藤井風さんについて1年間書き続けたライターの日記【2021年版】

今年も藤井風さんの音楽をベースに日記を書きました。

前回はデビュー年だったことや、このサイトでも藤井風さんについて初めて書く記事だったので、風さんを知らない方が読まれることも想定して書きましたが、今回は本当に日記として綴っています。

相変わらず遅筆なライターの、自由気ままな記録です。

今回も、1年後の自分がどんな言葉で締めくくってくれるのか、楽しみにしたいと思います。

2020年12月




『HELP EVER HALL TOUR』〜「旅路」

前回の日記は、2020年12月25日のライブを観に行く直前で終わっている。

藤井風さん初のホールツアーは、コロナの感染者報告もなく無事に終了した。

デビューしてすぐに人気が出るアーティストは見通しを立てづらい。

風さんがぐんぐん人気になっていった頃には、すでにツアーの日程が組まれていたと思うので、会場のキャパシティが少し小さかったのだと思われる(とはいえ、ホールだから伝えられるライブを選択してくれたこともあると思ってる)。

参加できなかった方々に伝えたかったことと、コロナ禍のライブ記録を残そうという思いもあり、レポートを書いた。ただ初日公演だったため、悩み抜いた結果このような形になった。

藤井風『HELP EVER HALL TOUR』ネタバレのないライブレポート

「ネタバレのないライブレポート」はそれ以降も、他のアーティストのライブレポや映画カテゴリーのレビューとして書き続けている。

しかし出す時はいつも「ネタバレしてんじゃん」という指摘がいつか飛んでくるのではないかと、内心ビビりながら公開している。

この時も、「レポートになってない」と言われることを覚悟していたが、優しい方ばかりだった。

「旅路」

『HELP EVER HALL TOUR』のアンコールで、できたての「旅路」を弾き語りしてくれた感動は、「ネタバレのないライブレポート」には書くことができなかった。

それが何となく心残りで、「旅路」がリリースされた3月1日にレビューを書いた。

【藤井風『旅路』】ライブで聴いた日から今日までのレビュー

「旅路」では、初めて連続ドラマの主題歌を担当される。医療ドラマでありながら柔らかく人間模様を描いていた『にじいろカルテ』。

脚本はシンプルだが、主演の高畑充希さんはじめ、キャストの役者人生が物語を仕上げていくような、見ごたえのある作品だった。

「旅路」は出しゃばらずもエンディングに存在感を漂わせ、まるでにじいろの中の一色かのように優しく彩りを与えていた。

リリース日には『報道ステーション』にも出演。生パフォーマンスが反響を呼んだ。なぜだか私まで、1日中そわそわしていた。「旅路」に捧げたような日だったので、自分の1日のスケジュールをnoteにも記録した。

『VIVA LA ROCK 2021』〜「きらり」

5月3日、VIVA LA ROCK 2021』に出演。友人の運営サポートで出向いたので客席からとはいかないが、風さんのステージも少し拝見することができた。

観客はリハーサルからスタンディングで手拍子(ご本人は現れておらず、マイクの声だけが響いている状態だったと思う)。ウェルカムというより前のめりな温度感。

「もうええわ」を1コーラスだったか、しっかりリハを行ったのに、本番ではやらなかった。1曲分おもてなししてもらえたような、ウェルカムドリンク風な感覚。

リリース日に「きらり」を聴けたことはとても貴重な時間だった。新曲なので歌詞も表示してくれていた。映像の使い方も、ワンマン並みに凝っていてかっこよかった。

「キリがないから」の時のノイズっぽいザラザラした感じ。「旅路」の立ったりしゃがんだりするリズムの取り方が斬新(→というメモが出てきた)。

ビバラの開催には賛否さまざまな声が挙がったが、みんなマナーよく鑑賞していたし、音楽ファンにとっては希望のように感じられたフェスだった。

「きらり」

「きらり」は「群衆の中もさらりさらり」など、擬態語で構成されていて面白い。聴覚に由来する擬音語に聞こえてくるような気もする。「最後にゃ笑いたい」の「にゃ」も好き。

なおかつ、それぞれのフレーズが脚韻で繋がっていて、揃えられた文末が美しい。どこか古典的な印象すら与える言い回しと、少し先の未来を感じさせるような現在的なサウンドが、バランスよく高め合っている。

楽曲の解釈に、他人が故郷の話まで持ち出すのは余計なお世話だと思う。それでもこの曲は、岡山から東京に拠点を移した風さんの中で生まれた、新しい視点と発想なのだろうと感じずにはいられない。環境に適応するような力強いパワーを感じる曲だ。

同じく5月には、ちょうど1年前にリリースされた『HELP EVER HURT NEVER』の、初回限定盤特典だった洋楽カバーアルバム『HELP EVER HURT COVER』を発売。ストリーミングでも多くの人が聴ける環境になった。

Culture Cruiseはこの頃から夏に向けて出版部門を立ち上げ、小説『音を書く』をサイト上で連載後、書籍化した。

藤井風さん日記とネタバレのないライブレポートがなければ、生まれていなかったような作品だ。

しかし作品が生まれても、読まれなければ価値は見出されない。風さんの音楽は、届くべき人に届いていく感じがするところがやっぱりすごい。

8月、2017年に風さんがYouTubeに上げたキャロル・キングの名曲「You’ve Got a Friend」のカバー動画を、キャロルご本人と、同じ年にカバーしたジェームス・テイラーがInstagramのストーリーズにUPするという奇跡が起きた。規格外すぎる!

『Fujii Kaze “Free” Live 2021』〜「燃えよ」

9月4日には横浜・日産スタジアムにてフリーライブを開催。YouTubeでライブ配信され、約18万人が同時視聴していたとのこと。

横浜は雨で気温は約20度だったが、風さんは5分袖のTシャツに足元はサンダルという、果てしなく天候を無視した身軽な装い。でもきっとそのラフなスタイルにも、“Free” の願いが込められているのだと思った。

当初の有観客+配信という予定が、無観客で配信のみに変更された。

日産スタジアムの周辺環境を考えると、相当な数の人が殺到していたはずなので、コロナ禍での賢明な判断だったと思う。

鮮やかな芝生の中に、ぽつりと佇む風さん。目立たないように緑色で束ねられ、真っ直ぐに伸びたケーブルに、スタッフの努力が垣間見える。

そこに人の温もりを感じたのか、風さんの心中を察したのか、自分自身のことが重なったのか。所在の知れない涙が流れた。

あの場所に最後に行ったのは、2020年の横浜F・マリノス対鹿島アントラーズの試合を観に行った時だったか。コロナ前はよく足を運んだ。

当然ながらあのトリコロールカラーは、いつもマリノスサポーターが彩ってくれているんだよなぁなどと考える。ひとけのない緑はもはや別の意味合いの壮観さを運んできた。

当初描いていた景色とはまるで違っただろうけれど、「激レアな機会」「今置かれた状況で最大限できることを」と語った風さんは、流れに身を任せるように飄々として見えたので、少し安心した。

「燃えよ」

それにしてもあの時の高揚感は忘れられない。ライブの後、気付いた時にはもう「燃えよ」がデジタルリリースされていて、「うぉーー!」と興奮しながら聴いた。

この曲のイントロを聴くと、あの日、音も立てずに降り続いた雨と高揚した気持ちがフラッシュバックする。

ライブの特設サイトには歌詞のみ先行公開されていたそうなのだが、私はそれをまったく知らなかったので、ライブで一度聴いてすっかり「もうええよ」だと思い込んでいた。巧みな押韻にハマっていた自分が面白い。

きっと始まりはシンプルだった「燃えよ」も、アレンジや映像などさまざまなアプローチから、曲と藤井風さんを高みに押し上げているような、チームワークとしてのクリエイティブ作品だと感じる。




『HELP EVER ARENA TOUR』

泣くつもりなどなかったのに涙が止まらなくて、笑うつもりもなかったのに笑顔になっている。

藤井風さんのライブはいつも感情が分からなくなる。10月2日から始まった『HELP EVER ARENA TOUR』は初日の横浜アリーナ公演を拝見した。

前回のライブとは感じ方が違った。前回は初めてだったこともあるのかもしれないが、その時はホールで、今回はアリーナだったことの違いが大きいのではないかと、自分なりに考えた。

アリーナではアリーナとしての見せ方。それは演出が派手になったとかいうことではなくて、その会場に合った演奏、音の出し方を適切に選択されているというか。

今回も初日公演だったので、ネタバレのないライブレポートがここでも活躍した。

藤井風『HELP EVER ARENA TOUR』@横浜アリーナ ライブレポート

「Higher Love」

さらに11月、藤井風さん初の提供曲、MISIAさんの「Higher Love」がアルバムに先がけてリリースされた。

MISIAさんの伸びやかな声にとてもよく合っている。声の特徴だけでなく、音楽と真摯に向き合うMISIAさんの人間的な魅力まで、芯から捉えているように思う。

風さんはピアノやコーラスでも参加されているそうで、特に後半部分は盛大なクワイアとともによく聴こえてくる。

実力のあるシンガーへの楽曲提供は難しさもあるとは思うけれど、こんな風にハイレベルに歌いこなしてもらえたら、曲がいつまでも生き続ける喜びを味わえるのだろうな。

「Higher Love」と「明日へ」のTHE FIRST TAKEも素晴らしい。

命を削ってできているのが創作だと思っていたけれど、MISIAさんの歌はまさに命そのもの、身を捧げているのが伝わってくる。

https://twitter.com/CultureCruise/statuses/1470366994407264261

気ままで楽しそうな撮影風景を見て、安心した12月。

紅白歌合戦出場のニュースも入ってきた。また話題になりそうだし、いよいよ本当に、まだ知らなかった人たちにも届きそうだ。

想像以上に「踊る人」である藤井風さんの2021年は、私の目には「躍動」として映った。

あとがき

自分の1年を振り返ってみると、現状維持どころか後退しているのではないか。毎年こんなことを言っている気もするので、どんどん下がっているかもしれない。

焦りというより、自分に対する無気力な諦念のようなものに占拠されることがある。

もし後退していたとしても、視線を前に向けてさえいれば、その場に立ち続けることはできる。正直今はそう考えるのが精一杯だ。

でもコロナ禍でこの仕事を続けていられただけで、ありがたいことだと思いたい。

9月のフリーライブの時に書き留めたことが、12月の自分の中にスッと入って咀嚼できた。自分の言葉に勇気づけられているくらいなら、まだ大丈夫なのかもしれない。

たくさんの方に読んでもらいたいと思っても、特段書き方が変わるわけでもない。

ならばこの長文を読んで下さった1人に向けて、私も書き続けたいと思う。1人のためになら、もう少し頑張れそうだ。

目の前にいるのが1人でも、18万人でも、彼の奏で方はきっと変わらない。だから有観客でも無観客でも、私たちが受け取る音楽はきっと同じだ。

状況や環境が変わろうと、結果的には18万人に特等席を与え、18万人を笑顔にさせるのが藤井風さんの魅力だ。

2021年も大変な年になる。でも楽しいこともたくさん待っているから、前を向いて書き続けよと、2020年の自分にエールを送りたい。

2021年12月 長谷川 チエ

▼前回の日記はこちら

▼ネタバレのないライブレポート@横浜アリーナ

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!