w-inds.のアルバム『Beyond』は隙のないクオリティで満たされた傑作だった

w-inds.のデビュー記念日である3月14日にリリースされた15枚目のアルバム『Beyond』を聴いた。

すると子どもの頃、2つの言葉を同時に発することはできないのだろうか、などとどうにもならないことを考えては、よく1人で実験していたことを思い出した(変な子)。

w-inds.の記念日は「おめでとう」と「ありがとう」を同時に言いたくなる。

どちらから先に言おうか迷う、そう感じたので。2023年で22周年とのこと。

現状維持では前に進めないという危機感を、アーティストはきっと誰もが抱いているのではないかと思うけれど、w-inds.はそれを原動力に変えている。

w-inds.を見ているといつもそんな気がするので、ことごとく更新してくれることがことごとく嬉しかった。

そして今回のアルバムも、やはりことごとく更新し、そして素晴らしかった。


通算15枚目のアルバム

「おめでとう」か「ありがとう」か、どちらが先か分からないけれど、配信されるやいなや、感慨深く再生ボタンを押してみた。

グループの歩みを感じさせる歌詞の深みもさることながら、個人的には全曲を通してジャンルレスに旅をするようなサウンドに感動が止まらなかった。

もちろん最高のものが出来るのだろうという信頼は寄せていたけれど、最高を超えた素晴らしさだったので。そんな言葉があるのか分からないが。

2023年の新しさを感じる全10曲。単にトレンドをなぞるのではなく、考え抜かれたサウンドデザインと、w-inds.のこれまでとこれからが、芸術的に表現されている。

その理由の一つ、このアルバムの注目ポイントは何といっても、過去のw-inds.楽曲を数々手がけてきた制作陣が集結していることだと言える。

「Over The Years」は、「Forever Memories」(2001)などを手がけた葉山拓亮さん、「FIND ME」は「New World」(2009)などを手がけた今井了介さん、「Blessings」は「Long Road」(2003)などを手がけた松本良喜さんなど。

いずれもw-inds.楽曲において欠かせない方々ばかりで、そんな曲が、橘慶太さんのセルフプロデュース曲とともに並んでいるだけでも、w-inds.の歩みを感じ取ることができる。

しかも、これだけ個性豊かな楽曲たちはしっかりと自立している。それなのに『Beyond』というアルバムの中で、きれいに整列しているではないか。なんだこれ!

クリエイター陣の進化も感じられることが、本作の感動ポイントの一つだと思う。

『Beyond』

そして、「Unforgettable」がオープニングトラックとして位置していることは、このアルバムのインパクトとして非常に効いている。

と、気取って書いてみたけど、実際に再生した時の私は「 うぉぉ! w-inds.かっっけぇ…YMOみたい」と大感動したり静かに唸ったりしていた。

YMOみたいと感じたのは、サビのキーボードにかかったサイドチェインの部分かなと思うのですが、こうしたエフェクトやギミックが説明しきれないくらいどの曲にも散りばめられている。

というか、私の乏しい音楽知識では説明できません。しかしそれらが絶妙な音粒で美しく並んでいることは分かります。

華麗に展開するハウス調の「FIND ME」は、w-inds.だけでなく作詞作曲を手がける今井了介さんにも大きな可能性を感じる。

そしてCrazyBoyを客演に迎えた「Bang! Bang!」はRemixも収録されていて、オリジナルと甲乙つけがたいくらいの素晴らしさ。

▼こちらは3曲目のオリジナルの方。かつてはw-inds.の振り付けを担当したこともあるというELLYさんと、このような形でコラボが実現しているのも感慨深い。

続く「Fighting For You」は、この曲がリードになっても面白かったのではないかと思うほど、ミックスバランスにアイディアと美しさが詰まっている。

さらに、「Blessings」で感じたw-inds.とシティポップの抜群の相性。そもそもw-inds.はシティポップに不可欠な要素を本来的に持っていたのだと気付く。

千葉涼平さんの透き通るような声質と、橘慶太さんの立体的なヴォーカルがこの曲で完全にマッチングしている(歓喜)。非常にテクニカルだけれど、それを感じさせない爽やかさを纏っているのはさすがとしか言いようがない。これはもうw-inds.からの贈り物のような尊い曲だ。

▼「Blessings」

そこから「I Swear」へ流れていくところも秀逸。この曲もまた素晴らしい!

そして個人的に、w-inds.のこれからを感じさせたのは「Lost & Found」だった。

表面的にはエレクトロポップで軽さもあるのだけれど、レイヤードに迫り来るダークな質感。

このあたりは現在のw-inds.だからできる表現方法ではないかと思うし、Remixを除けば事実上のラストトラックとしてこの曲を配置したことも、新しいw-inds.の一面であり、次のフェーズへの挑戦のような気がした。

▼「Lost & Found」

聴けば聴くほど印象が変わるので、何度も聴くとどんどん面白くなっていく。そしてこの曲のアウトロが何よりもアウトロしているところがとても好き。

最初に「Unforgettable」で感動した絶妙なサイドチェインから、「Lost & Found」のキーボードの歪みに繋がってフェイドアウトするところが、個人的にはこのアルバムを推したくなるポイントだったりする。

このように『Beyond』は最初から最後まで、隙のないクオリティで満たされたアルバムなのです。

ここまで来ると、前作『20XX “We are”』を振り返りたくなってくる。

w-inds.のアルバムは、こうして過去作に戻っていきたくなるのが面白い。聴き手の行動を変えてしまうw-inds.はやっぱりすごい。

Remix込みで全10曲というボリュームは決して多くはないはずなのに、20曲分くらい聴いた満足感がある。

とても2人でこなしているとは思えないヴォーカルのバリエーションは、コーラスやダブリングなどでもかなり工夫されているのではないかと察する。

そしてサウンドの厚みと緻密な構築。そうした細かな要素は、リスナーの満足感へとつながってくれることを実感した。

ここにダンスパフォーマンスが加わるなんて、最強すぎませんか。

ダンスとボーカル以外の楽しみ方

長い活動の中でターニングポイントはいくつもあるだろうけれど、楽曲面においては、橘さんがマスタリングまでこなすようになった「We Don’t Need To Talk Anymore」が、近年の起点になっているのではないかと思う。

近年といってももう2017年の曲です。私も感動して記事を書きましたし、その後はw-inds.を100時間研究する自由研究記事も書き、その一環でライブにまで行ってみました。

明らかに多くの人を動かすきっかけになった曲だと思います。

原曲は何度も紹介しているので、ここではSKY-HIさんfeat.のRemixを貼っておきます。

それまでもw-inds.はトレンドをいち早く取り入れるグループではあったけれど、やはりJ-POPは全体として、海外トレンドのキャッチアップ…すらも間に合っておらず、追いかけるに過ぎなかった。

それがw-inds.は少しずつ捉えるスピードが速まって、今では独自に音を開発するような領域に達しているとすら感じる。

彼らは、ダンスやボーカル、歌詞などの目立った表現以外にも、良質なサウンドの追求という、ダンス&ボーカルジャンルにおいて重要視されていなかった、というか完全に抜け落ちていた部分を掬い上げ、幅を広げてくれた。

プレイヤーであるw-inds.がエンジニアリングの細部まで大切にしてくれたことで、後続のアーティストの創作意欲も変化し、実力をつけていく。だから今が面白いのだと感じる。

ありがとうと言いたくなる自分の気持ちの中には、こうした感謝も多分に含まれているのだと思う。

現体制になってから、バランスの取り方をきっと模索し続けていたと思うけれど、このアルバムはその答えに当たるものだと感じた。

新たな表現力を手にした彼らを見て、リカバーするという考え方ではなかったのだと感じ、また一つリスペクトの気持ちが増幅した。

しかし、アルバム『Beyond』は決して突然良いものができたのではなく、刷新されたのでもない。

これまでのw-inds.がつくってきたもので、これからのw-inds.にとっても大切な作品になることは間違いないだろうと思いました。

やはりw-inds.には、「おめでとう」と「ありがとう」を同時に言いたくなる。

文 / 長谷川 チエ

▼w-inds.を100時間研究してみた

▼CrazyBoyインタビュー(前編 / 後編)

▼BE:FIRSTに関する1年間の記録

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!