THE FIRST TAKEの「猫」しか知らない我が友へ贈るDISH//の曲たち

Culture Cruiseでは現在、小説「音を書く」を連載している。

音楽中心の話なので、さまざまな曲を聴いて執筆しているが、中でも集中的に聴いたアーティストが何組か存在し、そのうちの1組がDISH//だった。

友人のR(以前サカナクションの記事で私が語りかけていた相手)にその話をしたら、

R:FIRST TAKEの「猫」しか知らないけどおすすめだよ。『君の膵臓をたべたい』は良かった。浜辺美波ちゃんかわいい。(以上。みたいな顔)

私:知っとるわ。『キミスイ』は何十回も観たし、「猫」もすごくいいけどさ、他にもいい曲いっぱいあるんだよ。

R:ふぅ〜ん。

DISH//の魅力を伝えまくったが、文章以外の伝達力が無いに等しい私のせいで、彼女の反応は薄いままだった。Rは音楽に興味を持つものの、何を聴くべきか自分で選べない人なのだ。

「目についたものを聴けばいい」とは思うが、まあ気持ちは分からなくもない。だから今回も、私が知るDISH//について友人に伝える記事を書くことに決めた。




私はこうしてDISH//を知っていった

2011年結成、2013年にメジャーデビューしたDISH//は、Vo. 北村匠海さん、Gt. 矢部昌暉さん、DJ / Key. 橘 柊生さん、Dr. 泉 大智さんの4人編成のダンスロックバンド。

メジャーデビュー曲「I Can Hear」がNARUTOの主題歌だったので、存在自体はここで初めて知ったのだが、以降しばらくは、楽曲を細かく知っていたわけではなかった。

2016年のアルバム『召し上がれのガトリング』では、トライバルで奥行きのある「No One Else」などを聴いて「DISH//が進化している」と思った。

2017年には「僕たちがやりました」がえらい気に入って、今日に至るまで聴き倒している。

そして2019年のアルバム『Junkfood Junction』ではさらに進化を重ね、2021年リリースのアルバム『X』(クロス)は、過去最高に素晴らしい作品だと感じる。

作品を出す度に精度を増していく。昨今の人気も降って湧いたものではなく、苦節10年で地道に勝ち取ってきた努力型のバンドという印象。

ここまで、わりと聴いてきたつもりでいたが、小説を書くようになりDISH//の印象がさらに変わった。

 

まず、THE FIRST TAKEの動画を小説のリファレンスにしたので、Vo. 北村さんの出演作を自宅で観返した。映画は好きなので、北村さんの過去作品も映画館でけっこう観てきた。

北村さんはこれまで、大人しくて落ち着いた役柄を演じることが多かった印象で、『勝手にふるえてろ』とか『十二人の死にたい子どもたち』とか、一旦“無”になって微細な感情を表すのが上手いなと思っていた。

にもかかわらず、どこか「パッとしない役柄だな」と感じたりもしていた。しかし次第に、その感想自体が北村さんの手中にあることに気付く。

小説でも、普通のキャラクターを描くのは難しい。ストーリーは発展しないし、セリフを与えても全然面白くならない。役者だって同じだ。普通の人を主役級で演じ分け、そこで爪痕を残すことがどれだけ難しいことか。

「パッとしない」という感想は、普通を演じる人にとっては賛辞となるはずだ。視聴者の私には無意識にそれが刷り込まれていて、これはもう北村匠海の完全犯罪、完全勝利だ。

それは、現在公開中の映画に何かしら出ていて、さらに待機作3作品あります、という理解不能な状況にもなるはずだ。加えてドラマもバンド活動もしているのに、どうやってスケジュールを組んでいるのかが謎。

ここまで語っておきながら、たとえスクリーンの中に居ようとも、北村匠海は自分にとって、いかなる時もDISH//のフロントマンなのだ。

そんなに好きかFIRST TAKE

そんなにTHE FIRST TAKEが好きか。そうか分かった。THE FIRST TAKEのすべての動画の中で「猫」はもっとも再生回数を伸ばし、1億3000万回を超えている。

「猫」はもちろんとても良いが、「Shape of Love」の方も素晴らしい。

まずなりたいまつげNo. 1だ。このようなまつげの持ち主になりたいのか、もはや北村さんのまつげになりたいのかはご想像にお任せする。

吐く息で強さを表現できる歌い手など、尾崎豊か北村匠海かというくらいだ。

俳優業とバンド活動を合わせて100%ではなく、どちらも全力で挑み、200%に到達させることが人間可能だったのか。それを証明できる人が初めて現れたような気がする。

石原裕次郎くらいまで遡ればいたかもしれないがちょっと意味合いが違う。それくらい、どちらにおいても心を預けられるアーティストは本当に初めてなのだ。

子役時代から何度もオーディションを受けてやっと辿り着いた場所かと思うと、親戚くらいの距離感で勝手に感極まってしまう。

この曲は、さかいゆうさんが作曲したものに、北村さんとzoppさんが詞を書いたという。zoppさんは小説も出版されていて、ストーリー性のあるフレーズが印象的な作詞家さんだ。

「クローゼットの中からピーコートを出した途端 君の匂いがした」という記憶と連動した歌い出し。

コライトだが、北村さんの実体験が基になっている感じがするので、目で見たものに心象を重ねて書き起こす派なのかなという気がする。

「ホットコーヒーの苦味」を「僕らを結ぶ味」と表現するのも詩情にあふれた美しい共感覚法だ。私もたいがいコーヒーを飲みながら言葉とにらめっこしている身だが、味覚と自分と誰かを三者面談させたことなど一度もない。

北村さんがどんな生活をされているかは知る由もないが(カレーを作ってることは知ってる)、お仕事柄、予め用意された感情に心身を重ねる毎日を過ごされているはずだ。「自分とも他人ともつかない心」と向き合う日々の連続が、丁寧な発想や歌唱にも結びつくのだと思う。

これらの歌詞をこの表現力で描写できることが最強の自給自足、DISH//の強みだと言える。私ごときのライターが何万字という言葉を尽くしても、たった一小節で一撃を食らう。歴然とした努力と責任の違いに張り倒されろ自分。

以上、ライターのほぼ妬みつらみでした。

インプットが上手いDISH//

ここからは根拠なき独断で、おすすめ曲を友に向けて列挙していく。

DJ / Key. 橘柊生さん作曲の「Loop.」(2016)は、バンドが補完すべきところをよく理解されているし、秒で音源超えしているこのライブ映像がすごいから観てほしい。

この曲とても好きなのだがブレスの位置がとんでもない。声のかすれをエッジボイスとして味方につけている。

橘さんの制作は、DISH//のチルでパラレルワールドな未来を担っていきそうなので、ぜひ面白くしてってください(すみません上から申し上げてるみたいですが底辺から懇願してます)。大型フェスとかでぜひ観たい。最近の「缶ビール」とかも合いそう。

また、アーティストや作家の提供曲に、自分たちの音を乗せる関わり方も、DISH//が築いてきた素敵な個性だ。

▼北村さんの原案を元に、Lucky Kilimanjaroの熊木さんが作詞作曲したという「SAUNA SONG」(2020)、おしゃれな打ち込みだけど話題はサウナとかカレーとか。でもハイコンテクストなメッセージがある。

ラッキリの曲は譜割りがぶっ飛んでるんだなと、熊木さん以外の方が歌うと分かる。

▼ちなみにセルフカバーもあり、バージョン違いの姉妹曲みたいな感じ。ラッキリのMVまで実現する関係性がなんかいい。

0:24のフルーツinカレーを嫌がる熊木さんの表情が好きで定期的に観てしまう。フルーツinカレーがNGなのは北村さんだと伺ったので、それがラッキリのリスナーまでこの表情で届いちゃうのが愛おしいんです伝わりますか。

▼マカロニえんぴつのはっとりさん作「僕らが強く。」(2020)は、「〜なのだ」という言い回しが実にマカえんらしい。マカえん楽曲としても堂々成立するパワーを持った作品を、両手で受け取って吸収し、出力されている。

DISH//のこうした丁寧な向き合い方が、私は好きなのだ。完成した曲しか聴いていなくても「ああDISH//はインプットが上手いんだな」と思う。

バンドが提供した曲を別のバンドが受け取るという、どうやらすごく大変そうなことを構築できるのは4人の器用なところだとも思うが、違和感なく魅せられるステージまで登りつめた結果だろう。さもなくば曲のパワーに飲まれるだけだ。

最新アルバムの『X』では、NulbarichのJQさんや緑黄色社会の長屋晴子さん、GLIM SPANKYらが手がけた楽曲が並ぶ。

過去曲も含め、音楽シーンの中心にいるアーティストと絶妙な関わり方をする。単なる楽曲の提供という関係性を超えたコラボに近い、新しいコンテンツの共作のようにも感じる。

唐突だがコンテンツといえば、Gt. 矢部さんが毎日ブログを更新されていることにいつも刺激をもらっている。私もさんざん書いているので、どんなに大変な作業かよく分かります。

矢部さんの優しく響くコーラス大好きなのですが、この記事を書き続けた1週間以上、私は夢の中でも執筆し、毎日のようにDISH//の夢を見て、いつも矢部さんに「だめな記事」と怒られて起きてました。

そんなわけでリスペクトと愛を残しつつ、自作も提供曲もすべて、ないまぜに熟成させるのが私の知るDISH//だ。

タイアップとの共存も上手いDISH//

オカモトショウさんが手がけた「僕たちがやりました」(2017)は、OKAMOTO’SのxとDISH//のyが座標平面上で均衡点を見つけたような曲。それまでどちらのバンドにもなかった曲が生まれたと思った。

同名タイトルのドラマは何度も観たし、このへんのカオスなカルチャーが全体的に好きだ。ちなみに「猫」はこの曲のカップリングだった。

DISH//はタイアップとの共存が上手い。作品に華を添える役目を終えた後も、ずっとタイアップが続いているような記憶だけを残し、DISH//の曲として歴史を刻み始める。

▼そして執筆現在の最新作である「No.1」(2021)も素晴らしい。自信を持って最新作を推せるのは、バンドが進化している何よりの証拠だ。大人気を博しているTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』第5期のオープニングテーマでもある。

ヒロアカは領収書整理をしながら時々観ているのだが(個人事業主なので)、作品内を通して聴くとあまりにもシームレスな連携に拍手を送りたくなる。

アニメのタイアップは世界的にも注目されるので大きなアピールポイントである反面、アニメの世界観を取り込みながら、アーティストとしてのアイデンティティを残すのは無理難題だ。しかもオープニングは本編とのつながりもあるし、だいぶ無理。

その点でこの曲は、アニメのテーマソングとバンドサウンドとしての両立が理想的だと感じた。ドラムが疾走感を放ってバンドを引っ張っている。この曲も、大役を果たし終わっても彼らの中で呼吸を続けてくれそうな曲だ。

デビュー当初は、楽器はパフォーマンスの一部という位置付けだったが、DISH//は次第に音をかき鳴らし始め、バンドとしての意志を強固にしていった。

2017年にDr.の泉さんが加入したことは、そのことに大きく寄与しているように思う。DISH//の生演奏スタイルは定着し、それぞれが自分の音に責任を持ち、目を見張るほどに上達していく。

そして、こんなに有機的なパフォーマンス力を発揮するまでに至ったのだ。自分ももっと頑張れそうだと勇気をもらえる。

待っていたDISH//がついに来た

私はずっと待っていた。

ストーリーテリングが上手い北村さんの声は、ボカロ系の曲で魅力が倍増するではないかと、密かに待ち続けていたのだ。

「君の家しか知らない街で」(2021)を作詞作曲したくじらさんは、yamaさんの「春を告げる」などを制作されているボカロP。来たっ。来たぞ!涙が出るほどの最高傑作だよ!

芸術における矛盾は美しさだ。繊細さも力強さも持ち合わせる北村さんのヴォーカルは美しき矛盾を抱えている。

連載中の『音を書く』第九章は、この曲に影響を受けまくり、リスペクトの気持ちを込めてオマージュ的に作った。

先述した「THE FIRST TAKEの動画を小説のリファレンスにした」箇所は第十三章で出てくるし、全体的にも、影響を受けていると思う。

DISH//がいなければあの小説は完成しなかった。すみません唐突に私情を挟んでしまいました。というかずっと私情が挟まってるなこの記事は。

ご不快な思いをさせていたら申し訳ないが、何としてもDISH//の素晴らしさを伝えたい私はもう止まらないのだ。

最後にRちゃん、きみが唯一DISH//で聴いたことのある「猫」だけど、DISH//にはもう1こ、あいみょんの提供曲があるよ。

もう1このあいみょん神曲

「猫」はヒットしすぎて…というあまのじゃくな人にはこっちの方が良いかもしれない。この曲には、イントロからあいみょんが住んでいる。

東京生まれの北村さんに、サビの終わりかけで「これは出会いやろか」って歌わせるのとかも最高なのさ。「猫」は別れに未練を残す曲だけど、「へんてこ」(2019)はちゃんと出会えているから救われる気がする。

この曲も十分人気ではあるが、もしも「猫」の人気の影に隠れてしまうことがあれば、すごくもったいないと思う。

「この声にあの人が宿っている」と感じる瞬間に出会えることが、ごく稀にある。例えば、竹内まりやさんの歌声を聴いた時に夫の山下達郎さんの声が宿っていると感じられることがあるのだが、そんな瞬間がこの曲でも訪れる。

北村さんはきっとあいみょんのデモを聴いてレコーディングに臨まれたと思うが、感度の高さ、耳の良さに心底感心した。

別に寄せたつもりはないだろうけれど、あいみょんのDNAがミリ単位で受け継がれていて、でもちゃんとDISH//の曲になっている。もしあいみょんになれたら私は号泣する。こんなに素敵に歌ってくれて。

ダンスロックバンドとして努力して駆け上がってきたDISH//が、こんなにフォーキーな曲と、ただぷらぷらしてるだけの超自然体なMVだけで泣けるという最高を届けてくれて、どうぞしばし休んでくださいって言いたくなる。休まないと思うけど。

エンパワーメントを強めたDISH//

この記事を書きながら「『猫』以外の曲も聴いてほしい」というファンの方のもどかしげなコメントをほうぼうで拝見した。ストリーミング3億回再生と聞くと本当に嬉しくなるが、「どうしてあの曲ばかりなのだろう」という単純な疑問はたしかに浮かぶ。

代弁できる立場にはないけれど、僭越ながらそのもどかしさをほんの少しでも解消できる記事があれば、という思いで書き進めた。

元々のダンスロックなDISH//が好きだという方もいらっしゃるだろうし、その頃のDISH//がバンドとしてのエンパワーメントを強くしていった。

多彩な曲がDISH//のディスコグラフィーを彩っているのは、すべて彼らが挑んだ足跡なのだと私は感じる。その中に代表曲があるのは本当に本当に素晴らしいことで、しかもそれが紛れもない名曲であることは、この上なく素敵なことだ。

ここでの選曲に偏りがあることは分かっているけれど、もし友人がこの記事以外のところから好きな曲を見つけてきたとしても、自然と同じ場所に導かれるはずだと確信している。

どの曲に対しても、全力で心血を注ぐ姿勢がDISH//の大きな魅力だからだ。

「どうしてあの曲ばかりが」と感じたもどかしさは、その姿を知っているからだろう。それならば、きっかけがどの曲だろうと、彼らの魅力は必ず伝わる。

ここに「猫」の動画は載せないつもりだった。でも、最後にもう一度だけ観てみようと思った。「猫〜THE FIRST TAKE ver.〜」にはもう一つ、HOME TAKE ver.がある。ひらいてみると、やっぱり4人がとても素敵だったので。これを聴かないのはもったいないな。

7000字をかけて懸命に伝えようとしたことは静かにここにあった。そうか、もう伝わっていたんだ。それどころか、教えてもらったのは友人ではなく私の方だった。すごくいいね、教えてくれてありがとう。

文/長谷川 チエ


DISH// 公式サイト

▼連載小説「音を書く」第九章

【連載小説】音を書く(5)

 

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。2016年、別業種からフリーライターとして独立。2017年にCulture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。カルチャーについて執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、別名義で小説や行動経済学についての書籍も出版。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!