【努力が光になる瞬間】今市隆二「Out of the Darkness」「Catch my Light」

三代目 J Soul Brothersの今市隆二さんが2018年8月1日にリリースしたアルバム『LIGHT> DARKNESS』から「Out of the Darkness」と「Catch my Light」について取り上げます。




「Out of the Darkness」

アルバム内では同じFuture R&B、歌詞の意味合いとしても「Alter Ego」の後に聴けるところが腹落ちする「Out of the Darkness」。

恋愛がベースですが、1人の人間が成長する過程を恋愛に例えた、という表現がしっくりくる気がします。ただの「切ない別れの曲です、聴いてくださいRYUJI IMAICHIで『Out of the Darkness』」じゃない深さが好きです(伝わる?)。

作詞は今市さんの「Over&Over」なども担当されている和田昌哉さんですが、ソロ活動を始めてからの今市さんを慮ったような内容だと思いました。

“誰の指図も受けない”  “過去は捨て、まだ見ぬ街へ”など、恋愛の曲では登場しないはずの言葉、人としての心境が散りばめられているのです。恋愛というテーマですらも、今市さんの強い想いを示す手段にすぎないのですね。

個人的には最初のシーンを観て、The Weekndのようなブラックで時空を感じるMVだなと感じました。

「Alter Ego」はThe WeekndのコラボレーターでもあるIllangelo(イルアンジェロ)によってプロデュースされていますし、どこか通じるものがあってもおかしくないですよね。

The Weekndの曲は主にアンビエントR&Bがベースで、美しいヴォーカルに対してMVはダークな作品が多めです。

Starboy feat. Daft Punk – The Weeknd

今市さんは誰も想像していなかったことをいきなり披露するのが通例になっている気がします。

みんなをアッと驚かせたい、という思いも原動力にはなっているかもしれないけれど、彼の熱意がいつしかサプライズ級の進化を遂げていて、周りが驚いている、そんな気もしますね。

アーティストとしての成長と曲の良さを伝えるためにダンスを取り入れて、そのためのチャレンジなら厭わず懸命に練習した、という印象を強く受けました。

 

ふと思ったのは、今市さんは足が長くて指がきれいで顔が小さくて、尋常じゃないフォルムの美しさを持ち合わせていることはファンにとっては周知の事実ですが、普段はそれを出さず、一般的にはあまり知られていないのではないかということ。

そんなフィジカル的ポテンシャルをもってすれば、ダンスとの相性が悪いはずもなく、抜群のプロポーションを生かしていくのも個性が出そうですよね。スーツを着て軽く踊るだけで十分な訴求力があるはずです。

今市さんご自身がそれを望んでいるかと言えば、そうでもない気もしますが(そんなところも今市さんの良さである)ぜひとも周りのスタッフさんに説得をお願いしたいところです!



「Catch my Light」

YouTubeでは「Out of the Darkness」の後に収められているので、ここでは「Catch my Light」の部分から。

「Angel」寄りのファンクなR&B、初となるソロツアーのリード曲はこれ以外ないというくらい、この曲の疾走感が、未来への前向きなイメージを与えてくれそうです。

ファンク好きなら誰もが、ピリッと効いたブラス音とアップテンポに思わずノッてしまうはず。私ももちろん大好きなので、こういう曲を今市さんが出してくれる度に1人でドキドキしています。

作詞はLL BROTHERSのTAKANORIさんやALLYさんとの共作。「Angel」で今市さんの作詞をサポートしたり、三代目JSBの「Eeny,meeny,miny,moe!」なども担当されているお二人で、プラスのエネルギーを感じることが多くて大好きです。

曲のレビューを書く時は、音をミュートにして映像だけ観ることを何度か試すのですが(違う発見があるので)、今回もそうしてみると、本当に努力されたのだなぁという感情が1番に湧いてきます。

そして何よりも感じる強い意志。「Thank you」も「Alter Ego」もその他の楽曲からも、確固たる想いが感じられますが、いつも違う角度で決意を示していて、「Catch my Light」では先に突き進む道を見つけたのですね。

「Out of the Darkness」の後に続くMVを見ると、暗いトンネルから抜けた時のように、光がより明るく感じます。「Catch my Light」の存在が後味を爽やかにするけれど、DarknessがあってこそのLightであり、互いに引き立て合っていますよね。

作曲はどちらもT-SKさんで、制作はチーム(Future Unionさん)で行われたそうなのですが、とはいえクレジットを見るとそれぞれ多くのクリエイターさんが携わってできた別々の曲なのに、整合性を保ったクオリティが見事です。この2曲が同時に誕生したことで、より強いメッセージを放っていますよね。

 

MVはあえて隙があり、キメキメじゃない抜け感がかっこよさを増幅している気がします。こういうサングラスかけてセンターで風切って堂々としている感じ、川崎の地が育んだ何かがあるのか。

ずっと同じ場所、しかも高速道路の下で踊っているだけなのに、躍動感のあるカメラワーク。そして曲の世界観を表す光の取り入れ方も自然で絶妙です。

バックダンサーさんもいい味出していて、みんな目隠ししている…ように見せかけて塗っているだけ。これは「Catch my Light」だからという理由で良いのでしょうか。

大きめの三輪車(?)のシーンだけ増員されていて、10人くらい漕いでますよね。誰も笑わないし、もう何を表現したいのか分かり兼ねる独創性が最高です。

個人的には「Out of the Darkness」にはない、ウエストがちらっと見えるところに、どうしても目が行くんですよね。それでそのスタイルがあまりにも完璧なので、どんな筋トレしたらこうなるの?とか考えて。

でも今市さんはウエストが見えたことに気付いてなくて(たぶん気付いてるけど)一生懸命踊り続けてる感じがまた良くて、あくまでも自然にちらってなるのであって、萌え袖といい、ナイスな服選びだなと。私は何を解説しているんでしょうか。

世界基準を目指す覚悟

この2曲が初O.A.されたのは、ご自身のラジオ番組「SPARK」でしたが、後日AM4:00にMVが解禁されました。

4:00という時間帯は2曲の意味合いから、夜明けの時間に設定したのだと思うのですが(そうだよね?)、こんなにもしっかりばっちり踊っているとは思っていませんでした。

そして、「これ本人なの?」ってくらいめちゃくちゃ踊れる今市さんがそこにいて。私は代役立ててないか早戻しして確認しました、疑ってごめんなさい。

この2曲は聴くだけでももちろん素晴らしいのですが、ここまでのダンスが加わることでより立体感のある作品になった気がします。

これは私の勝手極まりない持論なのですが、R&Bでも踊れると話が早いというか、世界基準のアーティストは歌う時の身のこなしが一流ですよね。

例えばBruno MarsとかChris Brown、Justin Timberlakeなどはその代表格で、その道を通らないと世界にはたどり着けないのかなぁと。

がっつり踊る必要はないけれど、そのグルーヴ感を体感することはとても大切ですよね。もしくは、Sam Smithみたいに弾き語りできるシンガーソングライターであるとか。

ただ、今市さんは自分流の音楽道を築き上げて、今市さんなりの形を示してくれそうな気もするのでワクワクしています。



光(Light)の正体

この曲を聴き、MVを観て思ったのは、今市さんだけ1日48時間与えられてるんじゃないか?ってこと(真剣)。だってそうじゃなかったら、こんなに1曲1曲に精魂込めることできます?どうなってるの1日のバランス。

私だったらいっぱい寝ていっぱい食べて、記事書いて本読んで勉強して、テラスハウス更新されたら観なきゃいけないし副音声でもう1回観たりとか忙しいんですよ!

今市さんはその1000倍くらい多忙なのに、24時間をどう配分したらこんなに完成度の高い曲ができるのか。私は今一度、自分の時間管理術を見直そう(結論)。

今市さんは誰よりもDarknessの中をさまよったはずなのに、諦めなければLightが差し込むはずだよ、ということを優しく教えてくれていて、そしてもっと大きな輝きを求めて努力を続けるのですよね。

私もまだまだDarknessを模索中で、こんなにかっこよくCatch my Lightできませんが、少しでも光を掴めるその日まで、追い求めてみようと思いました。

今市さんの音楽からは、いつもどこかでポジティブにさせてくれるパワーを受けます。それは何よりもご自身が努力を重ねていること、前向きな姿勢、そして彼の言う「自分の歌で人々が癒されるように」という願いがあるからではないでしょうか。

努力は目に見えるものでもなく、形にするのは本来とても困難で、痛みと忍耐を伴います。

それでも歩みを止めず形にしてくれるアーティストがいるから、こんなに素敵な曲に触れることができて、その光を感じられる。

その光こそが、それぞれの夢であり努力の結晶であり、あるいは今市隆二というアーティストそのものなのかもしれません。

文 / 長谷川 チエ

ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!