JazzyなR&B「RILY」で紐解く今市隆二という音楽性

三代目 J SOUL BROTHERSの今市隆二さんが10月30日にリリースした新曲「RILY」。彼の音楽性が色濃く反映されたこの楽曲を、さまざまな視点からレビューします。




ソロ初のシングルCD化

ストリーミングで10月18日に急遽配信され、CDでのリリースは10月30日。後からCDが発売されるケースは珍しいですね。

今市隆二さんが俳優業に初挑戦した映画『On The Way』のテーマソング「Church by the sea」や、2月にリリースされていた「夜明け前」「これが運命なら」を含む全4曲入り。

EPとも言えるボリュームになっています。

アルバムは『FUTURE』『LIGHT>DARKNESS』がCDでもリリースされていましたが、シングルはこれまで配信限定だったため、シングルCDとしてパッケージ化されるのは初で、今市さんの代表作となりそうです。

ライブシーンのざらっとした画質がかっこいいMV。

大人の駆け引き…踊らされているようでいて、そんな自分を楽しんでいるようにすら思えるし、結局どっちが踊ってるのか問題。迷宮っぽい感じもまた良くて。

今市さんのパブリックイメージではクールな印象を持たれがちだと思うので、そんな彼がLILYという女性に翻弄される、振り回されっぱなし!という展開自体も聴きどころではないかと思います。

タイトルは「RILY」だけど曲中では「LILY」という細かなこだわりも見られます。

「ONE DAY」と聴き比べたくなる感ある。聴き比べよう。

テンポよく余韻を残す矛盾

「RILY」では歌い方をいつも以上に工夫されているような気がします。間の取り方が上手ですよね。

いつもより節回しを抑えて、テンポよく歌っていますが、それでも流れや繋がりが途切れないように、余韻を残しながら歌っているように聴こえます。

そのためストーリーがずっと保たれていますよね。

私のTwitterでも真夜中に突然つぶやいたのですが、テンポよく歌っているのに余韻を残すって矛盾しています。

今市さんがそれを意識的にされているのか、自然とできているのかは分からないのですが、いずれにしても彼は最大の矛盾を打ち砕き、突破したのです。

元々、微細な部分まで声で変化をつけるのが上手な方ですよね。

この記事を書いていて気付いたのは、0→1で創られるクリエイティブなものは、数々の矛盾を乗り越えてこそ良いものができるのだということ。

今市師匠を見習って、私も読みやすいけれど深みを感じ取ってもらえる文章が書けるよう、矛盾に立ち向かっていきますから。決意表明!

そして歌い方シリーズでは、大サビ前のブリッジ部分が明らかに違ってドキッとします。

マウント取られてたかと思いきや、“その素ぶりなんなの?” と一転して突き放すような表現が良い。

それでいて感情が思いっきり出されているわけでもなくて、ニュートラルなんです。

歌詞の内容は想像で書き上げたとおっしゃっていましたが、この絶妙な感情の出し方には今市さんの進化がはっきりと見て取れるのではないでしょうか。

この部分が全体を引き締めていて、ここで感情の動きやストーリーが大きく展開していますよね。歌詞の内容だけでなく、曲調も一気にJazzyに加速するところがかっこいい。

ここのくだりの熱弁感が半端ない私です。




トラディショナルと斬新さを両立させた制作陣

再生ボタンをクリックした瞬間、午前0時(SPARKのオンエアも同時に始まったのでてんやわんや)。

↑考察してる。

曲調はJazzyな雰囲気を存分に漂わせる上質なR&B。

トラディショナルで行くのか、斬新さを追求するか、ジャンルとしては難しいところだと思うのですが、特筆すべきはその両方を叶えている点。

新しいなら新しいものを作ることに特化させた方が、曲作りではスムーズだと思うんですよ。

でもそこに頼り切らない姿勢が素晴らしいのです。

それが今回、見事な形で表現された作品だと感じました。これも矛盾を突破しています。

製作陣のバックアップも素晴らしく、YENTOWNのメンバーとしても活躍する音楽プロデューサーのChaki Zuluさんや、R&BシンガーのJAY’EDさんなど、才能豊かな音楽家が集結。

今市さんの楽曲では「Trick World」を制作した布陣です。このタッグがいかに革命的かというところに、メディアがもっとスポットを当てるべきだと思います。

今回の「RILY」でも、個人的にはこのメンツが集まったら絶対面白い曲できるだろうという予感しかしなかった。

JAY’EDさんもYENTOWNも大好きなんです。

↓話題になったAwich「紙飛行機」もChaki Zuluさんプロデュース。EGO-WRAPPIN’「色彩のブルース」サンプリングのやばすぎる名曲です。

ChakiさんはHIPHOPを中心に、ジャンルレスに幅広くプロデュースされています。

毎回違うテイストの楽曲を手がけるので、どう考えても才能ありすぎるし、ただ楽曲を作るという枠を超えて、カルチャーを創造している方だと思っています。

JAY’EDさんはコーラスでも参加されていますね。今市さん楽曲でJAY’EDさんのコーラスって、豪華すぎて嬉しくなっちゃう。

以前はJAY’EDさんの楽曲「P.B.E feat.今市隆二」でもコラボしました。

こんなにさわやかにもなれちゃう方々。

↓こちらがその時のレビュー。

夏のドライブデートにおすすめ!JAY’ED「P.B.E feat.今市隆二」とアルバムレビュー

どんどんブラッシュアップされてお二人の相性が良くなっているのが分かります。

「RILY」は、彼らのバックアップやチームワークの良さがあったからこそ、実現できたプロジェクトなのではないでしょうか。

「Interlude〜RILY〜」のプレゼンス

今市さんが2018年8月にリリースしたアルバム『LIGHT>DARKNESS』には、Chaki Zuluさん作曲の「Interlude〜RILY」がすでに存在していました。

今回のシングル「RILY」によって、「Interlude〜RILY〜」に大きな意味が生まれ、曲自体のプレゼンスも上がっています。

プレゼンスという言葉を使ってかっこつけたかったので見出しに採用しました。

この機会に「Interlude〜RILY〜」を聴き直してみた方も多いはず。私も何度も聴いてみました。

Interlude自体をこんなに集中して聴くことってあまりないですよね。リスナーにその行動を起こさせるところがまた斬新な仕掛けです。

最近はInterludeの意味合いも多様化していますが、「Interlude〜RILY〜」は単に曲と曲を繋げるという役割以上の存在感を発揮しています。

ちなみにトランペットはSOIL&“PIMP”SESSIONSのタブゾンビさんが担当されており、たった1:06だけの贅沢なInterlude。

1年2ヶ月以上も経った今、こうして本編としての「RILY」が完成したのですね。




連動した『RILY』ブランディング

さらに、「RILY」は今市さんがクリエイティブディレクターを務めるファッションブランドでもあります。

この曲自体がフラッグシップとなっているわけです。

抜群のスタイルを持つ今市さんですから、ブランドを展開して自らモデルとなる姿も様になります。

音楽とファッションは表現方法として延長線上にあるものだと思うので、アーティストがファッションと絡めて表現したり、音楽性を広げることは自然な流れだと思っています。

昨今は“アパレル×音楽”のコラボも増えていて、異業種間の掛け合わせによってクリエイティブな作品がたくさん生まれています。

アーティスト自身がデザイナーとコラボしたり、自分でブランドを立ち上げるケースも今や珍しいことではありません。

三代目JSBのメンバーのNAOTOさんも「STUDIO SEVEN」をディレクションしていたり、そもそも三代目 J SOUL BROTHERSに由来する「J.S.B.」ブランドもあるので、彼らにとってファッションとの互換性の高さは身近であり、必然のような気もします。

ただ「RILY」の場合は楽曲との連動性が高く、いくつものピースが合わさって1つのプロジェクトになっているところが非常に面白いのです。

しかも、2018年から着々と進められていた企画で、Instagramを有効に利用して少しずつ全貌が見えてくるような形でした。

最初はヘアアクセサリーなどの小さなアイテムから発信されて、「何?『RILY』って何?」というざわつき。

さらに「Interlude〜RILY〜」ができたりと、段階を踏んで徐々に大きくなっていきました。

そして今回の「RILY」が発売される頃には、ファンの間ではRILYブランドはすでに浸透しており、愛着を持たれる状況が生まれていたわけです。ストーリーが非常にクリエイティブですよね。

単なる一つの楽曲とファッションブランドという枠を超えて、相互的に表現の幅を広げたことで、ブランド力が高まっているのが分かります。

それが最終的に今市さんご自身のブランディングへと繋がっている点、とても興味深いです。

今後も何らかの形でこういった関係性が続いてくれたら、さらに面白いクリエイティビティが生まれそう。

一つの節目ともなる、大きな意味を持つ曲が誕生したことを喜びたいです。


2018年1月から始まった今市さんのソロプロジェクト。R&Bをベースに、守りながら少しずつ新しいエッセンスを加えて、矛盾を乗り越え、「RILY」にたどり着いたように思います。

1曲1曲を大切に、実直に向き合ってきたからこそ、ここまで濃密なプロジェクトが確立されたのではないでしょうか。

それはいつしか、今市さん独自のスタイルを提示するアイデンティティとなっていた。ソロ活動をスタートしてから、たった2年足らずでここまで駆け抜けてきたのです。

目には見えないけれど、積み上げてきたものが確かにある。「RILY」とはその象徴であり、聴けば自ずと答えが導き出されます。

今後も今市さんの音楽性を支える、大きな存在となるような曲だと感じました。

文 / 長谷川 チエ(@Hase_Chie

▼「ONE DAY」についてもおさらい!




ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!