極上R&Bを歌い上げた今市隆二「ONE DAY」が教えてくれたもの

三代目 J Soul Brothersの今市隆二さんがソロプロジェクトを始動!その第1弾となる「ONE DAY」の評判がすこぶる高く「え? J Soul Brothersの人?」と話題になっているとのこと。

三代目というフィルターを通すと今までの先入観があるかもしれませんが、ぜひ1人のアーティストの楽曲として聴いて欲しい、そんな作品に仕上がっています。



驚きと発見、何が想像以上だったのか?

エリックベネイのようなゆったりとしたリズムと、ディアンジェロのごとくムーディーなメロディ、JOEさながらのスムースなテイストが最高潮にブラックな「ONE DAY」。第1弾でここまで仕上げてくるとは思いませんでした。

曲の素晴らしさにも引けを取らない歌唱力からは、同一人物なのか?と感じるほど、三代目の時とは違った魅力が伝わります。声のコンディションもとても良い!

想像以上だと感じたファンの方も多かったようですが、ずっと心待ちにしていたファンの期待をも軽々と超えてしまうとは。聴き慣れているはずの声なのに、何年経っても新しい発見をさせてくれるなんて、シンガーとして素晴らしいではありませんか。

とめどなく文章が浮かんだ私は泣きながら記事を書くことに(そして収拾がつかず編集作業に膨大な時間がかかる)。なるほど今市さんが歌いたかった音楽はこれだったのかと、とにかく納得しました。

この時の衝撃を忘れたくなくて、何度も繰り返し聴いて慣れてしまうのがもったいないというか、じっくりと大切に聴きたい曲だなぁと思います。

どんな言葉で説明するよりも、ほんの数十秒聴いただけで黙らせる、どころか号泣させる。それが音楽でありアーティストですよね。

作詞・作曲を手がけたのはSTYさん。歌詞の内容もとても深くて、私が勝手に判断したことですが、時間軸を置き換えるとさまざまな捉え方ができますね。ここがとても魅力的だと思いました。

“I could trade all my life”
“Gonna trade all my life. Just for one day”

自分だけが最後であることを理解していて、1日だけよみがえって欲しいと願っているようにも受け取れるし、それともそれが叶った大切な1日の体験かもしれない。

お互いに最後と分かっているのかも…聴く者に解釈を委ねるような、含みを持たせた内容になっています。

「日本ではR&Bが売れない」真実と思い込み

高難度の曲に挑戦した姿勢も素晴らしいです。もっと歌いやすい曲も選べたはずですし、続々と新曲をリリースするにあたり、第1弾がこんなに完成度高くて大丈夫?という期待値のハードルを果てしなく高く設定することに。

でも今市さんは真っ向から勝負した。その姿も彼らしいですよね。

R&Bと言っても幅広いので、もう少しラフに行くのかな〜なんて思っていましたが、私は今市さんの本気度を理解できていなかった。

今市さんにとってソロ活動は夢の一つで、それは“覚悟を決めて挑む勝負の場”だったのですね。

日本ではR&Bが売れないのです。それでもあえてその道を選択した今市さん。ソロという枠内である程度自由に動けることや、配信限定にすることで可能になったコストカットにより実現できた背景もあるのでしょう。

それでも、GOを出した製作陣の英断とバックアップも讃えるべきだと思います。それが結果的に奏功したのではないでしょうか?

オリコンやビルボードをはじめ、各チャートでも1位を獲得したりと、数字も伴っているとのこと。日本でR&Bが売れないのは、真実であり思い込みでもあるという矛盾を抱えていると私は思います。

ちなみに衝撃的だったMVも、濃厚な絡みなのに嫌味がなく、とにかく今市さんの手が美しい。身のこなしなんかも良いな〜と思いながら観ていました(マニアック)。フルで観るとラストが切ないですね。

三代目の活動でも、今市さんのソロではあまり恋愛の曲がありませんでしたが、だからこそ「もしも今日が、恋人と過ごす最後の1日だとしたら」というテーマも、ここにきてひときわ究極度を増します。

スパイスとなる「エッジボイス」と「アウト・オブ・キー」

今市さんのエッジボイス(ボーカルフライ)は大きな魅力だと感じているのですが、この曲ではその良さが大爆発!

エッジボイスとは歌い出しが「あ゛」とかすれた余韻を残す歌い方で、平井堅さんをイメージすると分かりやすいでしょうか。

これはクセのようでいて自らの声を操る手法でもあり、出せない人には出せないらしいのですが、「ONE DAY」でも非常に効果的に響いています。

さらにポイントとなっているのは「アウト・オブ・キー」です。これはレゲエ界でよく使われる表現で、あえて音をずらす歌い方のこと。ザ・ビーチ・ボーイズの歌い方やうねるようなギターのサウンドもそれに近く、邦楽なら絢香さんなども、音のずらし方が絶妙で心地良いですよね。

今市さんも元々この歌い方が上手なのですが、正直ここまでできると思っていませんでした(すみません)。それが今回、予想以上だと感じた発見につながったのかもしれません。レイドバックなけだるさが、大人の色気と雰囲気を漂わせています。

この2つの妙味を感じながら聴くと、また違う角度で楽しむことができるのではないでしょうか?

ちなみに今市さんがイメージしたというディアンジェロやエリック・ベネイはこんな感じです。いかにハイレベルなタスクを自身に課していたかが分かります。

♪Brown Sugar – D’Angelo

言わずと知れたディアンジェロの代表曲です。この深みとコクのこくまろがクセになるんだよな。

♪Sometimes I Cry – Eric Benét

ファルセットが印象的なエリック・ベネイ。「ONE DAY」もこういったイメージで作られたのだと思いますが、世界的R&Bシンガーが歌い上げるような曲調を、日本人アーティストによる日本語で楽しめるというところが画期的だと感じました。




三代目という先入観を持つべきか?持たざるべきか?

三代目という先入観を持たずに聴いて欲しいと前述しましたが、実はここもコアな部分です。

今市さんが語っていた、三代目ではできない曲だという点。まさにそれがソロの最大の意義であり、そこで周りを納得させることができなければ、プロジェクトは意味を成さなくなってしまう。これはどんなグループでも同じで、ソロの難しさでもありますよね。

自分のやりたいことを追求しながらも、周囲やファンの理解を得る。それらがすべて叶うような楽曲と、歌声からも説得力のある決意がうかがえます(別に反対されてたわけじゃないけど)。

曲を聴くだけで本人の成長も感じられて、やりたいことも理解できる。ここまでストレートに納得させるソロプロジェクトは、J-POPの数あるユニットの中でも珍しいかもしれません。

それもこれも、今市さんが脇目も振らず三代目の音楽と向き合い、愛情を注いできた証拠なのでしょう。

先入観を捨てて欲しいというのは「あのEXILE系の兄ちゃんでしょ」と色眼鏡で捉えず、純粋なR&Bとして聴いてもらいたいからです。

一方で、三代目だからこそなのです。多様な音楽に挑んだ変革を経て、ソロではこんなにも原点に忠実であるという見事なまでの緩急のつけ方。

そのメッセージ性を感じることもまた、音楽の楽しみ方の一つですよね。だからどうぞ色眼鏡かけてくださいという自信もある(どっち)。

グループの作品に愛情を注ぎつつ成長する過程で、いつかR&Bで勝負したいという願いや構想を温め続けてきたのかと思うと、その心情たるや、どんなものだったのだろう…そんな風にも思うので、あえて重ね合わせることもできるのかなと。

さらに、相棒の登坂さんは先にソロプロジェクトを開始しましたが、2人の個性の違いに着目すると新たな発見もあるかと思います。こうしてボーカルが互いに成長することが、何よりの宝物なのではないでしょうか?

ちなみにメロウなR&Bなら、三代目の楽曲では「Dream Girl」などがあり、こちらもまた素晴らしい曲です。


R&Bは“リズムアンドブルース”と呼ぶにふさわしい、趣きのある曲調からコンテンポラリーなものまで、年代ごとに柔軟に変化してきました。

そんな世界的に愛され続けるR&Bも、J-POP=キャッチーなポピュラーソングというイメージが染み付いた日本では日の目を見ず、どこかアンダーグラウンドでさえあるのです。しかし、実力がなければ歌えないことは誰の目にも明らかですよね。

そんな中、ブラックテイスト溢れるR&Bを歌い継ぐ日本人シンガーがまた1人誕生したことに感銘を受けるとともに、私はそれが今市さんだったことが嬉しくてなりません。

何年も構想を練って人知れず努力を重ね、ぽんと世に送り出す。弱音を吐かず有言実行、ファンとの約束は必ず守る。それが、今市隆二のかっこよさなのですね。

文 / 長谷川 チエ

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!