FIVE NEW OLDのライブで幸せについて考えた話『“Departure” Tour』ライブレポート

FIVE NEW OLD『”Departure” Tour』東京公演のライブレポートです。

※セットリストはありませんが盛大に曲名が登場するので、このあとの延期公演に参加される方はご注意ください。




“Departure” Tour

ーー2022年5月27日、FIVE NEW OLD『“Departure” Tour』東京公演。

Zepp Diver Cityの会場で開演を待ちながら、以前自分が書いたFIVE NEW OLDの記事を読み返していた。

FIVE NEW OLD(以下、時々FINO)が2021年4月にリリースした『MUSIC WARDROBE』が素晴らしかったので、夢中で書いたアルバムレビューだった。

FIVE NEW OLD『MUSIC WARDROBE』の素晴らしさをただ全力で伝えたいだけ

アルバムツアーの感想の “どうかこの4人の幸せが減ってしまわぬようにと祈った” という一文を見てまた泣きそうになった。

19:00 開演

メンバーがステージに現れるなり、感極まってしまった。もう幸せを分けてくれている。

笑顔で登場するFINOを見ただけで泣けてくるのはいつものルーティン。コロナ禍でますます加速したこの感情にもそろそろ名前をつけようか。

2022年2月にリリースされたばかりの「Rhythm of Your Heart」でスタート。なんて始まりにふさわしい曲なのだろうか。音が良い!

FINOは声の出せない観客を楽しませようと、全身で音楽を届けてくれる。今までもずっとそうだったけど、コロナ禍を経てその心がより感じられるようになった気がする。

ほとんどが英詞だったリリックも、最近は日本語も絶妙なバランスで取り入れている(これをスマートにやっているのがすごい)。

言葉の力をさらに味方につけたFINOのライブは、年々厚みを増していく。

MVの影響からか、「Hallelujah」はいつもFINOを連れて街を歩く気分で聴いている。いや私が連れ出されているのか。一歩も進んでないけどライブでも歩いている感覚になる。

まだまだマスクは必須だし、声も出せないけれど「What’s Gonna Be?」のように手拍子さえできれば会場のどの場所でも楽しめる曲がたくさんある。

「まるで自分が人生という映画の主役になったような、魔法のようなひとときをみんなと過ごせたらいいなと思います」

HIROSHIさん(Vo. / Gt.)はMCでよくこんな素敵なお話をしてくれるので、何があってもこれだけは覚えて帰ろうといつも思う。

MC明けに披露された「Liberty」は、この日特に印象に残った曲だった。制限された中だからこそ、自由の尊さは際立つのかもしれない。

かといってこの日、制限された不自由さを感じることもなかったのだけど。

原曲ではODD Foot Worksのパートであるラップ部分も、HIROSHIさんが独自のフロウでラップをする。

FIVE NEW OLDのライブを観ると、いろんな感情が湧き上がって自分自身の明日に変換されるから、私はこのバンドのライブが好きなのだ。

まさに、映画の主役みたいな視点で世界がたくさん見えてくる。どの曲のどの場面というより、全体的にそんな瞬間が散りばめられているので、ライブレポートの形で書くのは難しい。でも書いてる。

スキルフルなパフォーマンスには目も耳も奪われるし、Good Musicを体感しながらFINOの気持ちを受け取る。こんなに心も体も忙しくさせるバンドはいない。

職人技の中盤〜終盤

このスキルフルな方々、本当にバンドマンなのか分からなくなってきて、銀座のすし職人さんのように見える時がある。私の目はおかしいのです。

WATARUさん(Gt. / Key.)は特に忙しそうなので目を引く。具体的にステージで何をしているのか分からないが、これを職人技と言わずして何と呼ぶのか。

高精度なサウンドがバンドのリアルなアンサンブルとともに観客の元に届くという奇跡を、SHUNさん(Ba.)やHAYATOさん(Dr.)の正確無比なパフォーマンスがコントロールしている。

今回もキーボードのサポートには山本健太さんが参加されていて、メロディ部分がより強靭になり、繊細かつ大胆な音の鳴りを楽しむことができる。

FIVE NEW OLDは実によく会場が見えているバンドだと思うのだが、分析ばかりしていると楽しむ時間も過ぎてしまうので、私はそれに気付かないふりをして踊ったりする。

まとめるととにかく音が良い! 家でじっくり聴く派の方にこそ、ぜひ一度この職人技を味わってみていただきたいのです。

そして2020年以降のFINOを象徴するような「Summertime」「Breathin’」は、すでに頼もしさすら漂う。

「Moment」は、ライブごとに各会場を旅して戻ってきたような感覚になる。初めて聴いた時から、1年でずいぶん成長した姿を見せてくれたような気がした。これからも旅をして変化していきそうだ。

MCのメモ

この日は一粒万倍日(何かを始めるのに良い吉日)だとHIROSHIさんが教えてくれたので、会場で購入したノートをこの日から使い始めることにした。

ライブで印象的だったことを、帰りの電車の中でメモする(トップ画像のノート。紙の質感と薄めの罫線が気に入ってます!)。

「好きで始めた音楽で、喜んでもらえることが嬉しくて、人のためにと思うようになる。そうして周りの人の力を借りてバンドを大きくしていくと、最初の喜びを見失いそうになることもある

でも、なぜ音楽をやっているのかと立ち返ってみると、自分のためだった。自分たちが幸せなバンドでいることで、誰かのためになる曲が作れる」

これはHIROSHIさんが“Departure”という言葉の意味を受けて話してくれた内容を、私なりに解釈したものです。

きっと誰にでも当てはまることだと思うけれど、私もこのサイトを始めた頃は誰にも注目されていなかったので好きなように書いていた。

それを良いと言ってくれる方がいたから続けて来られたのに、インタビューはじめ、読まれることを前提とした記事を書く必要が出てくる。

それを読んでもらえるかはまた別の話。だけど自分が楽しめなければ魅力的な文章は書けないし、そこで初めて誰かが喜んでくれる。

FIVE NEW OLDはきっと音楽を愛して楽しんでいるから、私たちはその音に惹かれるのだ。だからやっぱり幸せなバンドでいてほしい。

『MUSIC WARDROBE』ツアーで “4人の幸せが減ってしまわぬようにと祈った”のは、自分のためでもあるのかもしれない。

順調にアウトロに向かっていたところに、終わりたくないと駄々をこねるようなHIROSHIさんのヴォーカルで再び息を吹き返す「Don’t Be Someone Else」は、今までで一番好きな演奏だった。

アンコール

アンコールでは、まだ曲名のない新譜も聴かせてくれた。

さらに、2022年9月にアルバム『Departure : My New Me』をリリースすることも発表される。

HIROSHIさんがその場で投稿したツイートを通じて知るという、バイラル式に喜びが浸透する様は斬新だった。

全国5ヶ所を回る『”Departure” Tour』と名付けられているものの「Departure」という作品があるわけでもなく、どんな意味があるのか、きっと何か制作しているのだろうとは思っていたが、アルバムタイトルの一部だったとは予想していなかった。

しかしこの日のセットリストは、これまでのアルバムに収録されている曲ばかりだったし、どんな風に新作につながるのかを楽しみにしたい。

期待で膨らんだ「Please Please Please」はどこまでも清々しく、終わってしまう名残惜しさを少し紛らわせてくれた。



また言葉を迎えに行く

心の中で生まれた感情は、頭の中で言語化される。「この感情を文章にするならこうだ」と考えながらライブを観る。これはもう職業病なので仕方ない。

しかしそのわりには、考えたそばから解き放たれていく。次の瞬間にはもう次の言葉が押し寄せてくるので。

記事を書く頃には忘れてしまって、結局残るのは、最高だとか素敵だとか月並みな言葉ばかりで、あの時生まれた言葉たちは一体どこへ行くのか。

こんな時、必ずと言っていいほど思い出すことがある。

以前英語を習っていた頃、せっかく覚えた単語を忘れてしまうと先生に嘆いたら「最初から知らないのと、忘れてしまったのは違う。一度でも自分の体を通過した言葉は、必ずどこかにいるから。言葉を大切にするあなたなら、丁寧に思い出せば必ず戻ってきてくれるよ」と励ましてくれた。

いつもこの助言をお守りにして、丁寧に思い出しながら記事を書いている。

誰かを幸せにするなんて、まだまだ自分には程遠いけれど、分けてもらった幸せを渡すことはできるかもしれない。それを続けていれば何かが掴めるかもしれない。

次回のFIVE NEW OLDのライブで、私は忘れてしまった言葉たちを迎えに行こうと思う。そうやって少しずつ取り戻しては、解放して、また取り戻す。

それはあの人の幸せのため。自分の幸せのためだ。繰り返せばきっと、幸せはみんなのものになる。

文 / 長谷川 チエ

FIVE NEW OLD 公式サイト

▼FIVE NEW OLD『MUSIC WARDROBE』レビュー

▼2021年上半期ベストアルバム

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!