日常に物語があることを教えてくれたのはマカロニえんぴつだった

先日、久々に友人Rに会った。以前、THE FIRST TAKEの「猫」しか知らない我が友へ贈るDISH//の曲たちの記事に登場した友人だ。

R:DISH//の記事めっちゃ良かったよ感動した。「勝手にMY SOUL」とか気に入ったわ。

私:いや記事に出てきてない歌だから。あの7000字何やったん。いろいろ聴いてくれたのはすごく嬉しいけどさ。

R:何かサザンっぽさがあって気に入っちゃったわ(大のサザンファンでもあるR氏)。でも印象に残ったのは「僕らが強く。」だったかな。

私: 私も大好き。そもそもマカロニさん好きだし!

R:まかろにさん??

私:この曲を作ったバンド、めちゃくちゃかっこいいよ。「僕らが強く。」って8分の6拍子なんだけどさ…

まかろにさんのあたりからRの集中力が途切れた音がした。興味なくはないがどうして良いか分からないといった面持ちでこちらを見ている。

音楽はつながっているのがいい。だから、髪切った? のテレフォンショッキング形式で次はマカロニえんぴつの音楽をRに贈りつけようと思う。


マカロニえんぴつについて

2012年に神奈川県川崎市で結成され、2020年にメジャーデビューしたマカロニえんぴつは、Vo / G. はっとりさん、B. 高野賢也さん、G. 田辺由明さん、Key. 長谷川大喜さんによるロックバンド。

彼らの音楽はマカロック、それを聴く人たちはマカロッカーなどと呼ばれたりする。

はっとりさんの名前はユニコーンの3枚目のアルバム『服部』に由来しており、スキマスイッチがきっかけでユニコーンを知ったエピソードは有名で、その影響を多大に受けていることは音楽性からも感じられる。

そうしたルーツを新たな解釈でマカロニ音楽に昇華させているところが、マカロニえんぴつの面白いところだと思っている。

バンド名で聴かず嫌いをされることも多いそうだが、カタカナとひらがながパッと同時に目に入ってくる字面は、日本語のネーミングとしては優秀な組み合わせだ。ていうか聴かないのはもったいない。

ちなみにはっとりさんは3歳まで東京都武蔵野市で育ったそうなのだが、照合すると同じ時期に私も武蔵野市にいたので、きっとどこかですれ違っていたはずだと、ずっと重めの思い込みをしてきた。

どのタイミングでマカロニを知ったかの記憶は見失ってしまったが、気付いたら聴いていて、特に2017年リリースのアルバム『CHOSYOKU』はかなり聴き込んだ思い出があり、今も相当好きだ。

マカロニさんは100%覚えていないと思うが、2018年にフェスの楽屋でご挨拶をさせていただいたことがある。それがきっかけというわけでもないのだが、この頃から私は熱心にマカロニを聴きはじめた。

マカロニえんぴつの楽曲提供

友人のRが印象に残ったと言っていたDISH//の「僕らが強く。」という曲。すべて私の持論だが、これは楽曲提供の限界を超えた名曲だと思っている。

DISH//の記事で書きかけて省いてしまったのだが、そもそも8分の6拍子の曲というのは、日本語で歌うと母音の滞空時間が長くなり、間延びするので難しい。

Mr.Childrenの「NOT FOUND」みたいに、呼吸レベルで子音を取り込める譜割りでやっと成立するリズムだと思っていた。

バンドならよほどの強いメッセージ性があるか、シンガロングなどで工夫しないと、パンチラインを持たないまま終わる可能性があるから。


そんな8分の6拍子の曲でこの世界観を創ったDISH//の表現力には、バンドの芯の強さが裏打ちされている。その底力を引き出したはっとりさん。

DISH//はこの曲を、ライブでも身を削って熱をこめて、大切に演奏しているのが分かる。

だからこの曲が歌われるたびに命が吹き込まれて、DISH//だけでなくマカロニえんぴつもステージを上げていくような気がするのだ。

歌詞にはDISH//のメンバーの想いが反映されていて、タイトルはVo. 北村匠海さんの言葉の一節を引用したという。

どこにも妥協がなくて、お互いを引き立て合っている。こうした印象的なコラボレーションは、本人たちの手を離れてもリスナーが結びつけてくれる。

DISH//の「沈丁花」や、映画『明け方の若者たち』の主題歌など、この2組のつながりは今後も続いていきそうだ。

マカロニえんぴつは私立恵比寿中学にも「愛のレンタル」という曲を提供している。セルフカバーもされていて、こちらもまた素晴らしいのでぜひ聴き比べてみてほしいのです。

ちなみに「愛のレンタル」が収録されている私立恵比寿中学の『playlist』は、名だたるアーティストが楽曲提供されていてめちゃくちゃ良いアルバムです。

マカロニえんぴつの曲いろいろ

「僕らが強く。」を聴いた時、「ミスター・ブルースカイ」が頭に浮かんできた。


この曲も同じく8分の6拍子の曲なのだが、バンドによってカラーが変わる。だからバンドは楽しい。

マカロニの曲はその素晴らしいメロディセンスにより、どこかに必ず口ずさみたくなるキャッチーさを残していて、サビでぱぁ〜っと視界がひらけるみたいな感覚になるので、気付くとだいたい一緒に歌っている。

歌詞も単語ごとに分解してみれば身近なものばかりなのに、組み合わせ方で言葉の意味が無限に広がっていく。

ショートムービーを観た後のような、短編小説を読んだ後のような感覚。長編でずっしり食らって動けなくなるのではなくて、聴いた後に自分もひらめきを得られるようなクリエイティビティがある。

THE FIRST TAKEでも披露された「青春と一瞬」。MVには森七菜さんが出演されている。

タイトルや歌詞の内容を聞いて、ライターとしては羨ましくなったというか、「その手があったか!」みたいな気持ちになった。お前が張り合うななのは重々承知してます。好きです張り合ってません。

当時、マクドナルドの「500円バリューセット」のタイアップとして書き下ろされた曲だが、制作においては納期も短く、しかも初めてのチャレンジだったという。

“いつでも僕らに時間が少し足りないのは 青春と一瞬がセットだから”

“夢が増えれば ハラが減る、若者であれ”

この歌詞を見て、もう絶対に勝てないと思った。張り合ってません。短期間で名曲に仕上げて、ペルソナ設定されたタイアップもこなすとは、なんて完璧なバンドなんだと思った。

でもそういうこと以前に、私はこの曲が大好きだ。重圧と苦悩の中で、こんなに素敵な曲を生み出してくれたのかと思うと感動してしまう。

タイアップ上手いですねとかいうことよりも、素直に感動した気持ちを大切にして言葉に残そうと、この曲を聴くとなぜかいつも考える。

アルバム『hope』の中で存在感を放つ「ヤングアダルト」。キャッチーな印象を保ちながらも、ドキッとするようなフレーズが文学性を帯びていて、こんな曲はマカロニえんぴつにしか表現できないと思う。

マカロニえんぴつの大半の作詞・作曲ははっとりさんが手がけているが、最近はスタジオで生まれたサウンドを大切にするようになったとお話されていた。リアルでセッション性のある音もバンドらしくてかっこいい。

どのあたりから変わっていったのか、などと詮索して聴こうとは思わないが、何となく最近はドラムの音が生きてるとか、ギターソロが際立ってるとか、全体の音が解放的になったと感じることが多くなった。

それは単に曲作りの過程を知ったからなのかもしれないが、いずれにしてもそうやって音楽の聴こえ方が変わるのは面白い。

日常のすきまに入り込むマカロニえんぴつ

『JR SKISKI 2020-2021』キャンペーンソングとして起用された「メレンゲ」。

歴代のSKISKIソングの中でも圧倒的にロックでさっくりとした雪景色じゃないか。最高すぎて空を飛びたい。I Can fly!

表現することもさっくりしていて、細かすぎないところがいい。きっと細かいところに気付ける方々だけど、視野を広く描いているのだと思う。

この曲は展開がすごすぎるからたった数ヶ所カーソルを合わせただけで判断しないでほしい!

最初は学校の1階にいて、体育館とかを経由して最後には屋上まで到達しているような曲だから。でもサビはずっとキャッチーなのが素晴らしい。

そして2021年に「八月の陽炎」を聴いて、またすごい曲ができたと思った。

リスナーの解釈を狭めないために、余白を残すようにしているとよくおっしゃっているが、まさにそんな曲だと思う。

私たちは、少なくとも私は毎日毎日、大小さまざまなことを考えては、何かを答えと仮定してその日をごまかす。

でもそれは本当の答えではないから、別の日にはまた同じようなことを考えたりする。そうやって連なった日常のすきまに、マカロニえんぴつは入り込んでくるのだ。

でも決して何か一つの答えを差し出してくるわけではない。僕はこうだと信じてるけどその先は任せる。そんな感じで、答えのないことに方向性を示してくれるコンパスのようなものだ。こっちの方角で良いのだなと思わせてくれる。

全体の語気は強いのに、不思議と押し付られる感じがない。そんなスタンスに救われる思いがする。


きっと聴く人によって、自分にとっては「洗濯機と君とラヂオ」だ、「ワンドリンク別」だとか、一人一人違うかもしれない。その数だけ生活があり、物語がある。

小説や記事のアイディアが欲しくて私は家を飛び出す(変)。何か深いものに出会おうとマカロニえんぴつを聴きながら歩いていると、そう遠くまで行かなくてもインスピレーションが湧いてきたりする。

家を飛び出した道中で聴くのはやっぱりそういう音楽で、「自分は何を欲しがっていたのだろう、日常にこそ物語や文学はあるのに」と気付かされ、急いで家に戻ってまた書き始めたりする。

ステイホームを余儀なくされたこの期間、マカロニえんぴつは諦めずに、何度も何度も物語を連れてやってきた。

だから外に出られなくても、ライブに行けなくても私はさみしくなかった。

大切な友人の家にも、訪れてくれたらいいと思う。音楽がつなげてくれる、人との関わりや日々の物語が、今とても愛おしいのだ。

長谷川 チエ

マカロニえんぴつ 公式サイト

▼DISH//の記事はこちら

▼サカナクション

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!