映画レビュー『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”』

嵐のライブフィルム『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”』の感想をまとめました。例によってネタバレのないライブレポート形式で、セットリストには触れずに書きました。




『ARASHI Anniversary Tour 5×20』

「映画1本を作るために、なぜわざわざコンサートが行われたのか。これだけのツアーを回るのだから、どこかの公演でカメラを入れて収録するのではだめだったのか。」

この映画の詳細を知った時、最初にこんな疑問がわいた。

2018年11月〜2019年12月の1年以上に渡る全50公演、1つのツアーとしては日本史上最大の累計237万人を動員したという『ARASHI Anniversary Tour 5×20』。

本作はこのツアー中だった2019年12月23日に、東京ドームで行われた1日限りのシューティングライブで構成されている。

実際に5万2000人の観客も収容されたが、何の撮影かは知らされず、また映画の撮影ではあっても途中でカットなども行わずに通常のコンサートの要領で進行したという。

『ピカ☆ンチ』シリーズの堤幸彦監督を中心に、撮影には嵐と関わりの深いスタッフ陣が名を連ねている。

結成日の9月15日に発表、デビュー日の11月3日にドルビーシネマ限定で先行公開、そして全国公開の11月26日は大野さんのお誕生日というメモリアルな作品。

まず本作が、普通のライブフィルムとして捉えられてしまうには惜しい気がする。

では何なのかと考えると、ライブビューイング、有観客ライブの配信、ドキュメンタリー映画。そのどれでもないし、全部でもある。

スクリーンに映るライブがただのライブではなくなる感覚としては、Perfumeの『Reframe THEATER EXPERIENCE with you』を観た時に近いのだが、それとも違う。

何かに例えるのが難しい。それくらい新しい音楽映画だと感じた。

観ようか迷っている方の背中を押すかもしれない情報

https://twitter.com/CultureCruise/status/1468922613292433408

もし観ようか迷っている方がいらっしゃれば、もしかしたら背中を押せるかもしれないことを書きます。

私自身はいろいろな縁もあってデビュー前から応援しているし、メンバー云く「空席が目立っていた」頃のコンサートも拝見したけれど、勝手に時間が経っただけで古参というつもりもない。おそらく嵐でなくても、ライブ映画として観に行っていたと思う。

3,300円という特別料金について

この金額にためらう気持ちは理解できる。しかし今や配信ライブでもそれ以上の金額だったりする。劇場でライブ映像が観られるという点だけでも十分価値があると思う。

もしこの映画が5,000円以上に設定されていたとしても、「あれだけの特効使ってればそうなるよな」と納得していたと思うし、それでも観に行っただろうし、後悔していなかったと言える。

映像も音響も、下手したらその場にいるよりも好環境で楽しめる。エンターテインメント作品としてすごい。

今まで嵐に興味を持たなかった全国の人々までも、突然この規模で嵐を体感できるのかと考えると、とても画期的なことだと思っている。

カメラに注目してほしい

導入されたカメラの数は125台で、ドームレベルの撮影でもここまでの規模は聞いたことがない。

もちろん数が多ければ良いわけでもないが、鮮やかなスイッチングや一瞬も逃さないカメラワークはきっとその成果で、この作品の見どころでもあると感じた。

バチバチ切り替わるのにスタッフさんが全然見切れていないし(しかもほぼすべてのカメラが有人だという)、普通では実現できない画角と距離で切り込んでいく。

レンズが捉える5人の表情はとても柔らかくて、嵐は撮られるのもこんなに上手いのかと思い知らされる。

それと同時に、映像は撮る人と撮られる人の信頼関係も映し出す。カメラマンも嵐と関わりの深い方々が名を連ねているそうだ。

嵐のあの表情をとらえることができたのは、スタッフにもまた同じだけの歳月が流れていて、キャリアを積んできたからこそなのだと、想像はふくらんでいく。

セットリストについて

誰もが聴いたことのある曲が目白押しの神セトリではあるが、もしも知らなくてもすべて良い曲なので心配はいらないと思う。

曲ができる背景はバラバラだが、そもそも嵐ほどのスーパースターの場合、コンペを勝ち抜いた楽曲たちは、練られに練られていて超優秀なのだ。

流れる曲のすべてが、ダイナミックで美しい。音を聴いているだけでも最高のエンターテインメントを浴びることができる。

相当な数の作家さん、エンジニアさんが関わっているのに、全部が「嵐の曲」として統一されるのもこのグループのすごいところだと思った。

どの方面においても技術の結集なので、これをファンだけで楽しむのはもったいない! と思ってこの記事を書いています。




メンタル編

ここからはもう少し心の内部に迫ってみたいと思う。もしかすると私は、上映開始から最速で泣いた自分記録を更新したかもしれなかった。

1曲目から「あれ? 泣いてるのか自分」となったのだ。マスクをしているせいだろうか、流れる涙の感覚がない。あまりにも自然に流れるので、自分でも気付いていないようだった。

活動休止中でなければこんなに泣かなかったと思うが、この姿を今は観ることができないと思うと、何でもないシーンが愛おしくて、完全に涙腺がおかしかった。

しかし周りの目を気にせずにいられるのが、映画の良いところなのだ。誰かが言っていた。「劇場は観客の涙を隠すために暗いのだ」と。違うと思うけど、そうだと思う。

何より、声もあげずに最後まで着席キープの形状記憶だった我ら自身を讃えようじゃないか。私はけっこう揺れてましたけども。

嵐はその日その場所でしか出会えないお客さんのことも大切にしていたし、カメラを忘れる瞬間もきっとなかったと思う。それなのにあんなに自然体でいられるのは、選ばれしスターにしかできない立居振る舞いだ。

会場にいたお客さんも、楽しみつつも撮影であることをずっと意識されていただろうし、だからこそ生まれた一体感だったのだと思う。

観客の方々は何に使われるのか明かされないまま撮影を迎え、約2年もあれが何だったのか分からずに過ごしていたわけなのだ。

そう思うと受け入れ具合も柔軟すぎるし、序盤は「幸運な人たちだなー」とか思って観ていたけれど、それがリスペクトに変わった。「詳細は分からないけど良いもの作ろう」というファンとしてのプロ意識がすごいのだ。

さらに印象的だったのは、5人の柔らかな表情だった。いつも以上に笑顔だったのは、活動休止を発表した後、ファンを不安にさせまいという思いがあったのかもしれない。それだけで泣けてくる。

活動休止発表後は、笑顔が増えたなと感じていた。本作で映し出されているのは、何かから解き放たれ、それでも前を向く人たちの素顔なのだと思った。

メイキングもMCもほとんどない。つまりほぼオンステージのみで、選択した道までも理解できる。もう大きく見せたり、かっこつけたりする必要などないのだろう。

かっこつけないことが、何よりもかっこいい人たちだ。この20年で、嵐はそうやって空気を纏ってきたのだと気付いた。

彼らがあの表情になれるのならば、彼らの選択が決して悪い方向に行くことはないだろうと思う。

現に、活動を休止してから約1年、その答えが世の中にも出てきているような気がする。そして嵐の存在の大きさを、まざまざと見せつけられている2021年、年の暮れである。

ゼロ距離で観る5×20

曲ごとにメンバーそれぞれが際立つ演出がされているのも、5×20というテーマに良く合っていて、個性の素晴らしさを実感する。

相葉さんが笑えばこちらも笑顔になるし、涙ぐんだら泣いてしまう。まるで観客の心と連動しているような素直さにとても救われた。映画館を出てからも、日をまたいでもずっと続いているのは、そこに嘘がないからだと思う。

来る日も来る日も、夜が明けるまで演出を考え抜く松本さんには、少しでも多くのピンスポットが当たって輝いてほしいと願わずにはいられない。かっこよく映ってほしいし、実際にそうであることが心から嬉しい。

二宮さんの屈託のない笑顔は特に印象的で涙を誘った。出演作のほとんどを映画館で観るくらい大好きな役者さんなのに、歌う時は不思議とそれが頭をよぎらない。その理由が分からないのが、面白くてまた好きになる。

大野さんのヴォーカルとダンスがすごい…のは言うまでもないが、変顔して抜きを作ったりするのが職人の域。それがまた周囲の信頼を引き寄せ、文字どおり嵐の心臓を動かしているなと思う。きっと休止中の現在もそうなのだと思う。

櫻井さんは「clap your hands!」と言われても観客がポカンとする20年前から、コール&レスポンスを諦めずに届けて今の形を作ってくれた。私が嵐のコンサートに行けたのは、当時のHIPHOPカルチャーを根本から理解して取り込んでいて、これなら観に行けると思ったからだった。

周りを見渡すと、意味を理解している人は少数だったと思う。異色すぎてファンにすらディスられ、それでもやめなかった。コンサートの定番曲になった「a Day in Our Life」のコール&レスポンスは、5人が諦めなかった歴史だと思っている。


「そもそもなぜ、映画1本を作るためにコンサートが行われたのか」と抱いた最初の疑問は、すぐに解決された。

125台のカメラがドーム空間すべてを覆い尽くす。劇場にいる私たちはその全景を望むことができた。壮観だった。

その一方で、スクリーンいっぱいにあふれる5人の笑顔を、ゼロ距離で観ることもできた。それは特等席という垣根すら飛び越えて、まるでステージにいるかのような感覚。

「そうか、嵐は私たちを、ステージに招待してくれたのだ」と思った瞬間、涙がとめどなく溢れた。

空席の目立つコンサートから、いつしか日本でもっともチケットの取れないグループになった嵐が用意してくれたその場所は、あまりにも美しかった。

「この場所を守っておいてあげたい」と思った。

文 / 長谷川 チエ

『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”』公式サイト


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ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!