【T-POP自由研究レポート#2】タイの人気アーティストとダンスミュージックの進化

タイ

T-POP自由研究、連載レポート第2弾! 今回は、タイの音楽シーンについて掘り下げつつ、代表的なアーティストをピックアップしていきます。


T-POPのルーツ

タイ音楽は、元をたどれば読経から発展した「モーラム」と「ルークトゥン」というジャンルがルーツになっています。

1960年代からレコードが広まったことで、急速にポップスとしての形に変化。カセットテープで音楽を聴くスタイルも、長らく庶民の間で浸透していたそうです。

T-POP(タイポップ)の歴史は、#1でご紹介したタイ王国大使館制作の完璧なYouTube動画を観ていただくとして、現在のT-POPのメインストリームにフォーカスしたいと思います。

東南アジアの中でも特に注目されているタイのエンタメ業界。

ドラマなどの映像コンテンツも人気が高いので、主題歌をきっかけに音楽も知られていったり、人気ドラマの役者さんが音楽番組の司会を務めるなど、メディアミックスも上手です。

日本で生まれたシティポップは、世界的な人気になる前から、東南アジアではいち早く取り入れていたように思います。ポストロックやシューゲイザーなど、バンド音楽も根強い人気があります。

K-POPはタイでも人気がありますが「K-POPのメロディにタイ語の声調は合わない」とタイの人気アーティスト、STAMPさんも語っています。欧米のようなメロディで、タイ語の歌詞が合うのだといいます。

この点は私も以前から思っていて、タイ語特有の柔らかい発音は、ダンスミュージックでもメロウなタイプが合うような気がしていました。

独自に進化したタイのダンスミュージック

アメリカでゴリゴリのEDMが流行っていた頃、タイでもそういった音楽はあったのですが、独自のジャンルとして開拓したサイヨー(Saiyor)などが流行りました。

欧米とは音楽の聴き方も少し違ったタイの方々。「グローバルスタンダードなEDMを、もっと自分たち流に乗れるアレンジにしよう」みたいな解釈だったそうです。

それをきっかけにタイのダンスミュージックも多様性を持ち始め、現在のような個性につながってきます。

それでも、メロディラインの美しい曲調が受け入れられやすい国民性は変わっていないように思います。

そこを生かしながら、現在のダンスミュージックのトレンドを上手に咀嚼してオリジナリティを出している印象です。

サウンド面のクオリティはどのジャンルも高いのですが、特にバンドはサウンドのアイディアが面白くて、グローバル展開を目指すには意外と良いのではないか? などと勝手に分析していました。

今のところ世界的にバンドは流行という感じではないので、逆にアジアから発信するには狙い目だと思っています(日本も含めて)。

タイで人気のアーティスト

ここからは、現在タイの音楽シーンを賑わせているアーティストをピックアップします。

タイ国内のチャートや、YouTubeの再生回数、サブスクの登録者数、自由研究による肌感覚などで構成された独断ですが、タイの音楽に精通している方なら、秒でわかるくらいポピュラーな方々です。

MILLI

ハスキーな声と、どこで息継ぎしているのかという感じのタイ語でまくしたてるラップが新鮮な風を吹かせてくれるMILLIさん。

言葉が理解できるとリリックを聞き取ろうとしてしまうものですが、分からないのがかえって心地よいフロウになり、ずっと聴いていられます。

2022年にはアジア発のグローバルレーベル「88rising」の一員として、宇多田ヒカルさんらとともに世界最大級の音楽フェス、コーチェラにも出演しました。

同じく2022年、こちらも88risingから韓国のアーティストBIBIさんの「The Weekend」をRemixとしてリリース。

オリジナルだけでも1記事書けるくらい素晴らしい楽曲なのですが、自由に色を足したMILLIさんのRemixも素敵です。Culture Cruiseがセレクトする2022年のベスト100曲プレイリストにも選んでいます。

今までのタイの音楽シーンにはいなかったような存在で、コーチェラ出演でさらに世界からの認知度を高めました。

STAMP

前回の#1でも取り上げたSTAMPさんは、タイでも国民的人気を誇っています。私もタイの音楽と聞いて真っ先に浮かぶのがSTAMPさんでした。

日本進出の先駆者とも言うべきアーティストで、日本での活動の際はavexからリリースされているので「a-nation」の出演なども。

これまでもchelmico、FIVE NEW OLD、Awesome City Club、SKY-HIさん、向井太一さんなど日本のアーティストとも数々のコラボを果たしています。

ジャンルも幅広いですが、STAMPさんの音楽のルーツはロックという感じがします。

日本語を積極的に話してくれようとする方で、年々レベルアップいることが個人的な楽しみポイントです。2022年には、Aile The Shotaさんが日本語版の作詞を担当した「愛のせいで」でも、全編日本語詞に挑戦しています。

4EVE

タイでも、韓国や日本のようにサバイバルオーディション番組が放送されています。

4EVEは「4EVE Girl Group Star」というオーディションを勝ち上がった7人によって2020年にデビューしたグループで、今やタイを代表するアーティストになりました。

4EVEが所属するレーベルXOXO Entertainmentは、F.HEROさん率いるHigh Cloud Entertainmentと同じく、CHET Asiaが日本独占エージェントを開始したことにより、今後日本での活動が見られるかもしれません。

曲調はK-POPスタイルのクールな曲が多いですが、2022年8月にリリースされた「สิ่งเล็กน้อย(LESS IS MORE)」は、タイ語の雰囲気にも合ったミディアムバラードです。

メロウなミディテンポを保ちながら、2番のヴァースがラップに変わる構成など、最近のT-POPでもトレンドになりつつある曲調と構成だと思いました。

INK WARUNTORN(インク・ワラントーン)

INK WARUNTORNさんはT-POPを語る上で欠かせない、ヒットチャートの常連です。シンセポップのビート強めなトラックでも、叙情的で美しいヴォーカルを重ねることができる稀有なアーティスト。

今回の執筆にあたり、さまざまなアーティストのパフォーマンス動画を拝見したのですが、INKさんはグルーヴをつかむのも生歌も上手で、T-POPの中でも圧倒的なパフォーマンス力があると感じました。

日本のバンド、THREE1989をフィーチャーした「LAST TRAIN」。ダンスサウンドでも叙情的に歌えるのはVo. Shoheiさんも同じで、このお二人はそんな儚さがヴォーカルに宿っているところが似ているのかなと思います。

この曲はINKさんが日本語で歌うバージョンもあり、タイ語、日本語、英語でこの華やかなサウンドが彩られるという素晴らしきアジアンコラボレーション! このようなコラボがアジア各国で実現してほしいです。

リリースの頻度が高いT-POP

今回研究していて思ったのは、どのアーティストもリリースの頻度が高く、数ヶ月おきくらいに次々と、しかもさまざまなジャンルの曲をリリースしているということでした。

さらに、多くのリスナーに聴かれていることも数字が物語っているので、タイの音楽シーン全体に需要があることや、映画やドラマなども含め、エンタメ業界が活況を呈しているという印象を受けました。

このようにT-POPは、欧米や、韓国、日本などの音楽に影響を受けながらも、自国のエンタメを上手く融合させてきました。

他文化を受け入れる柔軟性と、オリジナルを追求する探究心が、現在の個性を育ててきた背景が見えてきました。

またしても原稿用紙9枚分に到達してしまいました。

ここ違うよ! とか、こんなのもあるのに、などあればご教示ください。

夏の自由研究 #2、ご覧いただきありがとうございました! さらに研究は続きます。

文 / 長谷川 チエ

続きの#3は→こちら
前回の#1は→こちら

▼T-POPレポートのプレイリストも作りました!

▼THREE1989インタビュー

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!