今市隆二「Thank you」で感じる、アーティストが命をかけたライフワーク

ソロシングル第3弾!三代目 J Soul Brothersの今市隆二さんがブライアン・マックナイトと共作した「Thank you」についてのレビューを綴りました。

以下、本文より抜粋です。
ーーこんなに覚悟を決めて、命を削って作品を届けてくれる今市さんの姿を見て、私も全身全霊で向き合って書こう、そう決意してこの記事を書き始めました。
だからまた泣いている。でも、泣くほどの思いで書かなければ人の心には伝わらない、そう思うように変化しました。ーー

メイン画像出典 :「Thank you」公式YouTube動画

1番〜2番へのコントラスト効果

3ヶ月連続配信の3作目は、作詞:Ryuji Imaichi、Brian Mcknight、作曲:Brian Mcknightという構成。まず前奏を聴いた瞬間、映画のエンドロールのようだと直感で思いました。

スペクタクル作品として見応えのあるMVだった「ONE DAY」「Angel」に続いて、出演者は今市さんのみというシンプルの極みのようなMVに仕上げたところがとても粋です。

何でしょうこのスタイルの良さ。私は、何があったの?ってくらい破れてるTシャツ姿の今市さんが好きです〜。

レコードマニアな私などは、こういう曲こそレコードで聴きたくなっちゃいますね。プツプツと針の音が聴こえる感じとか、素敵ではありませんか!

1番はとにかく歌とピアノ、そして少しのストリングスで勝負。シンプルにしっとりと歌い上げています。そこに対比するように2番では、ピアノに変わってバンド演奏が加わります。アレンジやコーラスも意外と入っていますね。

前半だけだと単調だし、かといって後半のように終始盛り上がってても壮大すぎるし。両方の対比があってこその曲です。

シンプルな1番ではまっすぐな思いを歌い、だからこそ2番の豊かさが心に深く届く。さらに2度の転調でよりドラマティックに聴こえる。シンプルな楽曲なので、ここがかなりのポイントになっています。

よくある現象で、甘いものの後に酸っぱいものを食べるとより酸っぱく感じることがあります。
心理学でも実際の効果より大きく感じるシチュエーションというのが多々あって、これを「コントラスト効果(対比効果)」と言います。

一方の存在によってもう一方の存在を強く感じるという現象で、あれに似てるなと思うんです、こういう展開の曲聴くと。どちらの良さも引き立っています。

この曲展開はバラードでは決して珍しくないスタンダードですが、最近では音をひたすら重ねて分厚くしていく音楽が主流なので、こういったシンプルな曲調はかえって新鮮に聴こえます。

私はハモリの美しいメロディラインが好きで、コーラス部分をたどって聴くのが好きです。普段なら登坂さんのコーラスが重なるところですが、100%今市さんの声で楽しむというのもまた聴きどころですよね。と言いつつ、登坂さんとのハーモニーも恋しくなったりしちゃって。

すべて生演奏で録音したということで、演奏に関わった方々も今市さんの本気の思いをくみ取っているように聴こえて、音色が柔らかくて、心の棘がスーッと抜けていくような感覚です。

ブライアンもものすごく優しさにあふれた人柄なので、もう優しい人たちが作った歌という感じで、そういう人たちが曲を作るとこんな風になるんですね。一つ一つの音が何かを語りかけるようで、優しい気持ちになります。

ONE DAYとの比較

『「LOVE or NOT♪」でソロ曲を熱唱した今市隆二さんが最高だった話』の記事でも触れたのですが、歌い方は技術を全面に押し出すのではなく、とにかく気持ちを素直に伝える、これに尽きると思います。技術的なことはむしろ封印しているような印象すら受けます。

「ONE DAY」と比較すると分かりやすいのですが、実に優しく、肩の力を抜いて歌っていたのではないかなーと。タイトルどおりのまっすぐな思いが、メロディに乗せられてリスナーまで届くような感覚です。

「ONE DAY」も声で勝負するシンプルな楽曲ですが、また別のシンプルさが際立っていて、例えるなら「ONE DAY」はアーティスト、「Thank you」はシンガーとして勝負しているようなイメージでしょうか。

アレンジの世界では “ドライ”とか “ウェット”という表現をしますが、「ONE DAY」は意外とウェット、それに対してこの曲はドライです。リバーブにも頼らず、今市さんの声質がきれいに際立っていますね。アレンジャーのPOCHIさんナイスです!!今市さん特有のしゃくり(徐々に音程を合わせる歌い方)などの節回しも効果的に響いています。

「ONE DAY」や「Angel」は “挑戦”や “勝負”、そして「Thank you」は “覚悟”、その気持ちを象徴するような曲だと受け取っています。

この配信された3曲のバランスも良い流れで、どれが欠けてもそれぞれの特色とこの3ヶ月は成り立たなかったかなと思います。製作陣にも非常に恵まれたプロジェクトですね。それも、今市さんがこういうことやりたい!って常々意思表示していたことで引き寄せた結果ですよね。

ラブソングになりかけるも、ブライアンと共作するからには一生歌っていけるような、心の核を表した歌にしたかったのでこの曲ができたと話していましたが、それも賢明な判断だと思いました(でもいつかラブソングもお願いしますブライアンさん)。

J-WAVEライブの音源を聴いた時は、若干単調かなという思いがあったものの、シンプルに思いを伝えるという意味では華美にする必要もなくて、聴いてみると今市さんのコーラスが楽器の一部となって効果的に響いているんですよね。息づかいまでもがアレンジの一つになるような。

ブライアンと共作すると聞いた時点で、シンプルに勝負するというメッセージ性を受け取ったようなものでした。

全国武者修行の旅に出た

今回のソロプロジェクトで私がいたく感動したのは、今市さんが全国を駆け巡ってPR活動をしたことです。

今市さんはソロで全国のテレビ局やラジオ局を回っていて、キーステーションではなくてローカル放送の番組を回っているところがまた素晴らしいのです。その数は…毎日チェックしきれないくらい!公開録音なんかもあり、全国に今市特需を巻き起こしたのではないでしょうか。

すでにスターダムにのし上がっている人が、こんなに丁寧に全国を、しかも1人で回るなんて(もちろんスタッフは一緒だけど)通常はあり得ないことです。スタッフも提案すらしないことだと思うので、ご自身で希望して実現したのでしょうか。

本当に頭が下がる…私が彼の立場だったらと考えると、絶対にやっていないはず。早起きも大変だし面倒だし、そこまでしなくたって、デジタル(今回のシングルはすべて配信限定)で買ってくれる世代にはすでに名前も知られてるから必要ない…とすら考えてしまうかも。

「ソロとしてはまだ新人なので」と何度も口にしていたので、一から始める気持ちで臨んだのですね。「初心を忘れたくない」という強い思いもあるのではないかと思います。

グループではスケジュール面でも不可能なことですし、これもソロならではの良い企画ですよね。

ラジオはradikoのプレミアムプランで聴けるとして、テレビは一部の地域でしか観られないのはデメリットではありますが、普段首都圏だけしか恩恵を授かれないことも多々あるので、こういう機会があっても良いのではないかと思います。

当然なんですけど、全国には地元を支えているローカル局がこんなにたくさんあって、低予算の中で(失礼)みんな毎日頑張っているんだなーなんて気持ちになり。

そこにスターオーラ全開の今市さんが来てくれて、でも全然腰が低くて、お互いに恐縮、ペコペコ…ってパターンまで想像すると、なんかいろいろ、いろいろとすごいですよね。


命を削って作品を創るというライフワーク

私ごとも交えていて恐縮なのですが、この曲のレビューを書くにあたり、「ONE DAY」の記事がずっと引っかかっていました。

「ONE DAY」には私自身とても胸を打たれて、ライターとしての今の力を出しきった作品(記事)で、それを超えることはできないという思いがあるのです。

良いものができるとそれが基準値となって、どんどん超えるのが困難になっていく…先に進むのが怖くなる…もしかしてそれは、アーティストも同じかもしれない。

それでも、こんなに覚悟を決めて、命を削って作品を届けてくれる今市さんの姿を見て、私も全身全霊で向き合って記事を書こうと決意し、この記事を書き始めました。

だからまた泣いている。でも、泣くほどの思いで書かなければ人の心には伝わらない、そう思うように変化しました。それを気付かせてくれた今市さんは、やはり私にとって道しるべのような存在です。

「命尽きるまでこの声を」なんて、相当な覚悟がなければ歌にできることじゃないですよね。命がけで挑んでいる人の姿が、人の心を打たないわけがないんです。アーティストが本気で歌った曲なら、リスナーもリスペクトして聴きたいなと思います。

だから私はとにかくこの曲をリピートして、深いところに到達して感じ取るまでひたすら聴き続けました。

イヤホンをしたり、ヘッドフォンで聴いてみたり、外に出たり家の中で聴いたり…時にはもう、耳がちぎれてもぶっ壊れてもいいという思いで、ボリュームを何段階も上げてみたり(※適正な音量で聴きましょう)。マインドフルネスの状態を貫いていると、曲の表情が変わってきて文章が思い浮かんだりするんです。

そうして聴いていると、この曲は強いメッセージ性を持っているのに、決してたくさんの言葉が詰め込まれているわけではないことに気付きます。

研ぎ澄まされた言葉たちだけで、ここまで自分の決意を伝えてくれていたのですね、今市さんは。言葉数が多ければその分伝わるということでもないわけで、勉強になります師匠…。

今市さんに限らずですが、輝きの裏にはその何倍もの努力を重ねていて、大切な何かを犠牲にしている現実がある。人気があれば苦労も大きいはずです。それでも、アーティストは日々成長している。

今市さんにとっての人生をかけたライフワーク。それがシンガーという職業であり、どんなに名曲が生まれてもまた努力して、次なる名曲を紡ぎ出していく。

その体当たりのすべてを感じさせてくれる「Thank you」は、彼と彼を支える人々を繋げる約束の歌。私もライフワークとなるような、誰かの心を動かすような素晴らしい記事をたくさん書いていきたいと教えられました。

こちらこそありがとうなのにと、ファンの方ならきっとみんなそう感じていると思うのですが、今市さんは頑なに、すべての人に感謝を歌い、伝え続けていくのでしょう。そんな “ありがとうの連鎖” が続いていくのかと思うと、それだけで泣けてくる…

そんな確固たる絆を体現する「Thank you」は、必ずや愛され続ける普遍的名曲となることを確信しています。

文 : 長谷川 チエ(@Hase_Chie

 


↓こちらの記事では「Thank you」のスタジオライブについて綴っています。

「LOVE or NOT♪」でソロ曲を熱唱した今市隆二さんが最高だった話

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!