三代目JSB「Lose Control」がカップリングにしておくにはもったいない名作である件

三代目JSB Lose Control

三代目 J SOUL BROTHERSが2020年4月にリリースした「Movin’on」のカップリング「Lose Control」についてのレビューです。


この豪華さは本当にカップリングなのか

作詞:TAKANORI(LL BROTHERS), ALLY
作曲:Theron Thomas, Sam Sumser, Sean Small, Raymond Daniels

楽曲提供はRock City。あーね。…え、えぇー? Rock City? ヒット曲を全世界にバンバン打ち出してきたあのR. Cityさん?

すごい…さすがJSB。Rock City使いの曲がカップリングとは。

クレジットにあるTheron ThomasがRock Cityさんです。イントロで参加しているのも嬉しくて、さらに登坂さんとリンクしているではありませんか。

そしてそこから、登坂さん→今市さんとつながる、珍しいBパターン(筆者が勝手に名付けただけ)の譜割りですね。

コーラスはそれぞれご自身の声と重ねられていて、彼らの曲ではよくありますが、実は私の好きなポイントでもあります。

しっかりとパート分けされているところにEXILE TRIBE感があって。ヴォーカル2人がお互いにハモるのもきれいなんですけど。

とは言ってもパフォーマンスの際はヴォーカル2人パターンかもしれないですが。ちょっと何言ってるのか分からなくなりました。

曲調としては、特に後半はベースミュージックを系譜とする重めなサウンドが印象的ですが、1曲を通してずーっと沸点が低いんです。2番でも終盤でもずっと。

むしろ最初が最もテンション高くて、音数はどんどん削ぎ落とされています。

日本ではなかなかこういう曲の良さって受け入れられないのですが、世界では全然珍しくないどころか定番化しています。こういう曲を、もっと試してほしいんです。

こういった意見を持つリスナーはきっと少数派なので、やはりカップリング的ポジションでないと難しいとは思います。

それでも彼らが「Movin’on」と並行してリリースしてくれたことは嬉しいですし(ご本人は両A面だとおっしゃっていました)、きっと音楽番組では観ることもないであろうこの曲をあえて取り上げたいと思いました。

Rock Cityについて

プロデューサーのRock Cityは兄弟2人で編成されたデュオで、「Lose Control」のクレジットにあるTheron Thomasはお兄ちゃんの本名ですね。

↓この曲を聴けばピンと来る方もいるかもしれません。R.Cityと言った方が伝わるかも(Planet VIとしての活動もあり)。

Maroon5のヴォーカル、Adamとコラボした「Locked Away」はあまりにも有名。YouTubeの再生回数も7億回を突破し、全世界の注目を集めた名曲です。

夫が刑務所に収容されることになり、妻と離ればなれになってしまった実話を基にしたストーリーで、そのモデルは彼らの両親であるという、実は影を落とした曲でもあるのです。

この曲も収録されている『 What Dreams Are Made Of』はとても良いアルバムで、ジャケットも印象的でした。

ルーツはゴリゴリのHIPHOP畑の方々なので、全方位に向けて聴きやすい落としどころをうまく見つけた内容になっています。

Chris Brown、Justin Bieber、Rihanna、Drake、R.Kellyなどなど、コラボアーティストやヒット曲を振り返れば枚挙にいとまがないほど、実に多才なヒットメイカーでもあるRock City。

ご自身でもアーティスト活動をしていて、「Missing You」などは2012年リリースながらも、“泣けるR&Bコンピ” 的なアルバムに今でも名を連ねていたりします。

そういう企画出しをするのも売れるのも、今ではほとんど日本くらいです。

Rock Cityの公式アカウントが出しているのに全然再生回数が伸びていない不思議。当時流行したNE-YO系アーバンサウンド炸裂のR&B Classicsです。

▼「Solo」が大ヒットしたIyazの「Replay」も制作。懐かしさ止まらない。

「ヒット曲請負人」とも言われるほど、器用なRock Cityなのですが、そういえばここ最近はあまり表舞台に出ていませんでした。

持ち前のメロディセンスを生かした歌モノでレゲエベースが得意なイメージがありましたが、やはり本領を発揮するのはゴリゴリのHIPHOP。

アメリカ・ヴァージン諸島生まれの彼らにはきっと、カリビアン特有のリズム感と文化が根付いているので、サウンド面のみならずリリックの言い回しにも独自性があります。

そんな彼らなので、三代目JSBとのコラボはかなり意外な印象。

ヒアリングをした上で、もっとキャッチーに寄せた曲を作ることは可能だったはずですが、あえてブラックな方へと舵を切ったことが興味深く、またそれが三代目サイドからの要望であったとしても、個人的には嬉しいことです。

そりゃあRock Cityさんにとっては、楽曲提供などモーニングルーティーンに組み込めるくらい自然なことかもしれないけれど、日本の音楽ファンからすると嬉しいコラボであることに変わりはありません。

裏テーマを楽しみながら聴いてみる

「Lose Control」は2016年にリリースされた「Dream Girl」から引き継いだ内容になっているそうです。

↓作詞を担当されたTAKANORIさんとALLYさんのツイート

「Dream Girl」も奥深い魅力がある楽曲で、こちらも作詞はTAKANORIさん, ALLYさん。

イニミニなどもそうですし、このおふたりが手がける作品は、ちゃんと曲の中でストーリーが生きている気がします。

アルバム『THE JSB LEGACY』に収録されている「Dream Girl」。ちなみにこのアルバムは超名盤です。

「Dream Girl」のリリースは2016年。4年の時を経て、あの2人がここによみがえったわけですね?

かの三島由紀夫氏が5年の歳月をかけて輪廻転生を描いた最後の四部作「豊饒の海」シリーズのようにですね?

三代目で言うと「蛍」の続編が「恋と愛」であるかのような関連性を感じます。

しかし時間軸で考えると、「Dream Girl」と「Lose Control」は一夜の出来事(という解釈で合っているとするなら)。何年か越しの歳月をかけて、かたや輪廻転生について、かたやある夜の出来事を描くという。

人間が持つ「時間」の概念とは何とミステリアスなのでしょうか。時空を超えたロマンを感じずにはいられません。森羅万象、ユニバース!

何はともあれ、「Lose Control」はサビの部分が完全なるドロップなので、このトラックにのせる歌詞によってかなりイメージも変わると思いますが、理性を失って制御できなくなっていく主人公の様子がリアルに描写されています。

「Dream Girl」はフロアでの出来事に終始していますが、「Lose Control」でその場を抜け出した2人の続きを知ることができるわけですね。

高級車というフレーズがあるので、舞台はきっとラグジュアリーホテルです。

最上階に向かって急上昇するエレベーターとは裏腹に、どんどん琥珀色(アンバー)の瞳の子に落ちていく主人公。という最高にアーバンな対比。

物理的な距離と、心の距離がどんどん縮まっていく様子が刻々と描かれています。これはもう純文学では。

この記事のタイトルを「名曲」でなく「名作」としたのは、大好きなTAKANORIさんとALLYさんへの一方通行なオマージュです。

ライターである私の思いは強すぎるとしても、改めて「Dream Girl」から「Lose Control」を繋げて聴いてみると、ヴォーカルの登坂さん、今市さんのストーリーテリング力が格段にアップしている!

アウトロの含みを持たせた空気感も良いし、あのアンバーの瞳の子がより鮮明に映し出されます。

そして「Dream Girl」の名曲ぶりも再び噛みしめたいところ。両曲を比較したり、こういう遊びができるのはリスナーとしての究極の楽しみ方であります。

JSBのアンダーカルチャーを更新

タイトル曲の「Movin’ on」は、いわば三代目JSBの主軸となるような、メインストリーム路線。

ライブで盛り上がれるような、オーディエンス参加型の楽曲も彼らの魅力を引き出してくれるのですが、JSBのアンダーカルチャーを少しずつでも更新する「Lose Control」や「Dream Girl」のような楽曲も、相変わらず創作してほしいなと思うのです。

本当はこちらをメインストリームに押し上げてくれても大歓迎なんですけど、それはさすがに難しいと思うので高望みはしません。

もちろんそれ以外を否定する気は毛頭ありません。

ただ、ストーリー性のある今作のような楽曲や、万人にこそ受け入れられないマイノリティでも、表現力が光るような楽曲。

5人のパフォーマーの高いクオリティが発揮されるのはこういう部分でもあると思うので、その魅力を引き出すステージというのも、ファンだけでなくもっと広くアピールしても良いのではないかという気はしました。

2020年、10周年を迎えた三代目 J SOUL BROTHERS。エネルギッシュに解放された「Movin’ on」に対し、7人の表現力が集結して宿る「Lose Control」。

このサブスク主流の時代において、カップリングという概念こそ必要ないのかもしれない。そう思わせる力強さが、本作にはある気がします。

この2曲がパッケージングされていることに、10年間の歴史と経験、三代目へと受け継がれてきたJSBの哲学が刻まれているのかもしれません。

文 / 長谷川 チエ(@Hase_Chie

▼三代目JSB「RAINBOW」レビュー

▼CrazyBoyインタビュー

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!