ブルーノ・マーズ制作「Whenever You Call」を聴いて嵐に送るメッセージ

嵐が2020年9月にリリースした「Whenever You Call」のレビューです。聴く度に印象深くなっていったこの曲について、紐解いてみたいと思います。


「Whenever You Call」

ブルーノ・マーズとD’Mileによって制作された「Whenever You Call」。

ブルーノの楽曲提供ということもあり、アッパーな感じかと勝手に想像していたので、最初は実際の曲調以上にシンプルに聴こえた。

都会的な仕上がりのMVは、シックで落ち着いているのに煌びやかな作品。黒とゴールドを基調として、イントロとアウトロ、曲中にも一瞬映る東京タワーの赤が美しく映えている。

とてもシンプルですが、このステージでこのようなパフォーマンスや身のこなしができることが、とにかく素晴らしいではないですか!

リリックは全編英詞となっており、デモはブルーノ本人のボーカルによるもの。ブルーノはボーカルディレクションも行なったとのこと。

発音もそうだけれど、アクセントの置き方にかなり気を遣われたのではないかと想像できる。音の抜き方、ブレスの入れ方までもがサウンドデザインに組み込まれているような印象。

そうなるとレコーディングはさぞ大変だっただろうと思うけれど、Aメロの瞬間からその努力が伝わってくる。

メロウな中にも爽やかさを残したR&Bにも好感が持てる。

ブルーノはファンクベースのアッパーなイメージも強い一方で、ミドルテンポや情感を持たせたバラードも、甲乙つけがたいほど丁寧で上手い。

ブルーノ自身の楽曲でも「Just The Way You Are」や「When I Was Your Man」「Versace on the Floor」など、美しい名曲がたくさんある。

ブルーノ・マーズからの楽曲提供であろうと「Whenever You Call」は嵐の曲でなければならず、その点ではこれまでと違う表現の難しさがあったのではないかと思う。

しかし表現者として、この5人はデビューからずっと“嵐に尽くしてきた5人”であり、それがいかに真摯で強固なものだったか、MVを観ていると伝わってくる。

端々に感じるそんな姿勢が、この楽曲を5人のものにしている気がするし、BPM90の多感な余白も埋めている。

楽曲やパフォーマンスの素晴らしさもさることながら、この曲を魅力的にしているのは、佇まいや空気感や、誰も言葉にできなかったような5人の20年間なのではないかと感じている。

それをすべて言葉にしようとしているこのレビューは、ものすごく無謀なことをしているのかもしれない。

世界へのアプローチを感じるMIX

さらに「Whenever You Call」からは、空間系のエフェクトがかなり効いている印象を受けた。

リバーブを効果的に使用するボーカルは世界的にはスタンダードで、分かりやすいのはThe Weekndや、ここ数年のMaroon5のような感じ。

これまでのJ-POPは声質そのものをクリアにさせることが多く、特に嵐のようなポップス主体のグループであればなおさらだった。

しかし今回の「Whenever You Call」はエフェクトが大胆に効いていて、今までとは根本から方向性が異なる。

その効果として残響がより深く長く続き、洗練されたシンセサウンドの奥にはアンビエントの雰囲気も漂っている。

これまでの嵐の楽曲と比べても、音数は少ないのに奥行きや広がりが感じられる。楽曲全体のクオリティを上げるというエンジニアリングの概念こそが、この曲の挑戦であり新しさではないかと感じた。

ちなみに嵐の過去曲のアレンジやMIXに注目すると、2002年の「ALL or NOTHING」は完成度も高く、サクラップの最高傑作(の一つ)だとも思っている。

アルバム『How’s It going?』の「身長差のない恋人」も秀逸だし、このアルバムは名盤です。水色のCD持ってます。

「We Can Make It!」や「復活Love」はレンジのバランスが良いし、「I’ll Be There」はダイナミックに展開する。

「Bittersweet」はボーカルチョップが左右から聴こえるギミックを散りばめつつも、聴きやすさとの両立が実現されている。

このような感じで改めて「Whenever You Call」を聴いてみると、やはりタイプの違いが分かる。世界に向けて発信されているというか。

素直なJ-POPの方が好きだというリスナーもいるでしょうし、どちらが良いというわけではないけれど、幅が広がった印象を受けるし、5人のボーカルもこのサウンドに合っていると感じた。

2019年からの嵐さん

嵐は長年に渡って海外からも愛され続けているけれど、ここ数年は特に世界を意識されている。活動休止に際し、フィールドを広げることを旗印に掲げているそうだ。

Netflixでドキュメンタリーがスタートしたり、サブスクの解禁、SNSの公式アカウントやYouTubeチャンネルの立ち上げなど。日々のコメントも日本語と英語で発信するなど、細かな気遣いと意向が感じられる。

これは、今後ジャニーズ事務所の後輩グループも、同じように世界を意識するようになるだろうということも予想できる。

松本さんが実際にアメリカに出向き、ご自身の肌で感じたことがそのまま音楽性にも反映されており、楽曲では「Turning Up」あたりから、視野が広がった印象がある。

「Turning Up」は、英語を軸にしたサビに発信力を感じる。1サビに登場する日本語は “ポケットには”と、“世界中に放て”の2フレーズしかなく、2サビには日本語が出てこない。

英語のリズムとグルーヴ感が最重視され、ボーダレスに言葉が織り交ぜられている。実験的要素も大きかったと思うけれど、それを感じさせないのが嵐のエンタメ力のすごいところだと舌を巻き続けて20年。

そして英詞メインに再録されたRebornシリーズや「IN THE SUMMER」などをリリース。

この曲も、少ない音数でも空間の広がりを感じるトロピカルハウスに仕上がっている。

2020年は、世界情勢を鑑みてリリースの変更などもあったそうで、東京オリンピックの延期にも影響を受けたはずなのに、そんなことも感じさせずに5人は走り続けている。

コロナ禍で配信してくれたリモート紙芝居の動画にはたくさん癒されて救われました。あの時はありがとうございました!!

嵐が大好きな一般人枠(強火)として

特にここ最近のグローバルな活動を見ていると、ここで休止してしまうのが惜しいと感じるほど、目覚ましい活躍が続いている嵐さん。

けれど、その節目がなければ「Whenever You Call」も生まれなかったかもしれないし、有限な中でしか作られないもの、感じられないことがあるのだと気付かされる。

ブルーノは、グループでの活動を休止する嵐の状況を踏まえ、彼らとファンを結ぶ曲になるよう、D’Mileと制作に当たったという。

私ごとで恐縮ですが、嵐ファンと豪語するにはおこがましいので、そうですね…自然に好き、大好きなんですよ。

大野さんは地元同じだし同世代なので何なら部活でお会いことあるし二宮さんは誕生日同じだし木更津キャッツアイのグッズめっちゃ持ってるし嵐の映画はいつも映画館で観るしデビュー前から応援してる…ずっと変わらずに嵐のことが大好きな一般人枠に属しているつもりです(めっちゃ好きかも)。

ここまで強火ではないにしても、嵐が自然に好きな人たちは世の中にたくさんいるはず。

それに加えて、ファンの方はどんな気持ちでこの曲を聴いているのだろうと思いを馳せると「離れていても大丈夫。いつでも、どんな時でも駆けつけるから心配しないでね」というこの歌詞がより一層胸に響く。

ここまで聴き込むと涙があふれる、どころか気付くと号泣している。最初に聴いたシンプルな感情から、こんなに発展するとは思いもよらなかった。

最後に、この記事を締めくくるにあたってもう一度だけ聴いてみて感じたのは、ファンの方の嵐に対する気持ちも、この歌詞と同じなのではないかということだった。

ファンからの「心配しないでね」っていう愛も、嵐に届いてくれたら素敵だなって。

たった5人で多くの人を笑顔にしてきた嵐には、この曲を歌ったり聴いたりする度に、与えた以上の大きな愛が還元されてほしいと思った。

残りの活動期間を楽しみながら、その後はどんな形であろうとも、5人らしく笑顔で過ごしてほしい。

だから私はリスナーとして、聴いた分だけ “You don’t have to worry”というこの曲のメッセージを、嵐さんにお返ししたい。自然とそんな気持ちになっていました。

文 / 長谷川 チエ

嵐 公式サイト


▼ブルーノ・マーズ 2018年来日公演 ライブレポート

▼嵐のライブフィルム レビュー




ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!