【三代目JSB「TONIGHT」】ソロが一つになったと連想した理由を紐解いてみた

2021年6月16日リリースの三代目 J SOUL BROTHERS「TONIGHT」についてのレビューです。自分のツイートをもとに、自分なりに考えてみました。


別々のプロジェクトが一つになったと感じた理由

「TONIGHT」が配信リリースされた時、私(Culture Cruise)はこのようにツイートした。

https://twitter.com/CultureCruise/statuses/1399547631915831306

「TONIGHT」はグループとしての楽曲だし、分かるような分からないような微妙なツイートだ。

しかしそう感じたのは事実だ。それがなぜなのか、「別々のプロジェクトが出会ったように感じた理由」を紐解いてみた。

作詞 / 作曲:JAY’ED、CrazyBoy、NAKKID

“ファンとともに100年の季節を過ごしたい”というメッセージが込められた「100 SEASONS」との両A面シングルである今作。メンバーのELLY(CrazyBoy)さん初のセルフプロデュース楽曲でもある。

歌割りに関してもELLYさんの意向が採用されているそうで、レコーディングでもディレクションを行なったという。

まず聴いた時に、ヴォーカルが3人いるような印象を受けた。CrazyBoyは今までと比べると、よりヴォーカルとの距離を縮め、ヴォーカル2人の間に立っているような感覚。

それぞれの粒が立っていて、パートごとにバトンを受け渡していくような、深い繋がりも感じた。

歌い出しは登坂さんで、サビを今市さんが歌われている。これまでだったら、サビはおふたりが順番に歌い上げていくのが通例だった。

「100 SEASONS」のように、今までのパターンを踏襲されている安心感も捨てがたいのだが、「TONIGHT」でのそれぞれの声に適したパートを担当するというのも実験的で面白い。

そもそも、「どの声が誰か」という視点で無意識に聴き分けているのはファンとしての感覚なので、一般的なリスナーの立場に立ってみれば、どんな歌割りだろうとあまり関係ない。そのフレーズをより引き立たせられる声の人が担当する方が、良い作品になるのではないだろうか。

とはいえ、登坂さんがサビを歌っていないというコメントも少なからず目にした。

サビ至上主義を抜け出した「TONIGHT」

洋楽やHIPHOPを普段から聴いているリスナーにとっては、サビが一番の聴きどころだという感覚はあまりないかもしれない。

むしろヴァースが一番テンションが上がって、サビはドロップとしてずとーんと落ちるとか、そういう曲もたくさんある。

落ちサビの登坂さんのヴォーカルも非常に効果的なので、サビを登坂さんが歌っていないという印象も、個人的にはないのだけれど。

バンドなどはサビがしっかりあると演奏が映えてかっこいいけれど、JSBのようなダンスミュージック主体のグループは、流れで見どころや聴きどころを創作する方が、今の音楽性を反映できる気がする。

ELLYさんは求められているところを分かった上で、あえて挑戦したように思う。

2017年に書いたEDMの記事でも言及したが、J-POPはいつまで経ってもサビ至上主義から抜け出せずにいる。

邦楽の伝統的なコード進行とか曲の典型は私も大好きだし、そういう曲を否定するつもりはない。楽曲の型としてもサビは必要で、今後その概念がなくなるものではない。

しかし「サビとそれ以外」みたいな感覚はストリーミング主体の音楽シーンには合わないし、そういう価値観を持った音楽番組の見せ方もいいかげん辛い。

サビまで聴かないと曲の良さを判断できないのなら、作り手がサビに頼りすぎているのだと思う。

でもそういう曲を制作させているのはリスナー(ファン)だとも言えるし、ファンが普段から良い音楽に触れていないと、アーティストは成長していかない→やりたいことをやらせてもらえない。

ファンが聴きたがる曲を理解しながらも「うるせぇ俺はこれがやりたいんだ」と自由に制作する姿勢がかっこよくて、それがめちゃくちゃいい曲でファンは結局納得する。個人的にはそういうのがほしい。

「TONIGHT」には、やりたいようにやった実験要素が滲み出ているのが良いと思った。それをアシストしてくれたのは実質上のメインである「100 SEASONS」だとも言える。

「Movin’on」と「Lose Control」の補完関係に近いのかもしれない。三代目JSBはこうした曲同士の補完関係を利用しながら、上手く挑戦を繰り返してきたように思う。

三代目JSB「Lose Control」がカップリングにしておくにはもったいない名作である件

CrazyBoyソロプロジェクトが導いたもの

このレビューで必ず触れておきたかったのは、ELLY(CrazyBoy)さんのプロデュース力だ。

ご自身のソロプロジェクトだけでなく、多方面から三代目JSBを支え、その他アーティストの楽曲でも、振り付けやラップパートなどで存在感を発揮してきた。

それをずっと見てきたリスナーからすれば、今回のセルフプロデュースも、いつかきっとこういう機会は訪れると期待していたので、「やっと来たか」というくらい自然な流れである。

冒頭の私のツイートは、これまでのCrazyBoyの活動が、ここで一つの形になったように感じたことが大きい。

CrazyBoyとしては、客演などでは以前から行われていたが、キャリアとしてのリリースは2017年の『NEOTOKYO EP』から。そこからの歴史をここで挙げると長くなるのでまた別の機会にするとして、「NEOTOKYO」のコンセプトを掲げ、濃密な活動を重ねてきた。

2021年2月にリリースされたEP『OH / アムネジア』は、バリエーション豊かでありながらもCrazyBoyの軸を感じる素晴らしい内容だった。

ラップと歌の境界を自在に行き来し、ダンスパフォーマンスも含めたフロウがCrazyBoyの魅力だと感じているのだが、それがよりシームレスに転換する心地よさを感じる。

「OH」では、過去に行なった2マンライブも最高だった清水翔太さんや、「高校生ラップ選手権」「フリースタイルダンジョン」などで圧倒的な存在感を見せつけてきたOZworldさんが客演で参加している。これはすごいコラボだ。

今回の「TONIGHT」の制作にも携わっているNAKKIDさんは「OH」の作曲も担当されていて、CrazyBoyのその他の楽曲制作や、Back DJとしても長くタッグを組んでいる。

また、CrazyBoyさんとJAY’EDさんは「ステラ feat. JAY’ED」でもコラボを果たしている。とても良い曲なのでCulture Cruiseの年間プレイリストにも追加した。

三代目JSBという存在が、支えとなる一方で行く手を阻むこともあっただろうと思う。それでもやりたいことを貫き、少しずつ形にしてきたCrazyBoyとしての実績が、このEP『OH / アムネジア』には詰まっているように感じる。

このチームワークをもとに「TONIGHT」が出来上がったと思うとめちゃくちゃエモい。

ELLYさんは元々、俯瞰してプロデュースする素質を持たれていたのだと思うが、これまで培ったCrazyBoyの活動が重なって、ELLYさんを「TONIGHT」のプロデュースまで導いた。リスペクトを込めてあえて文章に書き起こすならそのような印象だ。

そして登坂さん、今市さんが重ねてきたソロ活動も相まって、確実にバトンを繋いでいく力強さを、私は受け取ったのだと思う。

さらに7人のパフォーマンスで実を結ぶのかと思うと、どの角度から観ても聴いてもエモいですね。

@CultureCruise

そこにパフォーマーが加わって視覚的な強さまでもを纏い、バトンが繋がっていく。

「100 SEASONS」と「TONIGHT」

あくまでこのツイートは私個人の感想にすぎず、「TONIGHT」はそれぞれのソロを紐づけるような楽曲ではないし、他の方がどう思われたかは分からない。

しかし、曲を聴いただけで一人のリスナーにそう連想させたほど、7人は実直にソロ活動を続け、確実にグループへと繋げてきた。それを証明してくれたのがこの曲だったのだ。

個が一つになったと感じた「TONIGHT」に対して、「100 SEASONS」は最初から最後まで、ずっと切り離されないままの7人だった。

どちらも別の側面から、10年という歳月を感じさせてくれる。この2曲を聴いて、7つのストーリー、10年分の歩みが完結するような気がした。

「TONIGHT」の答えは、「100 SEASONS」の中にある。私はそう捉えることにした。

文 / 長谷川 チエ


▼「Lose Control」レビュー

▼「Honey」レビュー

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!