満を持して登場した「J.S.B. HAPPINESS」のユートピアについて考える

三代目 J Soul Brothersが2017年12月13日に新曲「J.S.B. HAPPINESS」をリリース!

この機会にJ.S.B.シリーズのレビューを書こうと思ったけれど、文字数が大変なことになりそうだったので、ここでは新曲のレビュー記事にとどめておこうと思います。

ライブで聴いて完結する世界観

「J.S.B. DREAM」「J.S.B. LOVE」に続く3作目にして、最終章となる「J.S.B. HAPPINESS」。三代目JSBの所属事務所であるLDHの社運がかかっているとも言える、いわば看板商品のような曲でもあります。

曲調としてはつかみどころがないというか、最近の三代目はジャンルを明確にさせた曲が多かったので、ただただハピネス!って感じとか、幸せ感じるいい曲〜みたいな抽象的なイメージです。

CMとのタイアップということと、ライブでファンと分かち合うことを前提として作られた曲だからなのでしょう。今後もライブで歌い継がれ、愛されていく楽曲。それを考慮し、最優先として作られた曲。

コール&レスポンスできるようなサビは、ゆったりとしたゴスペルのテイストも汲んでいます。

ぼんやり聴いているだけだとイメージが湧きづらいかもしれませんが、実際に1度でもライブで聴くとその印象は変わり、キラキラしていて神々しさすら感じる曲でした。

ちなみに、J.S.B.シリーズの2作品はこんな感じです。

「J.S.B. DREAM」(2015)

「J.S.B. LOVE」(2017)

この2曲はシングルリリースされておらず、いずれもカップリング曲でアルバムに収録されたりと、いろんな意味で裏街道っぽいところが魅力でもあるので、HAPPINESSもそれでも良かったかなーなんて思うのですが(HAPPINESSが裏街道じゃ困っちゃうんですけど)、いろいろ調整なんかもあったのかな?という気もします。

作品としては「J.S.B. DREAM」「J.S.B. LOVE」のPKCZ®REMIXも収録されており、ファン垂涎ものの内容となっています。個人的には「JSB BLUE」も大好きなのですが、そもそもこの曲はシリーズに入っていなかったのですね。よく見ると表記も違いました。

普通に聴いたら、タイトルに自分らの名前刻まれてるし、J.S.B.ってなんだよ?って感じの印象は受けると思うので、やっぱりとにかく「J.S.B. HAPPINESS」は、ひたすらファンに届けーって感じで作られたということで良いのですよね。ブランドアピールという点ではものすごい威力を持った曲だと思います。

サビでBPMが減速するという試み

トラックを担当した福田貴史さんは、「“レッドカーペットを歩く三代目と、一緒に盛り上がるオーディエンス”というテーマが最初から決まっていた」とおっしゃっていました。

平歌とサビのBPMの違い。AメロBメロが8ビートの速さなのと比較して、サビはテンポが減速しているのが最大の特徴です。音ゲー界隈でいう“ソフラン”的な。

サビだけ速くなる曲はあっても、減速するというのはJ-POPではあまり例がありません。

そこに気付くか気付かないか、というか違和感を感じないのは、ボーカルが実に壮大感を持って、のびのびと穏やかに歌っているからではないでしょうか。

このBPMの速さの違いによってさまざまな効果が得られると思うのですが、私が感じたのは、民主国家みたいな世界でみんなが平和に手をつないで歌ってる、争いのないデモクラティックピース感(大げさ)。要するに安心感ですかね(ざっくり)。

前奏はゆっくり。そしてAメロBメロが倍速になった加速度に合わせて高揚感が増し、サビではハピネスが溢れて充満する〜みたいな。

どんなアーティストでも、ファンとライブで楽しむために作る曲ってあると思うのですが、そこでクローズドな世界にするかどうか、っていうのはけっこう分かれ目だと思うんです。

お決まりの形みたいのが作られると、いつも来てくれるファンは喜ぶ。でも初めて来てくれたファンも楽しめる要素も大切。

だからといって開かれすぎたJ-POPだと、合唱曲みたいになっちゃうしっていうところで、伝えたいテーマはシンプルながらも、魅力的な楽曲に仕上げるという点では難しい。

トレンドや新しさを取り入れながら、みんなの心に届く曲、しかもCMタイアップというのは無謀な域ですよね。でも「J.S.B. HAPPINESS」の場合、BPMに緩急をつけることで、新しさも追求することができたのではないかと思います。

タイトルからすると排他的な印象すら与えてしまうかもしれないのですが、実際には、この曲を知らない人がライブに訪れたとしても楽しめる、とてもクリーンで平和的な世界だったりします。

一度聴いて「ふぅ〜ん」と思ったとしても、ライブで聴けば「なるほどね」って答えが出るような曲です。ものすごーく深いところでコール&レスポンスしているような感じで。

J.S.B.HAPPINESSの世界は実在した!

三代目JSBのライブツアー「UNKNOWN METROPOLIZ」で披露した時、メンバーはとても嬉しそうに歌っていたし、オーディエンスも楽しそうだった。泣いてる人もいた。

ニコニコと手を振る直己さんとか、もうそれだけで泣けますよね。泣けるんです。分かるよ〜。

J.S.B.HAPPINESSの世界は本当にあるんだ!と思わせるような、異空間に迷い込んだような浮遊感。私アルカディアに来ちゃった?みたいな感じですよね。J.S.B.シリーズにはいつもそんな不思議な雰囲気が漂っています。

紆余曲折ある人生の中のハピネスを表現した曲だそうですが、作詞はご自身もR&Bシンガーでありとても美しいSAKURAさん。歌詞の内容は聴き手に投げかけつつも、三代目メンバーへの贈り物のようにも思えてなりません。

どの歌詞も印象的なのですが、「悲しみの雨くぐり抜けて 喜び幸せの虹見上げて」というフレーズ。ライター的に言うと、この一言でキマる、全体が引き締まるコピーとして引き立ちますね〜。

あと、「ライバルは昨日の自分」。いやほんとそうだなって思いますし、そうでありたいですよね。人さまと比べるのではなく自分自身、そして今日は昨日よりも成長しようっていう。きっと、共感できるフレーズがそれぞれにあると思います。

紆余曲折の人生を歩んできたからこそ手にできる世界、今この瞬間をみんなと分かち合って見えてくる景色、それらが交わったものが「J.S.B.HAPPINESS」なのですね。

そんなことを考えながら聴いていると、「この人たちは本当にいつも人知れず努力や苦労をして、みんなの前ではキラキラと輝いて、なんて優しい人たちなんだろう〜」とか勝手にストーリーが膨らんで、いつしか涙ぐんでいたりもする(引かないでね)。

駆け抜けてきた年月があるからこそ歌える歌があり、それに匹敵するのが「J.S.B.HAPPINESS」なのだろう、そして彼らは今後も高みを目指して努力していくのだろうなと、そんな風に感じた2017年、年の暮れでした。

文 : 長谷川 チエ(@Hase_Chie

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!