新境地を切り拓いた今市隆二「Alter Ego」レビュー

三代目 J Soul Brothersの今市隆二さんがRYUJI IMAICHIとしてリリースした4thデジタルシングル「Alter Ego」のレビューです。最近音楽系の記事を書くときはかなり精神を研ぎ澄ませているので、今回は少しリラックスして書きたいと思います。

IQの高さが素晴らしい

この曲名は「アルターイーゴ」と発音するそうですが、一般的には「オルターエゴ」と言う場合も多く(私はむしろこちらの方がなじみがある)、「アルターエゴ」と言ったり、いろいろですね。この記事内では「Alter Ego」とアルファベット表記に統一することにします。

足の長さに気を取られ…もはや西部劇とかいけちゃう感じですよね。

監督のBenny Nicksがフルバージョンをアップしてくれていましたが、それをここでさらっと流して良いものか?ためらいを感じたので、ひとまずYouYubeの途中までバージョンを。しかしこれはフルで観ないと内容を理解しづらいかもしれませんね。とにかく、今市さんがヒーローだっていう話です。

「Alter Ego」とは別人格の事を言い、第二の自我=他我(他者の持つ自我)などという解釈もされるそうです。ちなみに「alter」とは作り変える、改造するといった意味があります。とにかく自分ではない、何か別の存在のことを指しているんですね。この辺りはまた後半にご説明します。

作曲とプロデュースはThe Weekndのコラボレーターとして活躍するIllangelo(イルアンジェロ)が担当しているということで、鎖国していた島国日本に、新たな音が伝来したかのような。

「Angel」もそうですが、ただ草原で歌うだけのMVではなくて、古い映画のようなストーリー仕立ての、しかもさまざまな技法が用いられた複雑なMVにしたことで、この作品のIQ値が上がっています。

今回もかなりMVが期待できそうだったので、曲がリリースされてもMVの完成を待ってレビューを書きたいと思いました。時間がかかるのも納得できる出来ですが、視聴されるタイミングなどを考えると、ご本人のためにももう少しだけ早く出してあげて欲しかったですね。

これは仮説レベルなんですけど、今市さんってこんなにも色気満載の方なのに、女性とハグしたりキスっぽい感じのシーンでもなんか全然嫌味がないんですよね。

相手役の方が外国人であることも大きな理由だと思うのですが、どうもそれだけではなくて、表情とかがなんか、いやらしさがないというか?自分でもはっきり分からないのでうまく伝えられないのですが、とにかくこれは最高の褒め言葉のつもりです。

そして「ONE DAY」から振り返ると、出演者の人選センスが好きでして。そのおかげでどれも好事家が観て楽しめるような、味のある作品に仕上がっています。

それにしても今市さん、足の長さや顔の小ささ頭の形が整っていて、外国人級のスタイルだし、本当はLAにいるべき人なんじゃないですか?AngelのMVもそうでしたけど、共演者全員外国人で、こんなに浮かない日本人も珍しいですよね。景色にもなじんでるし…いや、でもやっぱり寂しいのでLAはアナザースカイにしてください訂正します!

緩さがポイントのダウンテンポ

この曲をジャンル分けするのは難しいのですが、今市さんはフューチャーR&Bとおっしゃっていました。複雑で独特なリズムと漂う浮遊感がクセになります。

同じ音が繰り返されるオーガニックなトラック、空間の広がりを感じる幻想的な世界は、アンビエントにも近く、作業用BGMとして聴くのも心地良い。小説を読みながら聴いてみたのですが、本の世界を全然邪魔しなくて気に入りました。

フューチャーR&Bはその名の通り、R&Bに次世代音楽を織り交ぜたようなDTMです。この界隈で成功しているのはフランク・オーシャンあたりですかね〜。割としっかり歌モノなんだけど、力は入れずにレイドバックに。曲調はダウンテンポで限りなく緩く、という感じ。

♪Provider – Frank Ocean

洋楽ではこういう音もメインストリームとして使われるようになってきましたが、日本ではまだ珍しいジャンルですね。「Alter Ego」は今市さんの魅力である繊細な声質を引き出して、上手く生かした点が素晴らしいと思います。

「ONE DAY」の見事だったR&B節を、今度は「Alter Ego」で緩く、柔らかく活用する。歌い方も力まずにリラックスした感じが伝わってきますね。この路線がハマる男性アーティストは多くないので、新境地であり将来性を感じます。

特大ヒットを打つのは決して容易ではないジャンルですが、またしても堂々と挑戦した今市さん、今回も素晴らしいです。その心意気はきっとちゃんと、みんなに届いているはずです。

「Alter Ego」エミネムさんの場合

エンターテイメント界では、アーティストやタレントが別のキャラクターを演じることをalter egoと呼びます。

例えば、氣志團の綾小路翔さんがDJ OZUMAに扮するケースがありましたよね。古坂大魔王さんとピコ太郎の関係とか。ただこのあたりは、表面上は別の人物という設定なので、厳密に言うと違うのか、ちょっと分かりませんけどもニュアンスとしてはこんな感じです。

広義な意味では、著名人が別名義で作家として本を出したり、というのも含まれますね。私も実は名義を変えて記事を出したりしています。ライター界ではそうやってジャンルなどで使い分けることも珍しくありません。

ちなみに私がすぐに思い浮かべたのはエミネムです。彼はエミネムというアーティスト名の他に、スリム・シェイディとかマーシャル・マザーズ(これは本名)という名前で度々曲やMVに登場するのです。

彼のalter egoの奥深さ(というか根深さ)を語り出すと何記事も出来上がってしまうくらいなのでここでは0.1%くらいしか話しませんが、alter egoをうまく操作して多面性を出しているアーティストと言えます。

彼は白人ラッパーですが、貧困層で育った上に両親から虐待を受け友達にはいじめられ、悲痛な人生を歩んできたことでも知られています。自分の存在意義を示す曲も多く、時にはハッとするような自虐や風刺的なメッセージが込められていることも。

エミネムにとってalter egoは自己表現であり自己防衛である。それと同時に、親への報復のようにも感じられ、さまざまな意味合いが含まれています。

そんな影響から、独特の世界が広がる彼の楽曲が、波紋を呼びながらも人気を支えているのです。皮肉にも彼の辛い過去が、アーティストとしての強みに繋がっているとも捉えられます。エミネムの曲はエミネムにしか歌えないから。

「Alter Ego」今市隆二さんの場合

今市さんの新譜のタイトルが「Alter Ego」だと伺った時は、何かまたやってくれるのではないかという未知なる期待と同時に、エミネムのことを思い浮かべた私は、何か深い闇のようなものを想像しました。

私にとって今市さんは、嬉しい時は笑顔で喜び、悲しい時は悲しむ。先日「恋と愛」のレビュー記事で書いたような、「人間らしさ」をとても素直に、飾ることなくありのままで表現する方だと受け止めています。

そんな彼が「Alter Ego」というタイトルで曲をリリースする。なんですと!裏表のない今市さんにもそんな一面があるの?

……ある。あるとすれば、今市さんは歌手になる以前、全く違う人生を送っていたと思うんです。このMVの中のヒーローである彼を、おそらく数々の武勇伝を生み出していたであろうかつての今市さん(@川崎)のような姿と重ねてしまうのは、私だけではないはずです(そうでもない?)。これはれっきとしたalter egoではないか。当人は使い分けているつもりもないのでしょうけれども。

ステージに立つお仕事をする方は、誰しも二面性を持っていると思うのですが、今市さんもステージ上では違う表情を見せてくれますよね。キラキラ輝いている時もあれば男らしくてクールな一面もあったりと。これもまさしくalter egoだと思うのです。その姿も、過去のさまざまな経験が作り上げた成果かもしれませんよね。

同じ人物でも、違う時代を生きた別人格のように思えて、それでも一つの人生を生きている同じ人間なわけで、思いを馳せるとどんどん壮大な哲学が広がってしまいます。

 

そんな深いテーマに挑んだ今回のソロプロジェクトは意外性のかたまりで、どれだけ引き出しあるの?というくらいです。

「ONE DAY」から振り返ってみても、毎回違う音楽性で楽しませてくれてMVも素晴らしくて。構想を練る段階からリリースまで、今市さんご自身はもちろん、制作スタッフも含めて、音楽センスの良さが光っていたなと思います。

これは今市さんだから言うのではなくて、本当に心から思っているのですが、これまでのソロ4作品は売れるための音楽ではなくて、純粋に良い作品を作りたい、という人たちが集まってできたような気がしています。

丁寧に作られたプロジェクトを積み重ねたその先に、大きな功績が待っていることを予感させてくれるかのように。

↓「恋と愛」についても書きました。

【進化した原点回帰】三代目JSB「恋と愛」で7通りの恋に出会う

ABOUTこの記事をかいた人

東京生まれのWebライター(@cgrams40)。2017年にCulture Cruiseを運営開始。現在は東京と湘南・茅ヶ崎を拠点としている。カルチャーについて執筆するほか、10年の投資経験を生かして行動経済学についての電子書籍も出版(別名義)。趣味はレコード収集。愛するのは鹿島アントラーズ。そして、ありとあらゆるカルチャーのすべて!!