【ブライアン・マックナイト名曲集】変わりゆく変わらないものとは?

ブラック・ミュージックはしばしば「The changing same」(変わりゆく変わらないもの)と表現される。時代の色を柔軟に感じ取りながら変化し、同時に守り続ける音があるということ。枠にはまらない自由度の高さがR&Bの魅力であり、かつ伝統を受け継ぐというミッションを与えられている。

そんなR&Bバラード界を長きに渡り支えてきた立役者、ブライアン・マックナイトの楽曲を振り返ります。


世界的R&Bシンガーになるまで

1969年、ニューヨーク州生まれ。ブライアン・マックナイトは5人兄弟の末っ子として、音楽一家で育ちました。幼少期から音楽に触れる機会は多かったものの、ピアノやギター、ベースなど様々な楽器を習得したのは高校時代だといいます。

デビュー前は様々なレーベルに手当たり次第デモテープを送り続け、1992年、晴れてマーキュリー・レコード傘下のウィング・レコーズからデビューを果たします。これまでグラミー賞16部門にノミネートされた経歴を持つ世界的なR&Bシンガーソングライターであり、音楽プロデューサーとしても活躍しています。

さらに、コーラスグループ「TAKE6」のメンバーであるクロード・マックナイトは7歳年上のお兄さんで、彼もまた素晴らしい歌声の持ち主です。ちなみに2人とも190cm以上の長身で、フレンドリーな性格の兄弟として知られています。

日本でもBillboard Liveなどでのライブを通して、定期的に来日しているブライアン。

最近の活動では、三代目 J Soul Brothersの今市隆二さんが2018年3月にリリースしたデジタルシングル「Thank you」のプロデュースを手がける他、アルバムでは「 LOVE HURTS」にシンガーとしても参加し、コラボを果たしています。

今市さんはもっとも敬愛するブライアンの自宅にホームステイをして、自身のミュージカリティを学びながら、この曲を共作したそうです。

今回は、ブライアン・マックナイトの代表曲を巡る航海の旅! 彼の曲を辿っていけばR&Bの歴史が分かる、と言っても過言ではないほどの名曲がたくさんあります。掘り下げるほどに奥深さを感じることができるはずです。

「One Last cry」(1992年)

今市さんも衝撃を受けたというR&Bバラード。すれ違ってしまった恋人に対しての思いが切なく綴られているのですが、シンプルなのに内に秘めた情熱がひしと伝わるソウルフルな楽曲です。

R&Bの黄金期とも言える90年代トラディションの先がけ的楽曲であり、ブライアンもまた、そんなシンガーの1人です。

R&Bは流行がないように思われがちですが、かなり変化を伴うジャンルです。

特に黒人のR&Bシンガーは、歌が上手いことを大前提として高いレベルを求められる世界なので、プラスの何かがないと絶対に生き残っていけません。

そんな中でブライアンはずっと第一線で活躍していて、何がそうさせているのか?と考えると、ソウルフルな歌声は常に強さとしなやかさを増しているし、一つ一つの楽曲を大切にしながら、真摯に向き合っている気がするのです。曲に対する愛情を感じます。

「Back At One」(1999年)

言わずと知れたブライアンの代表曲!R&Bの指針となるようなスタンダードであり、この時代のミュージックシーンを映し出している名曲です。

定番ではありますが、今聴くとやっぱりすごいですね。この曲もとってもシンプルなのですが、しっかりとインパクトを残しています。

(2018年12月2日追記):ブライアン・マックナイトは来日を果たし、今市隆二さんがさいたまスーパーアリーナで行なったソロライブにゲスト出演されました。そのステージで2人で歌われていたのがこの曲。

リスペクトし合うお二人の素敵なステージに涙が止まらなかったです…リリースから約20年。大好きな曲を大好きなお二人が歌ってくれて、「Back At One」が筆者にとってもさらに特別な歌になりました

「Let Me Love You」(2002年)

21世紀に突入し、ミュージックシーンも大きな転換期を迎えましたが、ブライアンはブライアンらしさを失いませんでした。

90年代の余韻と2000年代の新しさを織り交ぜたような、都会的で洗練されたかっこよさが加わり、むしろパワーアップしています。この感覚は天才としか言いようがありません。ブライアンの声も曲も、深みを増しているのが分かります。

All Night Long ft.Nelly(2003年)

ヒップホップアーティストのNELLYとも共演。この2人の共演ということで当時の私も非常に興奮しました。ブライアンもこういう曲調いけるんですね!しかもご自身で作詞作曲を手がけています。

NELLYのラップは冴え渡るというほどでもなくおとなしめですが、お互いの良さを引き立てるためにリスペクトし合って、均衡点を見つけたという印象も。

ブライアンは積極的にヒップホップとの融合も試しており、maseなどともコラボしています。

ブライアン・マックナイトは自身の歌を歌い上げることはもちろん、他のアーティストとコラボし(青山テルマさんともコラボしたことがあるそう)、相手を引き立てることも器用にこなすシンガーだと感じています。↓例えばこんな感じ。

Whenever You Call – Mariah Carey, Brian McKnight(1998年)

元々はマライア・キャリーのソロ曲としてリリースされましたが、新たにデュエットソングとして生まれ変わりました。いつまでも受け続けたいほどの2人の美声による洗礼!マライアは黒人シンガーの声にも自然に溶け込みますよね。

Forever(2016年)

そして、時代は移り変わり2016年。ブライアンは自分がすべきことをよく分かっているなぁとつくづく感心しました。

現代の技術では、音自体を今っぽく仕上げようと思えば意外と簡単にできてしまうものですが、決してそこに頼りすぎず、ブライアンらしい音を理解して貫いているところが支持されるのではないかと思うのです。

Strut(2016年)

2016年にリリースされたアルバム「better」のオープニングトラック。どの時代に聴いてもかっこよくて古さを感じない素晴らしさがあります。

音の使い方や円熟したボーカルなど、どんなR&Bファンも満足させる魅力を持った曲ではないでしょうか?

LOVE HURTS – RYUJI IMAICHI feat. Brian McKnight(2018年)

三代目JSBの今市隆二さんが2018年にリリースしたソロアルバム『LIGHT>DARKNESS』の収録曲。プロデュースに加え、自身も客演として参加しています。

ファンから見ても、本当のファミリーのように強い絆を持つお二人。信頼関係の中から生まれた楽曲であることが伝わります。

R&Bを愛するお二人が、国も年齢も言葉も超えて、こうして素晴らしい曲を届けてくれたことに、感謝せずにはいられません。

“The changing same” を求めて

歌声は成熟度を増しつつも、伝統を守り、進化する。ブライアン・マックナイトはそれをごく自然に表現しています。

そういう試みをするアーティストはもちろんたくさんいるのですが、今っぽくなり過ぎても「変わってしまった」とファンは離れて行く、古ければても時代遅れだと飽きられる。そんな過酷な世界での成功例と言えるでしょう。

もちろん本人の努力だけでは限界があり、周りのアーティストや製作陣との関係性、リスペクトし合うことも大切な要因だと思うのです。そこからコラボが実現することも多いですよね。

ブライアンの場合はその優しい人柄や音楽を愛する心が歌声にも表れ、それこそが多くのファン(業界内のファンも多い)を惹きつける理由なのではないでしょうか。

柔道の流派でもある“剛柔”という言葉が意味するように、彼はまさに強くあることが優しさだということを体現しているように感じます。

守りながら進化し続ける「changing same」がいかに強く、優しく、時に困難であるか。

しなやかに形を変えて、良質なR&Bを深く伝えてくれる姿は、世界中の音楽界の財産として刻まれ続けています。

文 / 長谷川 チエ(@Hase_Chie


▼今回登場した曲をまとめたプレイリストはこちら

▼Brian McKnightプロデュースの今市隆二「Thank you」レビュー

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!