サカナクション『SAKANAQUARIUM アダプト TOUR』日本武道館公演ライブレポート

サカナクションが2022年1月30日に行なった「SAKANAQUARIUM アダプト TOUR」ファイナル公演のライブレポートを書きました。


【アダプト】について

2021年11月に行われたオンラインライブ『SAKANAQUARIUM アダプト ONLINE』から、2021年12月〜2022年1月まで開催された『SAKANAQUARIUM アダプト TOUR』、そして3月のアルバムリリース。

オンラインとリアルの双方から表現され、その後アルバムがリリースされるという段階を踏んでいる。

さらにツアーファイナルの追加公演は生配信でも視聴可能だった。

コンセプトの全体像としては、

第1章 【アダプト】”適応”
第2章【アプライ】”応用”

の2つから構成されている。

つまりアダプトのアルバムがリリースされてもまだ続きがある、ということで、ファイナルだけど終わりではないわくわく感がある。

また、リアルライブの開催に合わせて、11月の配信ライブは「re:アダプト ONLINE」として、オンデマンド方式で1週間観られるチケットが販売された。

ちょっと説明が難しくなってきました。アダプトがゲシュタルト崩壊を起こしそうなので詳しくはサカナクション公式HPへ。

11月に配信チケットを購入したNFメンバー(ファンクラブ会員)は1,000円で購入可能だったので、私ももう一度購入することにした。

リアルライブの前にもう一度観たいと思ったこともあるが、リアルライブの後に『re:アダプト ONLINE』を観たら、自分の気持ちがどう変化するかを知りたかった。

ライブ前日は、11月に観た時とはまた違った感覚で、予習のような気持ちで観た。「目が明く藍色」も「ルーキー」も「新宝島」も、真っ暗な部屋で1人で観ると涙ぐんでしまう。

『SAKANAQUARIUM アダプト TOUR』

そして迎えた1月30日。日本武道館という場所は観客として訪れても、いつも背筋が伸びる気がする。

関東でのライブはおよそ3年ぶりだとお話されていたが、私自身もサカナクションの生ライブは同じくらい久しぶりだった。

オンラインライブで象徴的だった「アダプトタワー」は、現実世界に形を変えたようにして、武道館のステージに収まっていた。

ヴォーカルの山口一郎さんは「中止に追い込まれれば祭りに変える」みたいなことをおっしゃっていたけれど、本当に祭りだった。

もちろんバカ騒ぎするとかじゃなくて、その場で音を楽しむみたいなことで、声が出せなくたってサカナクションのライブは魅力的なままだった。

音楽ライブと、お芝居で表現される舞台が一つになったような感覚。

川床明日香さんや、るうこさんの表現力も、オンラインからそのまま抜け出してきたようで素晴らしかった。

アルバムのリリースも控えている今回は、「キャラバン」「月の椀」「プラトー」などの新曲も楽しみの一つだったが、すでに耳にしてきたこともあってか、自然とセットリストに溶け込んでいた。

早くも観客に歓迎されている、そんな印象を受けた。

さらに個人的に楽しみにしていたのは「ルーキー」で、サカナクションの曲の中で一番と言っても良いくらいステージ映えする曲だと思っている。

ギターの岩寺基晴さんとベースの草刈愛美さんがとにかくかっこいい。

“行かないで 見渡して 羽ばたいて 口ずさんで いつか”

この曲のどこに自分の感情が反応しているのか分からないし、MVを観ても泣ける要素はないのだけれど、ライブだとひたすら泣けてくる。

“ミエナイヨルノツキノカワリニヒッパッテキタアオイキミ”のコーラスが重なる頃には、もう武道館の外がどうなっててもいいとさえ思う。

「ルーキー」は視覚的な面からも楽しむことのできる楽曲だと思う。今回は「DocumentaRy」からの世界観をたっぷりと含んでいたから尚更だった。

そして今回気づいたのは、「ルーキー」はオンラインライブで観るのが私は一番好きだということだった。ライブDVDでもなく、配信用に演奏される「ルーキー」が好きだ。

遮るものもなく、サカナクションと自分だけの世界のように感じられるからかもしれない。

クリエイティブ集団のようなクラブミュージックセクションからの流れで新曲「プラトー」。

この曲は『NF OFFLINE FROM LIVING ROOM』ライブレポートでも書いたように、バンドらしい真っ直ぐさがあり、アウトロまでずっとかっこいい。会場のノリを見ていると、今後はフェスでも人気を獲得しそうだと思った。

新曲を含めてこの空気感を作るのは難しいと思うけれど、サカナクションが持つ柔軟で幅広い創造力で会場は覆い尽くされていた。

同じく新曲の発見としては、「ショック!」のショックダンスがめちゃくちゃ楽しかった。オンラインライブの時は落ち着いていた私のひじも踊りたがった。知らなくても踊れるし、サカナクションライブの新定番になりそう。

「自由に踊って」と言いつつも観客を見事に結束させてしまうサカナクション。

さらにアンコールの「三日月サンセット」「白波トップウォーター」「ナイトフィッシングイズグッド」はリアルライブだけに与えられた珠玉の時間だった。泣かずにはいられない。

そしてエンドロールの最後まで丁寧な演出が施され、『SAKANAQUARIUM アダプト TOUR』は幕を閉じた。

ライブ後に思ったこと

オンラインとリアルを両方観た結果、それぞれに特徴があり、オンラインライブは集中して観ることができる。しかもサカナクションの楽曲は映像との相性も良い。

その後に同じコンセプトでつながったリアルライブを観ると、「やっと会えた」みたいな感覚になり、バンドとしての音やまとまりにフォーカスしたくなる。

そしてもう一度『re:アダプト ONLINE』を観ると感動がよみがえる。あと、楽しみにしていたライブが終わっちまった悲しみによってできた心のスキマを、少し埋めることができる。

もちろんどちらかだけでも楽しいと思うし、それぞれのどこか1箇所だけを切り取ったとしても、芸術性とクオリティは損なわれない。それがサカナクションのすごいところだと思う。

オンラインライブのみで考えると、2020年の『SAKANAQUARIUM 光 ONLINE』が私は一番好きだったけれど、リアルライブまで体感してみると『アダプト ONLINE』にはまた別の愛着が生まれた。

ちなみに今回の武道館公演では、初めてサカナクションのライブに来てみた、という雰囲気の方もけっこう見かけた。

別に今までのファンが去っていったわけではなく、今回は断念するというケースがほとんどだと思うけれど、新たなファンを獲得するというのは、活動が長くなればなるほど難しくなってくる。

この状況下だからこそできることを考え、行動し、発信し続けたチームサカナクションの努力が結果として表れた気がして、とても嬉しかった。

トライアンドエラーを繰り返す姿を包み隠さずリスナーにも発信し、だからこそ批判も浴びているだろうけれど、その姿にはきっとたくさんの人が刺激を受けたのではないかと思う。

トレードが成立しなかったチケットは運営側で買い取るとアナウンスされていたので、私が行った最終日も、空席があるかもしれないと思っていた。一度は完売したチケットも当日券として再び販売され、満席に埋まった会場を見て思わず感極まった。

泣く泣く手放した方はきっと悔しかったと思うけれど、その分多くの人に感動が共有されたのだと思いたい。

「ナイトフィッシングイズグッド」であんなに泣いたのに、帰り道、頭の中で流れていたのは新曲の「ショック!」だった。だから心の中でそれに合わせて歌った。

音楽で人の心を高揚させるのが、サカナクションは本当に上手い。2022年もその高揚を更新させた。

新旧織り交ぜられたセットリストの美しさに、感動や感謝や敬意が込み上げて、何もかもを抱きしめたくなる夜だった。

『SAKANAQUARIUM アダプト TOUR』セットリスト(2022.1.30)

  1. multiple exposure
  2. キャラバン
  3. なんてったって春
  4. スローモーション
  5. 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
  6. 月の椀
  7. ティーンエイジ
  8. 目が明く藍色
  9. DocumentaRy
  10. ルーキー
  11. プラトー
  12. アルクアラウンド
  13. アイデンティティ
  14. ショック!
  15. モス
  16. 夜の踊り子
  17. 新宝島
  18. 忘れられないの
    – アンコール –
  19. 三日月サンセット
  20. 白波トップウォーター
  21. ナイトフィッシングイズグッド
  22. フレンドリー

文 / 長谷川 チエ


サカナクション公式サイト

▼『NF OFFLINE FROM LIVING ROOM』ライブレポート

▼個人的サカナクション物語

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!