映画『その瞬間、僕は泣きたくなった』を観て「Church by the sea」が解禁された夜

映画『その瞬間、僕は泣きたくなった – CINEMA FIGHTERS project – 』を観てきました。前半は映画全体について。後半は今市隆二さんの『On The Way』と「Church by the sea」についての感想です。


映画館でショートフィルムを観るカルチャー

今回は「ユナイテッド・シネマ豊洲」で映画を拝見しました。

昨年も、今市隆二さんのソロライブのライブビューイングをここで観てですね、ブライアン・マックナイトとのサプライズ共演に、自分でも引くほどボロ泣きした思い出のスポットです。

ちなみにトップ画像は、この近辺から撮った夜景です。映画とは関係があるようなないような、ないですね。

ここのアーバンドックエリアの雰囲気と、この場所から眺める東京湾の夜景が大好きです。

そう考えると、映画館に行くこと自体が自分にとってはリフレッシュに近い感覚で、イベントなのかもしれません。

PCを持って行って、観終わった後に作業しようかなとか、どこでご飯食べようかなとか、誰かと待ち合わせしたり。キャラメルポップコーンのあの香りも思い出になって、1日を楽しむシネマライフが丸々カルチャーだと思っています。

長編をじっくり観るのも良いのですが、短編やアニメを気軽に観に行くのも好きで、この作品も映画館で観て良かったと思える内容でした。

時間の長さというよりは、どれだけ心に深く届くかだと思うので、忙しい日常の合間に観られる映画がもっと上映されていれば、もっとみんなが気軽に映画館に行くのではないかと思いました。

この作品も全国の上映劇場数はあまり多くないですが、コンテンツがショート化している今の時代性とは合っている気がします。

『その瞬間、僕は泣きたくなった』

映画は大好きなのですが、映画のレビューはあまり得意ではない、というかほぼ書いたことがないので、今作の詳細はこちらのトレーラーでご覧ください。

『その瞬間、僕は泣きたくなった – CINEMA FIGHTERS project – 』は、ショートフィルム5作品からなるオムニバス映画。

いくつもの作品が観れるので飽きることもなく、物足りなさを感じることもなく、全体のバランスが良かったです。

監督や共演者の起用も含めてよく考えられた構成で、LDHさんはペルソナを見極めたPRだったり、バランスを取るのが上手いなぁと。

個人的にはこのプロジェクト、「ショートショート フィルムフェスティバル」の代表で、ご自身も大の映画好きである別所哲也さんも中心となっていることが興味深い点です。

昔よく、アカデミー賞授賞式をLAから中継する日本の番組で司会をされていて、とても臨場感の伝わる内容で。毎年楽しみにしていたのを覚えています。

ショートフィルムは異なるシチュエーションに、即座にコンパクトに感情移入できて、自分の中のいろいろな感情に向き合うことができるのも魅力だと思うのですが、その良さが生かされていた作品だと思いました。

映画とはどれだけの空気感を含ませられるかだと思っていて、観客としては、余白を読み取るリテラシーもある程度必要となるので、だから映画って面白いなぁと思うのです。

感受性を豊かに育ててくれる時間でもあり、これまでの経験も試されるかのような。

そういう点でこの作品は、身構える必要もなく、でも心に響くものがたしかにあって、それが押し付けがましくなくて。

一定の誰かに届いてくれれば良いという身勝手なものでもないし、間口は広いけれどもポピュラーに傾倒しすぎるわけでもない。

すべてに「愛」の存在があり、「過去と未来」をつなぐ道すじ。この作品自体が、そんな橋渡しとなっている気がしました。

これだけテーマの異なるオムニバスであれば、次の作品に移る間に気が散ってしまうこともあるはずですが、最後まで集中して観ることができる点も、評価されるべきポイントではないかと思います。

それぞれが次の作品に丁寧にバトンを渡していたし、井上博貴監督の『魔女に焦がれて』は最後まで配慮が行き届いていました。佐藤大樹さんと久保田紗友さんの無表情な感じ、笑わない高校生というのは雰囲気があって好きです。

『Beautiful』は、EXILE AKIRAさんの朴訥とした雰囲気が良くて、三池崇史監督がこういう作品を撮るのは意外な感じがして嬉しかった。

『海風』は、“演じる”という言葉では何か物足りなさを覚えるほど、小林直己さんの凄みを感じる表現力と情熱に触れた気がしました。行定勲監督とのタッグを別の作品でも観てみたいです。

洞内広樹監督の『GHOSTING』は、SF作品としてこの映画にメリハリをもたらしており、観た回数ごとに発見がありそうな作品。佐野玲於さんの佇まいから感じられる魅力を、映像で引き出せているように感じました。

どうしても後に観る作品の印象が残りがちですが、共通するキーワードを感じたことによって、振り返ることができたり、全体のまとまりも感じられたのだと思います。

これ以上ネタバレなしで語れる自信がないので、全体を通しての感想はこれくらいにしておきます。

『On The Way』

このサイトでも幾度となくレビューを重ねている、三代目 J SOUL BROTHERSの今市隆二さんが初主演された作品ということで、ここでは松永大司監督の『On The Way』を思いっきりピックアップさせていただきました。

映画を観る時、私の場合はあまり前情報を仕入れずに観ることがほとんどで、スクリーンで観る時は特にそうです。

『On The Way』についても、“自分のよく知らない俳優さんが出ている映画”という感覚で、純粋にフラットな状態で楽しみたかった。

撮影当時からSNSのタイムラインには、映画の情報がバンバン目に入ってきましたが、極力見ないようにしていました。

もちろん完全にシャットアウトできていたわけではありませんが、できるかぎり自分の中のバイアスを解き放って観ることができました。

フィクションとノンフィクションの両方を含む作品をファクション(Faction)と呼んだりしますが、『On The Way』は限りなくそこに近いのではないかと思います。

今市隆二さんとパコ・ニコラスさん、良い意味でお芝居を通して演じることをして来なかった2人だからこそ、創り出せた空気感とリアル。

高い温度も、低い温度も含まれているのがリアルで、観客が息を飲んだり涙が出たりする素直な感情に直結していた気がします。

パコさんは実際に職員として活動されている方なのだそうですが、彼が醸し出す雰囲気がとても良いのです。日本語の話し方もなんか好きだった。

今市さんはこういう風に表現する方なのだなと、彼のまた違う一面に出会った気がしました。

表現するという意味では曲作りや歌唱と重なる部分はあると思いますが、初めて俳優業としてトライする作品が、全編海外ロケというハードな環境。

この映画では特にポイントとなる、主題歌を担当するという重圧もあったかと思いますが、素直な性格の今市さんだからこそできた、ダイレクトなインプットとアウトプットだったのではないかと思います。

移民問題についても、実際にはもっともっと過酷な現実があると思うので、この作品を入り口として、何に関心を持ち、情報を取得し、知識として落とし込むのか。自分自身も良質なインプットを心がけたいと改めて思いました。

長編では観客が受け入れられる許容量を超えてしまう、ということも考えられますが、短編だからこそ伝わることもあるのだと気付かされました。

「Church by the sea」

『その瞬間、僕は泣きたくなった – CINEMA FIGHTERS project – 』は、それぞれのテーマ曲からインスパイアされたストーリーになっていますが、『On The Way』のテーマ曲が今市隆二さんの「Church by the sea」です。

すでに、映画に先がけて「RILY」とともにリリースされていましたが、この曲についても映画を観るまでは封印しておこうと決めていました。

先に思う存分聴いた状態になってしまって、エンドロールで流れる時の新鮮味を失いたくなかったのです。

リリースされて2回ほど聴いたきりで(2回は聴いた)、MVもほとんど観ませんでした。私にとっては映画を観たこの日が、じっくり聴くことが解禁された日となりました。

今市さん、一時期このクロスのピアスをずっと身につけていたと思うのですが、それがこの瞬間、輝くために存在していたのでは! と言いたくなりますね。私だけですか。。

『On The Way』はこの5本の中で唯一、キャスト本人が主題歌を歌っている作品です。

たとえば、もしも今市さんのことをまったく知らない人がこの映画を観たとしたら、エンドロールで初めて「あぁ主演の人、歌手だったんだ」と知るわけですよね。

もはや私もそれに近いくらい純粋な感情が生まれていて「こんなきれいな声で歌う人なんだ」という気持ちになったのがとても不思議な体験でした。ずっと封印していた甲斐があったというものです。

アーティストが「演じる」というのはそういう面白さがあると思いました。

エンドロールで今市さんの歌を聴きながら、スクリーンに映るクレジットを目で追う日が来るとは。

グルーヴィーなR&Bにトライする姿も素敵ですが、こうして時々バラードを聴かせてくれる素直な一面も、今市さんのソロプロジェクトの魅力。

親交が深いという小竹正人さんの作詞ともリンクして、2人の心情が歌の中で合わさったような感覚を覚えます。

歌一本でここまでやってきた今市さんが新たに切り拓いた道。きっと自分の決めた道を貫く人であり、その信念は変わらないどころか、むしろ強まったに違いないと、エンドロールを見つめながら思いました。

『On The Way』は“ドキュメンタリー”だったと、私は捉えています。

それはストーリーだけにとどまらず、リアルを感じさせた出演者やスタッフによるものであり、彼らに対しての最高のリスペクトを込めた言葉のつもりです。


音楽と同じように、時代のトレンドとしては、映画についてもショートフィルムがもっと受け入れられても良い気がします(長編にしても、映画ってなんでこんなに長くなっちゃったんだろうとずっと思っていた)。

オムニバスであれば、全編通して観る方が作品の良さは伝わると思いますが、好きなストーリーをピックアップしてみたり、日々の中でルールにとらわれず、気軽に楽しめるのもショートフィルムならではの特徴だと思います。

ショートフィルムの魅力に改めて気付かせてくれた映画でした。

文 : 長谷川 チエ

▼「Church by the sea」も収録されている「RILY」のレビュー

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!