三代目 J Soul Brothersの今市隆二さんが2018年8月1日にリリースしたコンプリートアルバム『LIGHT> DARKNESS』。前回の「Out of the Darkness」「Catch my Light」レビューに続き、今回はアルバム全体を聴いてみました。
『LIGHT>DARKNESS』
- INTRO 〜LIGHT>DARKNESS〜
- Catch my Light
- LOVE THIEF
- Angel
- THROWBACK
- Diamond Dance
- Interlude 〜RILY〜
- ONE DAY
- Alter Ego
- Out of the Darkness
- Trick World
- SHINING / RYUJI IMAICHI feat. Ne-Yo
- LOVE HURTS / RYUJI IMAICHI feat. Brian McKnight
- Thank you
R&B好きからすると、「こういう曲も歌ってくれるの?」という嬉しさがこみ上げるおしゃれな楽曲と構成。作り手の愛情が感じられる好印象な名盤です。
すでに何曲かについては他の記事で取り上げているので、ここではそれ以外に、特に素晴らしいと感じた曲をピックアップします。
「THROWBACK」
90年代を彷彿とさせる、トラディショナルな部分を残したJapanese New Jack Swing。コテコテではなく、適度にキャッチーなのでとても良心的です。
ジャワカレーのCMとかに使えそうな?(伝わるだろうか)大人っぽい爽快感と、初代J Soul Brothersを彷彿とさせるかっこいいトラックに、J-POPの親しみやすいトップラインを合わせた曲。作詞・作曲を手がけたSTYさんは、こういう構成が天才的に上手いですよね。
エッジボイスとか、音や歌詞の機微な部分まで拾って歌える今市さんに良く合った曲だと思いました。
ガツンと響くNew Jack Swingの独特なリズムと今市さんの甘い声。個人的には、このアルバムの中で最も将来性を予感させ、この路線はかなり行けるのではないかと感じました。ぜひ極めてほしいです。
「Diamond Dance」
「THROWBACK」からの流れで聴くと、90年代のアルバムを紐解いたような懐かしさすら漂い、嬉しくなります。スローテンポがアルバム全体に落ち着きと安心感を与えている印象です。
曲に合わせて歌詞を書いたという今市さんですが、曲の雰囲気だけでなく、歌詞も90年代っぽくおしゃれに仕上がっていて、「星達はお休み」とかとてもかわいい表現。今市さんの発想に、こういう引き出しがあることが素敵ですね。
実はこの曲、聴いた直後はあまりピンと来なかったんですね。アルバムの中盤にはこういうメロウな曲は鉄板であるし、そういう位置付けとして捉えていました。
ただ、あることをきっかけに突然、私の中でこの曲の印象が180度変わりました。
作曲されたT-SKさんが、InstagramとTwitterに、ご自身で演奏する「Diamond Dance」の動画を公開されていて、フォロワーさんのリツイートやリポストからTLに流れてきたそれを見たのです。
そこで、2018年4月にブルーノ・マーズの来日ライブで聴いた「Versace on the Floor」がフラッシュバックして、私は泣き出してしまいました。
ブルーノ・マーズのライブでは「Versace on the Floor」の歌い出しの前に、キーボードの前奏がたっぷりありました。そのシーンと突然リンクして、自分にとってはそのライブを連想させる曲という感じになりました。
Bruno Mars – Versace On The Floor
アルバム全体を通して
「Catch my Light」や「LOVE THIEF」でのラップだとか「Trick World」の歌い方は、今市さんの歌を聴き込んできたつもりだった私も、こういう歌い方できるんだ、という純粋な発見がありました。
そして「ONE DAY」の偉大さは、やはり別格でした。
イントロが流れると、もはや神々しさすら感じて拝みたくなる特別感。Culture Cruiseにとってこの曲は、大切でありがたい存在です。Culture Cruiseは「ONE DAY」とともにあると言っても過言ではありません(過言)。
「Alter Ego」からの「Out of the Darkness」の流れは特別なメッセージ性を感じますし、この2曲は曲順を崩してはいけない!ダメ、絶対。という気がしますね。
「Trick World」は明らかに他の曲と世界観も違っていて、変転しています。こういう曲を歌う今市さんを想像できなかったことと、JAY’EDさんと作られた曲であることも驚きでしたが、ここでしっかりコンバートされているのが良いですね。
とても個人的な感想ですけれども、宇多田ヒカルさんの「こんな曲も作るの?歌うの?」っていうレパートリーの広さ、アルバムのスパイスになる曲を良く分かってるな〜と唸る時の衝撃に似ているのです。
JAY’EDさんとは以前「P.B.E feat.今市隆二」として爽やかに共演しましたが、いつかまたコッテコテのR&Bでコラボしてくれるような気がするんですよね。その時は濃厚にレビューするのでお待ちしています!
夏のドライブデートにおすすめ!JAY’ED「P.B.E feat.今市隆二」とアルバムレビュー
曲順に込められたメッセージ
私が感じたこのアルバムの特筆すべき点は、全体の曲順が良く練られていて、違和感なく自然に聴けるところです。たとえサブスクでも、曲順は崩さずに聴きたいです。
シャッフルして聴くとしても、ライナーノーツに連なる曲の並びはとても大切で、アーティストやクリエイターからのメッセージでもあると思っています。
この順番で聴いてほしい、というご本人の強い想いが込められていたりするので、リスナーもどんなメッセージがそこに隠れているのか、考えることは音楽を聴く楽しさとも言えます。
CDよりもストリーミング系が中心の現在の音楽文化ではイメージしづらい面もありますが、例えば今市さんが、これは最初かなぁ…「Thank you」はみんなへのメッセージだから、やっぱり最後が良いなぁ…とか毎日毎日、一生懸命考えていたとしたら、そのメッセージをキャッチしたいですよね。
もしも、今まであまり曲順を意識していなかったという方がいらしたら、ぜひちょっとだけ、曲順に隠されたメッセージに意識を傾けてみてほしいなと思います。
メッセージの感じ方は人それぞれですが、私の場合、前回は1曲目だった「ONE DAY」が、Interludeを挟んだ直後に収録されていて、後半のリスタートを切る大事な役割を担っている気がします。やはり今市さんのソロの原点という印象があります。
そして、Ne-YoやBrian Mcknightとのコラボ曲はいつも最後に収録されていて、リスペクトの気持ちが表れているような気がします。
さらに三代目JSB『FUTURE』に同時パッケージ化された前回のアルバムの時は、まだ今回のコンプリートアルバムの発売を知らされていなかったので、「Thank you」を最後にしてくれたらもっと良かったけどなぁ…なんて勝手に考えていました。
そのため今回の『Light>Darkness』でその通りになってくれたことがとても嬉しくて、やはり今市さんは「Thank you」に込めた想いを、リスナーにも大切に届けてくれたのだなと、メッセージを受け取った気持ちでいます。
R&Bへの挑戦状
今市さんはソロデビューしてから8ヶ月という期間で、ここまでの作品を作り出してくれました。今後も良い曲がたくさん生まれることを期待せずにはいられません。
このアルバムを聴いて確信したのは、これは今市さんでなくとも、いい曲歌うアーティストだなぁと、応援しただろうなということ。そして「こんな良いアーティストがいるよ〜」とCulture Cruiseで紹介していたかもしれません。
けれど誤解を恐れずに言うと、そんな時の反応はなかなか手ごたえを感じられないと思います。もちろんCulture Cruiseが微力すぎるからに他なりませんが、それだけ日本ではR&Bの市場が狭いということです。
しかし、R&Bを聴いてきた人間からすると、どの曲にも愛情が込められていて、挑戦的でありながらR&Bのツボをしっかりおさえている印象があります。
そして発信し続けていれば、周りの反応にも少しずつ変化が生まれてくるということは、私もこの仕事を始めて知ったことでもあります。
誰かが本気で作った良いものは、時間がかかっても必ず評価される時が来ると信じているし、情報過多な時代だからこそ、本当に優れたものこそが際立ち、磨かれて生き残るのではないかと思うからです。
今は月額1,000円以下で、あらゆるアーティストの音楽を試すことができます。R&B好きな方にはぜひとも、今市隆二さんの音楽を聴いてみていただきたいのです。
渋さや深みを感じるパワフルな黒人アーティストとはまた一味違い、繊細さや柔らかさを描写できるアーティストだと思っています。
さらに今市さんや三代目JSBを通じてR&Bに興味を持ったというファンの皆さんには、世界の素晴らしいR&Bをはじめ、さまざまなジャンルの音楽に触れてみていただきたいなと思います。もちろん私も、もっとたくさん聴いてみたいです。
今市隆二さんは、そんな音楽に親しむ人たちやこれから親しむ人たち、R&Bを通じて日本と世界を結ぶ架け橋になってくれる予感がしています。
文 / 長谷川 チエ(@Hase_Chie)
▼アルバムのリード曲「Out of the Darkness」「Catch my Light」レビュー
▼三代目 J SOUL BROTHERS「TONIGHT」レビュー