大好きなThe Chainsmokersについて。そして2022年5月にリリースしたアルバム『So Far So Good』について書きました。
The Chainsmokersと私という、甘いようで苦い思い出
「私の好きなThe Chainsmokersを紹介します」みたいな記事をこのサイトでもよく書いていた。
ご存知の方はもう少数かもしれないけれど、当時サーバー管理をお願いしていた人にデータベースをうっかり消されてしまうという出来事があり、それまで書いていたすべての記事が一瞬で消えてしまった。
意気消沈しすぎて、The Chainsmokersの記事をもう書く気にはなれなかった。あれから5年、さすがにもう立ち上がらないと人としてヤバそうなので書いてみる。
ずっと引きずっているわけでもないのだが、また一から書いていくことを思うと気が遠くなってしまっていたのだ。
しかし完治はできていないので、リハビリチックになってしまうかもしれません(引きずってるかも)。投げ出したくないので、深く考えず気の向くままに書きます。
介添してくださる読者さまはこのまま続きを。それ以外の方は次の「Closer」で懐かしくなったところでどうぞ閉じてくださいませ。
「Closer」は二宮金次郎だった
The Chainsmokersといえば「Closer」しか知らない、という方も多いかもしれない。
YouTubeの再生回数はMVとリリックビデオで33億回という天文学的領域に達しているので無理もない。ちなみに内訳はリリックビデオが28億回という異例の流行り方をしている。
2016年、あれだけトレンドど真ん中だったのに、いい意味でこの曲のどの部分がトレンドだったのだろうかと考えてしまう。
当時は新しさを感じていたけれど、それだけ世界中のクリエイターたちに研究し尽くされ、今はスタンダードになっているということで、1周回ってまた新鮮に聴けそうな勢い。
私はこの頃からライターに転身したので、ドミトリーのシェアハウスで節約しながら勉強に励む日々だった。
もはや楽曲というか、思い出ごと背負ってやってくる二宮金次郎のような存在。
日本では、RADWIMPS「前前前世」、星野 源「恋」、宇多田ヒカル「花束を君に」などが流行していた頃だ。
世界的にはビッグルームのような分かりやすいEDMブームも落ち着き、フューチャーハウスやトラップ、トロピカルハウスなどに派生していた。
最近はめっきり聞かなくなったが、ADM(アコースティック・ダンス・ミュージック)とも呼ばれ、Kygoなどと並んで、The Chainsmokersは派生系の台頭のような存在だった。
しかし彼らは最初からこのようなエモチルサウンドを構築していたのではなく、昔はもっといかにもEDMという感じの音楽だった。
パリピとエモみの中間地点
The Chainsmokersがデビューしたのは2012年だが、世界的に知られるようになった第一段階は2014年「#SELFIE」で、私もこの曲で彼らを知った気がする。
クラブには行かないが、自宅でEDMを流して猫と踊ったり太宰治を読んだりするかなり変態なEDMファンだった。
今ではチェインスモーカーズ=チルでおしゃれな曲というイメージも浸透しているが、それは「Closer」以降の話で、当時はもっとイケイケだったのだ。
そして「Waterbed」(2015)あたりからヴォーカルチョップなどギミックの手数も増えていったように感じる。
その一方で、「Inside Out」(2016)など、上モノに少しずつエモさが出てきて、ボーカルだけは人間らしさがあるとか、EDMの中にアコースティック風味を感じるような音作りが目立つようになってきた。
そして「Closer」につながる。というわけなので、当時は急に路線変更したようなイメージだった。
「Closer」がロングヒットを飛ばしているさなかにリリースされたEP『Collage』(2016)は、パリピとエモみの中間地点という感じがして、当時は定まらない印象だったが今聴くと面白い。
ちなみにThe Chainsmokersはドリュー・タガートとアレックス・ポールのDJデュオだったのだが、2019年にドラムのマット・マグワイアが加入して、現在は3人組ユニットとして活動している。
元々サポートメンバーでもあったので気付いたら加入していた感じだったけれど、マットのドラムパフォーマンスとプロデュース力の高さは、もはやThe Chainsmokersを語る上で欠かせないピースの一つとなっている。
「Something Just Like This」@スクランブル交差点
個人的なThe Chainsmokersの好きな曲No.1は「Something Just Like This」で、同じく大好きなColdplayとコラボした楽曲。
ロックとエレクトロポップがスクランブル交差点のど真ん中で合流して、共に歩き出すみたいな曲だ。
それぞれのジャンルを極めながらも挑戦を続ける人たちのクロスオーバーで、クリエイティビティはこんなに美しく融合し、パワーを持って加速するものかと思った。
この映像は2017年4月に東京ドームで行われた来日公演の模様で、音源は「Something Just Like This (Tokyo Remix)」としてリリースもされている。
エモい以外の言葉が見つからない。
あの日自分があの場所にいなかったことが悔やまれる。何をしていた? また猫と踊っていたとでも言うのか。
The Chainsmokersの曲はどれも大好きなんだけど、この曲を超えることはしばらくなさそうだ。これはもう猫と踊るしかない。
アルバム『So Far So Good』
そして2022年5月、The Chainsmokersは2年半ぶりにアルバムをリリースした。
『So Far So Good』トラックリスト
- Riptide
- High
- iPad
- Maradona
- Solo Mission
- Something Different
- I Love U
- If You’re Serious
- Channel 1
- Testing
- In Too Deep
- I Hope You Change Your Mind
- Cyanide
先行シングルとしてリリースされた「Riptide」「High」「iPad」を含む全13曲。
The Chainsmokersといえば、そうそうたるメンツをfeatアーティストとして招き、見事にその魅力を引き出しつつも自らの才能もしっかり残す方々。
特に2019年のアルバム『World War Joy』は、カイゴやビービー・レクサ、タイダラー・サイン、ファイヴ・セカンズ・オブ・サマーなど、ほとんどがコラボ楽曲だった。
しかし今回のアルバムは、クレジット上ではコラボのない純粋なスタジオアルバムとなっている。
▼「High」は個人的にDon Diabloが手がけたRemixの方が好きなので、ここに貼ってしまおう。勝手にエレクトリカルパレードRemixと名付けて親しんでいる。
▼「I Love U」では日本のソーシャルゲーム「グランブルーファンタジー」のクラリスというキャラクターのセリフがイントロと曲中にサンプリングされている。
日本ではなぜこの声が、しかもよりによって未練たらたらの失恋ソングに「いけいけ団長」のセリフが使われたのか、謎だらけで騒然となった。
私はこういうことを探るのが面倒な人間なので、もうこれはこれとして、サウンドの一部として普通に聴いていこうと思う所存。
▼「Solo Mission」は新しいThe Chainsmokersという感じで、ストリングスやトラップなどのミクスチャーが新しくて面白い。
個人的にはこのあたりの挑発的なサウンドに興味をそそられたし、今後もこういう試みをしていくのではないかと感じた。
ヴォーカリストとしてのアンドリューの進化も目覚ましく、本作でのThe Chainsmokersは、もはやバンドとしてカテゴライズしても良いのではないかという気がしてくる。
このアルバムを聴いて、とにかく不思議な感覚に襲われた。
The Chainsmokersらしさがそこらじゅうにあるのに、どこにもない。それがこのアルバムとこのユニットの魅力なのだと思った。
自らの音を確立しつつも、常に新しさを追求し、取り込んでいる。
私もそんな記事が書きたいと思った。だからリハビリだろうと何だろうと、The Chainsmokersの記事を書くのだと。
そうでなければ、スクランブル交差点の信号はいつになっても赤のままだ。ずっと渡れないし誰にも出会えない。
意を決して、猫と踊りながらこの記事を書き始めた。本日のリハビリは終了です。
文 / 長谷川 チエ
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