も、今回は長蛇の列だった。ライブ終了後まで、どこかしらに列ができていた。

会場では藤井風Tシャツを着ている方もいて、今回のツアーTはじめ、God Bless Us Tシャツとか助常傷無のやつとかいろいろなデザインがあり、見ているだけで楽しい。

横浜アリーナの会場を見渡すとやはり広い。神奈川県座間市の小さなホールに風さんが来てくれたことが何だか不思議なくらい、1年足らずでスケールは桁違いになった。お客さんも以前より年齢層が幅広くなった気がする。

座席は今回も市松スタイルで、最近増えてきたいわゆるグループディスタンスでもなく、同行者がいても一席ずつ空いている。この後の公演はどのようになるか分からないが、アリーナで一席空きだと、隣とぶつからずに踊れるのが良い。

ライブは定刻どおりにスタート。藤井風さんが登場する。

開演!

冒頭から、観客の心を掴んだ瞬間が視覚化された気がした。全体を通して、こう来るだろうと予想しているわけでもないのだけど、予想外なことを繰り出してくる。

ファッションは今回も、“衣装の方から似合いに行ってる” 服だ。布製品からも愛される風さん。開放的でのびやかな演奏がアリーナじゅうに響き渡るので、次のツアーの頃にはリスとかウサギとかも寄ってくると思う。

しかし小動物系だけではなく、ゾウやキリン、サイなども気に入ってくれそう。ネタバレを避けすぎて文章がねじれてきた。

キメるところはキメるのだが気取ったところがないし、MCになると眠いのかと思うくらいぽわぁ〜っとしていたりもするが、その自然体こそが藤井風さんのステージなのだろう。

曲の入り方や曲間のつなぎには、風さんの個性が詰まっていた。ちょっと長めのまばたきでもしようものなら、気付くともう別世界だ。

何か特別な演出がそうさせているわけでもないのだが、場の空気を変えてしまうパワーがある。

このツアーのためにたくさん準備を重ねてきたことは随所から伝わるのに、その時にしか生まれないグルーヴを、演出の一つとして取り込んでしまう。

そして個人的に嬉しかったのは、ギターで参加されているTAIKINGさん。横浜がホームのSuchmosメンバーを横アリで観られるのはとても特別なので、思わず感極まってしまった。

ちなみにTAIKINGさんソロプロジェクトの「Easy」と「VOICE」も、はちゃめちゃにかっこいい。右見ても左見てもシティポップな世の中ですが、そうこれなのだ! と言いたくなるチルだけど今すぎないサウンド。

素晴らしいバンドメンバーと一心同体のステージからは、聴き慣れた楽曲がよりパワフルに、深みを増して届いてくる。

そこに身を任せているだけなのに、良質なグルーヴが全身を駆け巡り、自分の中のいろんな感情と向き合ったりする。

心地良いもどかしさ

前回のライブレポでも、藤井風さんのライブは風さんに会いに行く感覚になると綴ったが、今回のツアーは、まさにそれを強く感じられるのではないかと思う。

例えば2020年の武道館ライブは、配信もあり映像化もされたということで視覚的な印象が強かったし、ホールツアーは音にフォーカスされている印象があった。

そこに来て今回は、藤井風さんのパーソナルな部分をより知ることのできるライブだと思った。ホールツアーとは全然違う雰囲気だけれど、アリーナだからといって急に意気込むわけでもない。

規模の大小は藤井風チームにとってあまり関係なく、届けたいものはいつも同じなのだろうなと。

たくさんの人にチケットが行き渡るためのアリーナツアー。そんな感じがして、依然としてマイペースな彼らを観てどこかホッとするような気持ちと、芯の強さを感じた。

これだけとりまく環境が変化しているのに、風さんの表情はいつも自由で、まったく変わっていない。この先も、きっとずっと変わらないのだろう。それがそのまま音になって現れたようなライブだ。

だからこそ、アリーナなのに心の距離の近さを感じられるし、届きそうな藤井風、いや届かん。という心地良いもどかしさのような何かがある。

特大ディスプレイに映し出される自然体の風さんを観て、やっぱりみんな藤井風とその音楽性を丸ごと好きになって、会場を後にすることになったのではないかと思う。

終演後、あんなに快晴だった空から大粒の雨が落ちてきて、みるみるうちに豪雨になった。

新曲「燃えよ」もリリースされたし、ツアータイトルの頭文字を取って “HEAT” ツアーと名付けられていたし、慈雨のような優しいものではなく、どこか決然とした強さが満ちている気がした。

一音で変わる空気

藤井風さんについての1年日記で私は “5分後に心が豊かになる音楽” が彼の音楽なのだと結論づけた。

ここだけ引用するとちょっと何言ってるか分からないが、きっと観客の数だけ豊かな心は生まれて、1曲ごとに深くなっていくのだと思う。

その新しい感情たちに名前をつけることは難しくて、「素晴らしい」としか言えない自分がもどかしい。

ネタバレなしのレポートは具体的なシーンを描けないし、ユーザビリティを考えれば手っ取り早くセトリを知れた方が親切なのかもしれない。

でも藤井風さんのライブを観ていると、ピアノのたった一音で重さが変わったり、真剣に聴いてたのに急に笑ったりとか、所作の一つでアリーナの空気が本当に一変してしまうことを実感する。

その見えない何かはセットリストに載っておらず、肌で感じた空気や涙の種類を言語化するには、一体どうすれば良いのか。いつもそこでつまずいては、何とか少しずつ表現の方法を探っていく。

藤井風さんの記事を書く時はいつもそんな感じだ。未だ半人前のライターなのでそれは当然なのだけど、とても苦しくとても楽しい。

それは同時に、今まで言語化されてこなかったような音楽を、風さんがつくっているということでもあるのだと思う。

もはや「音楽」という表現の世界だけに留めておくには、領域が小さすぎるのかもしれない。

『HELP EVER ARENA TOUR』は、前人未到のミュージカリティを空間ごと体感できる。そんなプログラムだと感じた。

文/長谷川 チエ


藤井風 公式サイト

Fujii Kaze “ HELP EVER ARENA TOUR ”

2021. 10/2, 3 神奈川・横浜アリーナ
10/16, 17 大阪・大阪城ホール
10/23, 24 福岡・福岡 マリンメッセ
11/11, 12 兵庫・神戸ワールド記念ホール
11/25,27,28 東京・国立代々木競技場第一体育館

▼前回のライブレポはこちら

▼藤井風さんについての1年日記

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!