『FUTURE』ソロアルバムレビュー 今市隆二編【登りつめた先にある扉】

三代目 J Soul Brothersのアルバム『FUTURE』関連記事。前回の登坂広臣さんに続き、今回は今市隆二(RYUJI IMAICHI)さん編です。初のソロアルバムをフィルターに、今回も勝手に思いの丈を綴りました。

メイン画像出典:「Thank you」公式YouTube動画




アルバム『FUTURE』DISC-2

  1. ONE DAY
  2. Angel
  3. Thank you
  4. Alter Ego
  5. SHINING / RYUJI IMAICHI feat. Ne-Yo
  6. LOVE HURTS / RYUJI IMAICHI feat. Brian McKnight

デジタルリードシングルの「ONE DAY」〜「Alter Ego」に加え、Ne-Yoをフィーチャーした「SHINING」、フィーチャーの域を越えたBrian McKnightとのデュオ曲「LOVE HURTS」を収録。

1stシングル「ONE DAY」からアルバムリリースまではたった半年ですが、実に内容の濃い期間です。レコーディングは2017年から行われているようですが、約1年と考えても、どれだけの努力を重ねたのかが手に取るように分かります。

変化する時代に守り続ける

今市隆二さんの音楽を私のものさしで表すと、神奈川県の横浜みたいな存在です。1859年に日本で初めて開港した横浜港(2019年で開港160周年!)は、歴史ある街並みを残しつつ日々進化しています。

古き良き時代の歴史を受け継ぎながらも、決して新しいものを否定せず、排除せず、上手く融合させる港町。

新旧どちらの魅力も伝えるその姿が、今市さんの音楽と重なりました。実はこの記事も横浜で執筆していて、潮風を感じながら今市さんの楽曲を聴いています。

個人的に今回のソロアルバムは、CDで聴きたくなる曲が多い気がします。自宅でゆったりと音楽に酔いしれたい時、彼の歌は良きパートナーになってくれそうです。

現在の音楽シーンの主流は配信ですが、今市さんはそういったことを気にせずに、1曲1曲を大切に歌いながら、自分のミュージカリティを確立している気がします。

では今市さんがソロでは守りに入っているのかと言えば、それは違うと言い切れます。そうでなければ「ONE DAY」を歌い上げることは不可能だったし、「Alter Ego」が誕生することもなかったはずです。

守りつつ攻める。どちらか選ぶ必要もないし、両方取り込むことがむしろ個性になっています。

アルバムに参加しているBrian McKnightは、【ブライアン・マックナイト名曲集】変わりゆく変わらないものとは?の記事でも取り上げたように、R&Bで成功してきたレジェンド。

Ne-YoもR&B界のClassicsとして君臨しています。この2人も、少しずつ新しい音を取り入れて音楽性を広げています。

Japanese R&Bであれば、久保田利伸さんなどはその先駆者ですよね。日本ではそういうアーティストは希少で、その事実こそがいかに厳しい世界かを物語っています。

それを誰よりも理解している今市さんが、狭き門に立ち向かってくれたことが、音楽ファンとしてとても嬉しいです。




「ONE DAY」の衝撃

1stシングルの「ONE DAY」が初めて公開されたのは2017年の暮れ、ご自身のラジオ番組「SPARK」でした。あの衝撃は今でも忘れられません。

最初のイントロ部分を聴いた3秒くらいで、ぶわぁぁと涙が出た曲は生まれて初めてでした。世界で1番速く泣いたギネス記録かもしれません。「そうか…そうだよね、こういうことがやりたくて、ずっと温めてきたんだ」と感じたのです。

ソロデビューへの歓喜もあるのですが、何だか無性に今市さんに謝りたい気持ちになりました。思うように声が出せない日々があったり、歌のみでここまでやってきた今市さんが、一体どんな気持ちでこの曲にたどり着いたのかと思うと、胸が苦しくて。

けれど、その歌声はあまりにも美しく、驚きや意外性…もういろんな感情が溢れてくるのでした。そしてその場で記事を書き始めたのですが、この時の感情が、それ以降の記事の執筆にも大きく影響することに。

「何とかしてこの気持ちを伝えたい。でも淡々と書くだけでは誰の心にも響かない。いっそ日本語のルールなんて無視して、もう誤字があったとしても、今伝えなければ私がライターになった意味はないのだー!」と気持ちだけが先走ったような状況でした。

Culture Cruiseでも「ONE DAY」の記事を境に、おそらく熱量の違いを感じていただけるのではないかと思います(もちろんそれ以前も頑張って書いてたけどさ!)。それほどまでに、心を動かされる出来事となったのです。

その後4ヶ月連続リリースを成し遂げますが、どれも愛情を注がれた作品であることが伝わります。その振り幅の広さも、今市さんの魅力の一つと言えます。

R&Bにおける無限の可能性

個人的には、今市さんはどこかで突然新しい試みをする可能性も秘めているように感じていまして。

何かに初挑戦してライブで披露したり、ファンを楽しませつつも難なく(もちろん努力の末だけど)自分のものにしてしまう飽くなき探究心。そのパワーをバランスよく、良質な音楽に織り交ぜてくれる予感がしています。

「Alter Ego」などはある意味、ニッチな世界観を含んだ曲なので、そんな才能もまだまだ眠っていることを感じさせます。

実はどこかでかなり化ける予感もしていて、「今市隆二はよく聴くよ、あぁ彼が三代目JSBのヴォーカルなの?」なんてリスナーも出てくるという、逆輸入バージョンも面白いかなぁと。

アルバムを聴いていると、Ne-Yoやブライアンの歌唱力には圧倒されるばかり。どちらも大好きなアーティストだったので、まさか今市さんとのコラボ曲が聴ける日が来るとは想像もしていませんでした。

ブラックミュージックのアーティストは、それは文句のつけようがないほど上手です。だからといって、そこで邦楽が競う必要なんてないわけで。

例えば「SHINING」は、今市さんもNe-Yoもブレスで変化をつけるのが上手なので、声はもとより息継ぎやアクセントのつけ方が調和しています(アレンジとコーラスもウィットに富んでいて面白い)。こういうコラボも新しい方法だなと感じました。

日本に四季があるように、今市さんには繊細さとか、憂いや儚さを表現できる声質があります。

桜が咲いて、それが長くは続かずに散っていく感情とか、赤や黄色に色づいた紅葉の中に哀愁を見出せるのは日本ならでは。その美しさをR&Bで表現できたら最強なのではないかと、改めて思いました。

「LOVE HURTS」のBメロ部分 “Then I’ll be wiser and I’ll be better”の「I〜」という歌い方なんて、とても繊細で美しいですね。

今市さんには、日本人が歌うR&Bの魅力をたくさん教えてほしいなと思います(どの立場で、というのは全体的に重々承知でございます)。




『FUTURE』コレクション!

このソロアルバムは、どれも大切に引き出しの中にしまっておきたくなる曲ばかり。今回はそこに2曲追加され、今後もコレクションが増えていくのかと思うとワクワクします。

駆け上がるというよりは、一歩一歩着実に踏みしめて進むという印象のある今市さん。歴史を刻み、進化する横浜の地で彼の音楽に耳を澄ませば、夢の扉へ向かう足音が、潮風に乗って聴こえる気がします。

登坂さん、今市さんのソロアルバムを聴くと、対照的であり親和性もあったりと、なんて不思議な関係なのだろうと感じながら筆を進めていました。

今市さんの記事を夢中になって書く中で、ふと登坂さんの曲を聴くとこちらも素晴らしくて、しばし心酔する。またその逆も然り。

はっきりと分かれた音楽性の形は、「対照」ではなくむしろ「対称」? などと考えすぎて、私の頭はこんがらがるのでした。

三代目JSB、今市さん、登坂さんの3つの作品を、その日の気分に合わせて選べるところもまた、ファンとしてこの上ない贅沢ではないでしょうか。

アルバム『FUTURE』はこれまでにないほど、リスナーの音楽ライフを豊かにしてくれる素晴らしい作品に仕上がっていると感じました。

文 / 長谷川 チエ(@Hase_Chie

▼『FUTURE』ソロアルバムレビュー 登坂広臣 編

▼「ONE DAY」レビュー

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!