レトロフューチャーを体現するチャーリー・プースの真価

今回は、世界的人気を誇るチャーリー・プース特集。ヒット曲と2018年リリースのアルバム『Voicenotes』を中心にご紹介します。

才能を開花させたチャーリー・プース

チャーリー・プース(Charlie Puth)は1991年12月2日、アメリカ・ニュージャージー州生まれのシンガーソングライターです。

カトリック教徒の父と、ユダヤ教徒の母のもと、3人兄妹の長男として音楽一家で育ちました。

ピアノ講師だった母に4歳からピアノを教わったため、絶対音感の持ち主で、バークリー音楽大学を卒業しています。

チャーリーのデビューを語るには少し説明を要します。2011年、アデルの「Someone Like You」をYouTubeにアップしたチャーリー。

見事オンラインビデオコンテストで優勝し、その活躍がエレン・デジェネレス(アメリカの人気コメディアン/俳優ですが歌もかなり上手い)の目に留まります。

その才能に惚れ込んだ彼女は、自身の番組にチャーリーを出演させます。その番組はたちまち話題になり、アーティスト活動へのきっかけとなりました。

ちなみにチャーリーは他にもブルーノ・マーズやザ・ウィークエンドなどのカバー動画をアップしていて、どれもめちゃくちゃ上手いです。非公式のものはいろいろ出回っています。

そして、エレンが立ち上げたイレヴンイレヴン・レコードと契約。アルバムリリースなどに至りますが、2013年12月にはレーベルを去る決意をします。

心機一転、2015年にアトランティック・レコードと契約を交わして以降は、それまでiTunesなどで取り扱われていた楽曲が聴けなくなってしまいました。

正式な楽曲リリースはこれ以降からカウントされているため、デビューは2015年となっています。

エレンに発掘された頃のチャーリーの声も素晴らしいので、幻となってしまったのは惜しいですが、チャーリーもYouTubeから世界的大スターへ羽ばたいたという、夢のあるお話です。

余談ですが、1stアルバムのジャケットが横顔の写真だから見慣れてしまったのか、個人的には真っ正面よりも横顔の方がしっくりきてます。

Wiz Khalifa – See You Again ft. Charlie Puth(2015)

映画『ワイルド・スピード SKY MISSION』の主題歌でもあるこの曲で、一躍有名になったチャーリー・プース。美しい高音が際立っています。

とは言いつつ、個人的にこの頃はまだ彼の魅力に気付いておらず、むしろWiz Khalifaの方に興味を持っていたくらいでした。「ちょっとサム・スミスと曲調が被るなー」とか思ってて。

Marvin Gaye ft. Meghan Trainor(2015)

そしてこの曲を耳にしてハッとしました。私は、かつて黄金時代を築いたMotownレーベルが大好きなので、その中心人物でもあったマーヴィン・ゲイは、とても大切なアーティストの1人です。

マーヴィンをテーマにした曲をリリースしてくれた若手アーティストが出てきてくれて、わぁ嬉しい! と思いました、一瞬。

よくよく聴くとこの曲は、マーヴィン・ゲイ=愛の営みという捉え方をしているのです。マーヴィンしようぜ! って曲なのです。

念のためご紹介しておくと、マーヴィン・ゲイは大人の愛をムーディーに抒情的に歌うアーティストです。↓例えばこんな風に。

Sexual Healing – Marvin Gaye

この歌はもう私大好物で、いつ聴いてもサウンドの斬新さに感動します。数々のアーティストにサンプリングされていて、現代でも新鮮な気持ちで聴ける名曲です。

そういうわけで、マーヴィンを愛の営みに例えるなんて軽率すぎぃ! と一度は思いました。

けれど、チャーリー・プースの「Marvin Gaye ft. Meghan Trainor」を聴いていると、オールディーズレトロを見事に取り入れていて、マーヴィン・ゲイの世界…ということでもないのですが(違うんだよね)、なんだか強烈な懐かしさを感じたのです。

リリックにもマーヴィンの曲のタイトルが散りばめられていて、 “mercy, mercy”のフレーズが聴こえると嬉しくなっちゃう。

亡くなって30年以上経っても歌に登場するなんて、どんな形であれファンとしてはやっぱり感慨深いのです。きっとチャーリーも、リスペクトの気持ちでこの曲を書いたのだと思うし(願望含む)。

志半ばにして壮絶な最期を迎えたマーヴィン・ゲイは今、この曲をどんな風に感じているのか、聞いてみたいです。歌になってしまうくらい偉大な存在のマーヴィンに。

チャーリーも、フィーチャーされているメーガン・トレイナーも、その時代を生きていないのに「懐かしい」と思わせてくれる彼らも素晴らしいと、チャーリーに対する評価も爆上がりしました。

We Don’t Talk Anymore  feat. Selena Gomez(2016)

そしてセレーナ・ゴメスを客演に迎えたこの曲も大ヒットしました。別れてしまった恋人同士の、お互いの視点で描かれたリリックとMVが切ないです。

セレーナも儚い美しさを纏ったヴォーカルがさすがです。ライブパフォーマンスバージョンもオフィシャルから出ています。シックなドレス姿で自由奔放に歩き回るセレーナに対し、ピアノの前を決して離れることができずに見守るチェックシャツ、プースの図。

セレーナとは本作での共演以降、良き戦友としてリスペクトし合う交流が続いているそうです。はい次っ!

Then There’s You(2016)

1stアルバムの『Nine Track Mind』の中で、私はこの曲がただただ好きです。

“他の女の子たちが歩いていても何も変わらないのに、君がドアを開けただけで僕の人生が変わったんだ”という一途なラブソングなのですが、チャーリープースの美しい声にとてもよく合っています。

アルバム『Voicenotes』

そして2ndアルバムでも新たな魅力が開花しました。2017年4月のリードシングル「Attention」リリースから、約1年分の成長が感じられます。

当初は2018年1月リリースとアナウンスされていたのですが、5月に延期された本作。セルフプロデュースを手がけており、「未完成のまま発表するわけにはいかない」と自身で延期を決めたそうです。

前作と比較しても思いの詰まったアルバムになっているように感じます。

Attention

How Long

Done For Me (feat. Kehlani)

聴き手を選り好みしないメロディラインに、透明感のある声が重なるところが魅力でもあります。

前作『Nine Track Mind Import』では、ゆったりとした曲調が多かったように思いますが、今作は攻めの姿勢で臨んだ意気込みが感じられます。

The Way I Am

そして、この曲を聴いた時はちょっとドキッとしました。

「誰に嫌われようと、僕は我が道を行く」というリリックからは、トップスター街道を突き進むための迷いを取り払い、腹を据えたような決意が感じられます。

トップラインもこれまでとは明らかに違う、意志の強さがにじみ出ていて、ここからまたさらなる高みを目指して行くような気がしました。アルバムの核になっている曲です。


確かな実力とエモーショナルな歌声から、レトロフューチャーを感じさせるチャーリー・プース。懐古的で現在的な音楽世界には不思議な魅力があります。

これまでは、新旧をミックスさせたスタイルで流行に左右されない正統派、芯の通った楽曲が多い印象でした。そんな中、2ndアルバムでは殻を破った先の真価も感じられます。

2ndアルバム延期のニュースを聞いた時、未来を追い求めて苦悩する彼の姿が見えた気がしました。延期を決断してまで伝えたかったチャーリー・プースの思い。

その4ヶ月間は、きっと彼の真価が磨かれる必要な期間で、その時味わった産みの苦しみは、今後のアーティスト人生を支える自信になるのではないかと感じました。

今後は未来的な部分をどのように取り込み、私たちを魅了してくれるのか、まさに今、タイムリーな成長が楽しみなアーティストです。

文 / 長谷川 チエ(@Hase_Chie

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ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!