今回は、NYを拠点とするアジア発のレーベル「88rising」をピックアップします。
Culture Cruiseでもアーティスト単体ではなく、レーベルごと取り上げた記事を書きたいと思っていて、すぐに思いついたのがこの88risingでした。
HIPHOPが世界のメインストリームとなり、アジアンカルチャーが注目される今、その最先端としてリードする「88rising」とはどんなレーベルなのでしょうか。
アジアのポップカルチャーを世界に発信するレーベル
88rising(エイティーエイト・ライジング)はNYを拠点に、2015年に設立されました。
CEOのショーン・ミヤシロさんは日系アメリカ人で、アジア音楽のポテンシャルを感じていながらも、アメリカでアジア音楽といえばK-POPくらいで、それ以外はメジャーではなかった。そんなことから、ハブとなる存在を作りたいと感じたそうです。
世界の中のアジアという位置付けは、多様な文化が交わる地で育った彼自身が、もっとも肌で感じたリアルであったことは想像に難くありません。
最初はYouTubeチャンネルとしてのスタートでしたが、現在では楽曲をリリースするだけでなく、動画やWebコンテンツ制作なども行う大きなプラットフォームへと成長を遂げました。
今とても注目されているレーベルなので、アメリカやアジアのHIPHOPを聴いているリスナーにとってはメジャーであり、名前を知らなかったという方でも無意識のうちに見聞きしているのではないかと思います。
レーベル単位でフェスを開催したりアルバムをリリースするのも特徴的で、アメリカを中心に、世界中で幅広く活動しているレーベルです。
所属アーティストはJoji、Rich Brian、AUGUST 08、NIKI、Higher Brothersなど。音楽関係者だけでなく、多くのクリエイターも所属しています。
♪Joji & BlocBoy JB – Peach Jam
日本で生まれ育ったJojiは日本とオーストラリアのハーフで、YouTuberや芸人としての経歴も持つアーティスト。チルで甘い歌声が魅力ですが、いきなり意味不明な言動をしたり変顔になったりします。
アルバム『Ballads 1』はBillboardのR&B and HIPHOPチャートで1位を獲得。これはアジア人としては初の快挙で、88risingの名を世に広く知らしめることとなりました。
♪Rich Brian – History
Rich Brianはインドネシア出身のシンガーソングライター。Jojiとともに88risingを象徴し、盛り上げているアーティストです。
この記事を書くにあたって知ったのですが、Rich Brianは1999年生まれの20歳。もう20年くらい歌ってきてるような深みのある声ではないですか?この世界観を出せるのはすごいですね。
♪AUGUST 08 feat. Smino – Blood On My Hands
屈強な身体に支えられ、力強くも優しい美声を轟かせるのがAUGUST 08。現在はロサンゼルスを中心に活動しています。
楽曲も美メロでR&Bが中心なので聴きやすく、HIPHOPが多い88risingでは、歌モノに欠かせない存在となっています。
♪NIKI – Indigo
Rich Brianと同じく、NIKIもインドネシア出身、1999年生まれの20歳。彼女も20歳と思えない色気のあるアーティストですね。
R&B色の強い楽曲にマッチした、表現力のある歌声が魅力。落ち着きがありつつもスウィートな声で、個人的にはけっこう好みです。
♪Higher Brothers & Phum Viphurit – Lover Boy 88
Higher Brothersは、中国ではカリスマ的存在のグループ。2018年にはSUMMER SONICにも出演しました。
中国ではHIPHOPを聴くのにも規制がありますが、そんな中国で初めて成功した成都出身のHIPHOPグループとして讃えられています。
“中国 HIPHOP”と検索すれば必ず彼らの名前が出てくるほど、欠かせないヒーローのような存在です。
♪RHYME SO – JUST USED MUSIC AGAIN
そして、世界的に活躍するDJ・音楽プロデューサーの大沢伸一さんと、アーティストであり詩人でもあるRHYMEによる新ユニット「RHYME SO」が、ついに88risingから初の楽曲をリリース。
元々はおふたりが2年ほど前から始めていたプロジェクトでしたが、88risingとのお話が生まれ、リリースに至ったのだそうです。
88risingとしての視点では、日本の音楽市場に布石を打つような、実験的な印象も受けるコラボではないでしょうか。アートワークも素晴らしいです。
アーティストと良好な関係を築く
“ミレニアル世代のグローバルなアジアンカルチャーを盛り上げる”という理念を掲げてきた88rising。
88risingではアーティストとコミュニケーションを取ることを重視しており、アーティストが何をやりたくて何をやりたくないのか、しっかりと把握して制作を進めていきます。
当たり前のことのようですが、これができていないレーベルは無数にあると、筆者は感じているのです。
そもそも、才能があっても人柄や相性などが整わない場合はメンバーシップを組まないのだそうです。良好な関係性が築けなければ、良いコンテンツを生み続けることは不可能です。
2019年1月には来日してライブも行いました。私も一部拝見しましたが、彼らはファミリーのような雰囲気で、88risingが一つの大きなユニットであるようにも感じました。
10月11日にはJojiをエグゼクティブ・プロデューサーとしたコンピレーションアルバム『Head In The Clouds II』をリリース予定の88rising。
CEOのショーン・ミヤシロさんは、「レーベルがメジャーになるにつれて、羨望や敵対心を持って接する人たちも出てくる。しかしそれを気にしていても仕方ないし、僕たちに共感してくれる人を求める方が大切である。ここから業界を変えていきたいと思った」と語っています。
NYにいるからこそ感じる、世界から見たアジアンカルチャーはまだまだマイノリティかもしれませんが、「アジア以外の人たちにも自分たちのテイストを見せることができた」という実感があるそうです。
国ごとに音楽を世界に届けるよりも、アジアとして発信して興味を持ってもらう方がはるかにリーチしやすく、認識されやすいはず。
そして、アーティスト単体ではなくレーベルから発信していくことで、より強くプッシュしていくことができます。
そのプラットフォームとしての88risingは大きな役割を担っており、動向や将来性はロールモデルとしても常に注目の的となっています。
今後は日本でもチームを組むことを検討しているそうですが、アジアにこだわることなく、良いものを取り上げていきたいのだそうです。
同じ信念を持ち、互いに共感・共有するアーティストがインディペンデントに集まるレーベルは、今後も増えていくと思っています。
レーベルとアーティストの関係性が良好に保たれてこそ、良い音楽、良いカルチャーが築かれていくのではないでしょうか。