サカナクションがくれた新しい感情『NF OFFLINE FROM LIVING ROOM』ライブレポート

2021年5月、サカナクションの山口一郎さんが2日間に渡って行なった『NF OFFLINE FROM LIVING ROOM』。セットリストとざっくりレポートをまとめてみました。


オンラインでもサカナクションを観たいんだ

この日のライブを観て、私は何度か泣いてしまった。その時の涙が喜怒哀楽のどれに当たるのか、自分でも分からなかった。

全部かもしれないし、どれとも違う、何か新しい感情なのかもしれない。パンデミックが起こらなければ、生まれなかったはずの時間。

この1年余り、数を把握しきれないほど、さまざまなアーティストのオンラインライブを観てきた。

「オンラインライブ  感想」とGoogle検索すると、「オンラインでOfficial髭男dismのライブを初めて観た感想」というCulture Cruiseの記事が1ページ目に表示される(執筆現在)。別にSEOを狙い撃ちして書くことはしていない。

他にも、オンライン系の記事は全体的にアクセスを集めていて、オンラインライブが果たして面白いのか、チケットを買おうか迷い、他の人の感想を参考にしようとしている方が多いのだろう。

そんな中、今回はサカナクションのヴォーカル・山口一郎さんのご自宅から配信された『NF OFFLINE FROM LIVING ROOM』を拝見した。

2020年8月の『SAKANAQUARIUM 光 ONLINE』も拝見したので、オンラインでのサカナクションのライブは2度目だった。

今回は、開催予定だった『NF OFFLINE』の延期を受け、急遽ストリーミング公演を2日間開催されたもの。

総合演出は映像ディレクターの田中裕介さん、ヴィジュアルエフェクトにはライゾマティクスの真鍋大度さん、計良風太さん、カメラマンに奥口睦さんが集結。

サンプリングリバーブを使用し、部分的に3Dサウンドが使用されているそうで、このあたりは後半に発揮されていた。

1日目はNFメンバー限定公演、2日目は一般公演で、いずれもInstagramでライブ配信もされた。私は1日目はインスタライブ、2日目はチケットを購入してストリーミングで拝見した。

1日目と2日目の違いをインスタライブのコメントで質問したら「細かい演出が違う」「間違いさがしみたいな感じ」などと、一郎さんは丁寧に答えてくださった。

Instagramは歌っている一郎さんの姿を、下からのすごい角度で映し出し、一部を除いて画角はほとんど変わらなかった。

一郎さんも「インスタライブではストリーミングの1%しか伝えられていないと思う」とおっしゃっていたが、個人的には0.1%くらいしか伝わっていなかった気がする。でもSNSの役割としてはそれでよいのだと思う。

配信中のライブ音源をぶっ通しで、無料で一般公開してくれるのはかなりの神対応である。1日目のインスタライブを観て2日目のチケットを買った人も多いだろうし、よい公開方法だと感じた。

しかし「チケットを買わなくてもインスタで十分だった」という人だって出てきかねないのに、クオリティの高さに自信がなければできることではない。

実際、期待以上の満足度の高さを与えてくれた。急遽企画されたライブだという印象もまったく受けない。

2日間の累計購入枚数の目標はクリアできたとのこと。スタッフへもパーセンテージを上げて支払えると終了後のインスタライブで仰っていた。

サカナクションがオンラインライブを実施することは、スタッフさんを支える意味合いも含まれているようなので、これは喜ばしいことだと思う。

セットリスト

ライブといえばセットリストが気になるところではあるが、正直この日のセトリは何でもよかった。どの曲が来てもいいに決まってるし、曲単体よりも流れを楽しむ感覚の方が、個人的には大きかったので。

と言いつつ、思わぬかたちで「白波トップウォーター」が聴けたのは感無量だった。あんなに穏やかでさざ波のようなサカナクションを観たのは初めてだった。

  1. 新宝島
  2. セプテンバー
  3. 夜の東側(1日目のみ)
  4. 忘れられないの
  5. フクロウ
  6. ネプトゥーヌス
  7. ユリイカ
  8. 茶柱
  9. ナイロンの糸
  10. シーラカンスと僕
  11. 白波トップウォーター
  12. グッドバイ(エンドロール)

演者がステイホームしている状況はあまりない。靴を履いていないだけで変な感じがするが、自宅からの配信を自宅で観るというステイセーフでもあるのがいいと思った。スタッフさんは一郎さんのご自宅に集結されているわけですけれども。

以前SKY-HIさんが、実家でパフォーマンスする『実家ワンマン』企画をYouTubeでライブ配信なさっていたが、クリエイティブで面白かった。

一郎さんのインスタライブを普段から観ている人にとっては、見覚えのある風景だったと思う。ご自宅といってもめちゃくちゃおしゃれな造りとインテリアで、生活感はない。自宅兼事務所となっているそうだけれど、いつ拝見しても素敵な空間だと感じる。

以下、全体の流れをざっくりと書き起こしてみた。

ざっくりレポート

iMacでデスクワークをする一郎さんの姿で幕を開ける。スマホで電話もしている。

そこから立ち上がってアコギを抱え、ヘッドフォンをしてインスタライブに接続。第一声は「はい、皆さん見えてますでしょうか? 聞こえてる?」という普段のインスタライブの延長のような雰囲気だった。

場所が自宅だったことや、Instagramでも配信されていたからか、トークは全体的にラフだった。まあいつもそうといえばそうだけど。

「忘れられないの」まではアコースティックで、まさにアットホームな感じ。「最新曲をやります」と言うので「新曲ついに来たか?」と思ったら「忘れられないの」だった。そうか、今のところこれが最新曲なのか。でもいいんです。

サカナクションは新曲をバンバン出したりしないけれど、そこも含めて好きなわけで、小説家が長年かけて生み出した一作を慈しむのと同じだ。一曲一曲が大切に育まれていく。このライブでも、まさにそれを体感することになる。

「フクロウ」の途中で画面が切り替わってリバーブがかかる。アコースティックな音にリバーブがかかるだけでこんなに深くなるものか。実際の音源も実はエフェクティブだったりするし、この演出はぴったりだと感じた。

「ネプトゥーヌス」以降は映像にもエフェクトがかかり、浅瀬から深海へと、五感が徐々に潜り始める。色使いも派手さはないのだがかっこいい。シンプルなテロップのフォントと相まっていい感じ。

「ユリイカ」はスクリーンに映る東京の映像と、横向きに腰を掛けた一郎さんが物理的に重なる。MVで描かれる東京のイメージもクリエイティブだけど、この表現もよい。ここにも派手さはないのだが、かえって都会の華やかさへの想像力がかき立てられる。

「茶柱」の演出はクリエイティブなCMとコラボしているような感じ。急須に蓋をする音なんかも曲の一部として取り入れられていて、非常に粋です。ごめんなさいだんだん語彙力が失速して文章が雑になってきました。

「ナイロンの糸」の水がぶくぶくして一郎さんが呑まれていく姿は、リアルライブでは味わえない演出だ。映像はもちろん、音源化できるくらいサウンドのクオリティも半端なかった。カモメの鳴き声とかもサンプリングされていてよかった。ああ語彙力がほしい。

一郎さんは緊張されていたそうだが、このあたりを拝見すると、そりゃあ緊張するよなという感じで、おそらく秒刻みのタイミングとチームワークも重要っぽかった。

「シーラカンスと僕」は自宅にいるのに自宅じゃなかった。お魚の大群(多分、イワシ。)が泳いでいるように見え、それがしぶきに変わったりとか。語彙力はもう溶けたがとりあえずライゾマ最強説を唱えたい。

そして最後には、自分が今まで感じていたバンドの価値観を根底から覆してくれるような空間が待っていた。

バンドの価値観

本編の最終曲「白波トップウォーター」では、バンドメンバーが登場する。その共演の仕方は斬新なもので、このライブで一番印象に残ったことだった。

歌う一郎さんと、その視線の先にある、壁にかかったフレーム(これも実際に普段飾っている札幌の風景なのだそう)の中の4人。でも4人は動いている。ていうかバリバリ演奏している。時間の流れはとてもゆっくり。

一郎さんが微笑んだ瞬間に自然と涙が出た。記事の冒頭で先述した、自分の涙が喜怒哀楽のどれに当てはまるのか、という想いは、この時一番強く感じた。

同時に「ああこのバンドの距離感、すごくサカナクションっぽい」と彼らならではの斬新さも感じた。

常に全員がステージ上に揃い踏みである必要はない。バンドのメンバーー同、すぐに集まれる場所に住んでいて、楽器を担いで一緒にスタジオ入って、と物理的な距離も常に近い必要はないのだ。

メンバー同士が離れて暮らし、普段はリモートでやりとりをするバンドも見かけるようになってきた。今後、オンラインもライブの選択肢となるなら、ラグの問題さえクリアできれば、リモートでのバンド活動もニューノーマルになっていくのかもしれない。

一郎さんはいつも「ありがとうございました、サカナクションでした」という一言でライブを締めくくっているが、この日もそうだった。私の涙腺はいよいよ崩壊した。

『山口一郎 – NF OFFLINE FROM LIVING ROOM』と題されていたけど、ちゃんとサカナクションだったじゃん。

そしてちょうど執筆現在の今日、サカナクションは参天製薬の「サンテFX」のプレスカンファレンスにて、新曲「プラトー」を披露されていた。

その曲が、想像以上にバンドサウンドだったもので、せっかく建て直した私の涙腺はまたしても崩壊。やはり5人揃った姿を久々に目にすると泣けてくる。訂正します、バンドは近い方がいい。

もうどっちだっていい。とにかく、バンドっていいよなと改めて思い直した。

OFFLINEを感じるONLINE

「グッドバイ」に乗せたエンドロールは、インスタライブでは観られないストリーミングだけの特別感。

本編が終わってホッとしたようにも見えた一郎さんは、歌詞を間違えてはにかんでいたけれど、それがオフラインの表情に感じられてとてもよかった。

OKコールががかかると、いつもの朗らかな笑い声が響き、あの瞬間は画面の前にいる人みんなが笑ったと思う。

一郎さんは、「リアルライブが良いことは当然。比較するものではなく、配信は配信にしかできないことをすればいい」ということをおっしゃっている。

配信とリアルは別次元のものだと、私も常々思っている。個人的な持論としては、アーティストごとに比較するのも違うと思っている。

あの人はチケットがいくらだったのに、この人は高いからやめておこうとか。どうしても比較してしまいがちだ。

しかし個性も魅せ方もそれぞれなので、作り込んだ映像美が魅力のアーティストもいれば、リアルライブの延長のような映し出しがグッとくるアーティストもいる。バンドなのか、ソロシンガーなのかによっても違う。

サカナクションのオンラインライブは、いつも記憶にとどまるし、新たな価値観を生み出してくれる。多方面のクリエイターに刺激を与えるような、実験的かつ創造的な演出にはいつもワクワクさせられる。

オンラインで観た感動的な光景も、流す涙、蓄積される記憶はすべてオフラインだ。迷子になった私の感情は、双方をさまよって行き場を失い、涙となって現れたのかもしれない。

ここで得た新しい感情が、また次につながるように。見失いたくない。新たな価値観で、自分なりのカルチャーを重ねていきたいと、オフラインの心に強く刻んだ。

文 / 長谷川 チエ


サカナクション公式サイト

▼SNSフォローよろしくお願いします!

https://twitter.com/CultureCruise/status/1487770290134601730

▼Instagram

▼個人的サカナクション物語

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!