【片寄涼太インタビュー】「何者でもなかった15年間と、誰かに知られる15年間」節目のソロ1stアルバム『Bouquet』

GENERATIONSの片寄涼太さんが、初のソロアルバム『Bouquet』を8月6日にリリース。収録曲のお話や作詞、ブックレットの執筆についてなどインタビューしました。

ソロアルバムのお祝いをいただいたような曲

──アルバムの制作はいつ頃から計画されていたのでしょうか?

片寄涼太(以下、片寄):去年くらいから話し始めました。既存の楽曲と合わせて、新規でどういった曲を制作するかをメインに、スタッフの方々とアイディアを出し合って進めていきました。

──タイトルにはどんな想いが込められていますか?

片寄:2020年に「Possible」という楽曲をリリースしてから、ソロ名義での配信リリースを続けてきた約5年間の集大成でもあるので、いろいろな時の自分が入っています。それをひとまとめにするという感覚を『Bouquet』という形で表現できるかなと思い、タイトルに決めました。

──その5年はどんな年月でしたか?

片寄:コロナ禍の前からになるので、振り返るとすごく大きな5年間でした。自分が出演させていただいたドラマのテーマ曲だったり、それぞれのシチュエーションの中で生まれた曲も多くて。だからこそ1曲1曲に対する思い入れもすごく深くて、楽曲に紐づいた作品やその頃の感情を思い出せるアルバムになりました。応援してくださる方も「この時こうだったよね」って懐かしんでいただけるような作品になっていたらいいなと思います。

──新曲3曲はこのアルバムにとって、どんな位置付けになりましたか?

片寄:1曲目の「Stay or Go prod. by☆Taku Takahashi (m-flo)」は、「Possible」をプロデュースしてくれた☆Taku(Takahashi)さんと、最初のソロアルバムではご一緒したいという強い想いがあったので、ご相談させていただきました。アルバムのラインナップをご説明した流れで、☆Takuさんからの「じゃあ速いのをやろう!」という一言で作り始めた楽曲なんですけど(笑)。疾走感がいいアクセントになって、アルバムの勢いを出して華やかにしてくれる1曲に仕上がったなと思いますね。GENERATIONSの活動とも一番近しい楽曲になったと思っています。

──Ryohei Yamamotoさんが作詞・作曲に参加されているのも、m-flo好きとしては嬉しいポイントです。

片寄:そうなんですよね! ☆Takuさんと制作を進めていて、トップラインと歌詞をRyoheiさんにお願いしたいんだというご提案をいただいた時に、僕もm-floファンなので「え!?」みたいな感じで(笑)。どんな感じになるんだろうってすごく楽しみでした。Ryoheiさんもアルバムの発売時期とかをすごく考えてくださって。

──涼太さんからなにかオーダーしたことはありましたか?

片寄:実は「Possible」との親和性を僕がオーダーしたんです。「Possible」の5年後の世界ってどんな感じなんだろうと思ったので。「Possible」は向井太一くんが書いてくれたんですけど、リンクする切なさと、ちょっと抜けた明るさと、逆に「Possible」の持つ鬱々とした雰囲気が対照的になっていて、「Possible」があったから生まれた「Stay or Go」という楽曲になりましたね。あとは速い曲になると聴いた段階で、☆Takuさんなので2stepをやりたいなと思って。☆Takuさんは仮のトラックで1回ボーカルを録って、その後にトラックをもう1回いじるっていうやり方がやりやすいらしくて、その時に「2stepがいいんですけど」とお願いしたら「いいね」ってすんなりやってくださって(笑)。ソロアルバムのお祝いをいただいたような楽曲かなと思っています。

──2stepとしてはシンプルでもあって洗練されていて、☆Takuさんのワークスで考えると引き算をしたのかなという印象も受けました。

片寄:そうですよね。凝ったことをやっているわけではなくて。☆Takuさんの曲ってセクションが多いじゃないですか。「Possible」の時に意識させられたのが、ソロっていろんなシチュエーションがないと聴き飽きるということで。だからこんなにいろいろなセクションがあるんだなと思ったんですよ。「Stay or Go」にも反映されていて、「あの時言われたやつだ!」と思いながら(笑)、楽しく制作できました。

──5年前のことをしっかり覚えていらっしゃるのがさすがです。「Smoky Town Rain」についてはいかがでしょうか?

片寄:土岐麻子さんがプロデュースしてくださったんですけど、自分自身も10年以上前からリスナーとして聴いていて、すごくファンで。今回のアルバムでご一緒できないですかとスタッフの方に繋いでいただいて、一度打ち合わせをさせていただきました。いろんなアイディアが出た中で、僕のルーツといえば親が聴いていたような、日本語の良さが引き立つ楽曲を聴いてきたというお話から「今なかなか少ないですよね」という話になって。ソロアルバムでそういう楽曲に挑戦したらどうなるんだろうというのがあって、じゃあやってみようとなりました。Aメロからサビ、転調があったりとか、音楽的にも面白い楽曲に仕上がったと思います。時代と逆行しているところが、どんな世代の方にどう気に入っていただけるのか、とても楽しみです。

──同じく新曲の「朝日のように、夢を見て」では作詞もされていますね。

片寄:自分の中で生まれたすごく大きなテーマでもあって、それに基づいて半年くらいかけて制作した楽曲です。どんな人にも朝日は必ず昇ってくるので、そんな感覚で夢を見るということを、朝日のように優しく、聴いてくれる方の背中を押せたらいいなという想いで書きました。作曲の方向性はGENERATIONSでもお世話になっている和田昌哉さんと、いろいろなお話を繰り返しながら作っていただきました。歌詞はあっという間にすんなりとハマって、不思議な制作でしたね。

──歌詞はどんな場面で書かれたんですか?

片寄:意外と日常の中で、せかせかせずに書けましたね。家で片付けをしている時にふと感じた景色が入っていたりとかして。書きたいイメージやメッセージが定まっていたので、違和感なく散りばめられたかなと思います。

──ふと感じたのはどんな景色だったのでしょうか?

片寄:サビのフレーズは少し悩んで、家で片付けをしていてふと外を見た時に、虹が見えるような気がしたんです。その日は晴れで、別に虹は出ていなかったんですけど、虹って不思議な存在だなと思って。そこに確かにあるものとないものの線引きって難しいですよね。予定されていない雨が降った後の虹だからこそ、儚さがあって。シンプルな感覚をサビに入れようと思って書いたのが《虹のまぼろし》という詞です。

──書き溜めたメモを参照するというよりは、内側から湧き出た衝動的な感情で構成されている感じですか?

片寄:和田さんと一緒に、今自分が感じていることとか、こういうことを作品に残したいというお話をしたから生まれた音楽性だなと思います。デモを聴いた時のパンチがすごくて、ゆったりした曲ですがバラードとも言い切れないアンビエント調な空気感だったので。「朝日のように、夢を見て」という自分の大きなテーマに沿って、ここにはこういう言葉がほしいなとか、無理せず書けました。

──涼太さんは制作にあたって、皆さんとしっかりお話をされるんですね。

片寄:じっくりお話して作った楽曲が多いですね。ドラマの楽曲は作品とも手を繋ぐ部分があって、作家さんの作家性も反映されるのでドラマの台本を受け取るような気分で臨めて、それも好きなんですけど。今回はソロアルバムだからこそ、自分の中から生み出されたものが、特に新曲は色濃く反映されたかなと思います。

──Bonus Trackの「Pray-for bouquet-feat.ShinyaKiyozuka」では、ピアニストの清塚信也さんともコラボされていますね。

片寄:GENERATIONSの楽曲として歌詞を書かせていただいた曲なんですけど、自分の中でも思い出の深い楽曲です。清塚さんとは最初はお仕事でご一緒したんですけど、プライベートでも仲良くしてくださるようになって、いろんなところで気にかけてくださって。こういうのやりたいんですけどとお話したら快く受けてくださいました。レコーディングはピアノとボーカルを同時に録るスタイルで緊張感もあったんですけど、生っぽさというか、清塚さんならではのピアノの呼吸に包まれるような気持ちで臨むことができました。ほぼ一発録りじゃないと繋げられないので緊張しましたけど、清塚さんのピアノの素晴らしさを歌の中で感じられたのが本当に貴重な体験でした。引っ張ってくださったり、後ろから背中を押してくださったり、包み込んでくれたり。1曲の中で自分の歌をいろんな形で引き出してくださって、音楽性の高い経験だったなと思いました。

文章のクセや香りを残したブックレット

──初回限定盤の封入特典であるブックレットも非常に読みごたえがありますよね。

片寄:エッセイみたいに、何日もかけて読むものではないだろうと思っていたんですけど、人生の1ページをお見せするような文章になればいいなと思って書きました。最初に『Bouquet』というコンセプトが出たのが、この文章を書いている時間だったんですよね。僕自身が『Bouquet』を表現するというのが、この初回盤のブックレットの中で感じ取っていただけるかなと思います。自分らしい文章のクセとかもあるので、どうなんだろうとは思うんですけど(笑)。

──それが良いんですよね。

片寄:そうなんですかね。そのクセとか香りを残すことで、楽曲を聴いた時の深みとか、片寄涼太ってこういう人なんだなって距離も近く感じてもらえたらいいなと思っています。でも実は、この中に綴じ込めた文章ではなくて、書こうとしたけどここじゃないなと思ってやめている文章もいくつかありました。『Bouquet』というものが、何者でもなかった15年間と、誰かに知られている15年間の節目というのが大きくて。その中で幼少期のこととか、新しい世界、芸能界との出会いというのは欠かせないだろうなと思って、そこは上手く書くように…上手くというか、どうしたら感じてもらえるか試行錯誤して書きましたね。オーディションの前から知っている人もいれば、映画やテレビドラマで知った方もいて、人によって出会うタイミングも違うと思うので。片寄涼太をソロアーティストとしても認めてあげようと思ってくれるような、ルーツとなる作品になったかなと思います。

──「まえがき」から1冊の本のようにストーリーになっていて惹き込まれました。

片寄:最初は「まえがき」というタイトルではなかったんですけど、こうなったのは「あとがき」を書きたくて「まえがき」を付けたところがあります(笑)。15年の節目の話も、まえがきだからできるところもありましたね。ありがたいことに、作詞家の小竹正人さんと本(『ラウンドトリップ 往復書簡』)を出させていただいたこともあったので、その時に新潮社の編集の方とやりとりしたことも自信になっていました。「ここをこういう風に認めてくれるんだ」とか、逆に指摘してくださる部分もとても勉強になったので。ポエティックなものを書いたのも初めての試みで、自分の楽曲だから書けた部分もあると思っていて。ドキュメンタリーっぽくもあったり、ファンタジックでもあったり。それも含めて自分というところが、読むシチュエーションで変わるような文章になって、最終的に一つのアルバムにまとまっていればいいなと思います。

──小竹さんと本を出版された時は、どんなことが経験になりましたか?

片寄:単純に、文章が若かったと思うんですよ。発売された当時もすでに、最初の頃書いた文章がちょっと恥ずかしかったりもして、「この言い回しすごい生意気だな」とか思ったり。文章書く人ってそういうのありますよね?

──はい。もう毎度のように思います。

片寄:ですよね(笑)。ツッコミどころが後から見えたりとか書き直したいとか。それも含めて道しるべになっているんだなというのは、書いていた時も思ったし、だからこそこういうコラム的で身近な文章って書き続けると面白いかもなというのは、去年このアルバムの話を進行する時と同時に思っていて、それがタイミングとしてマッチして。今後も自分の作品だけでなくとも、文章を書き溜めたりするクセは続けていきたいなと思いますね。

──ぜひ続けていただきたいです! 普通こんなに書けないですから。

片寄:いえいえ! 書けるなんていうほどでもないんですけど。

──でも好きではありますよね?

片寄:好きですね! 嫌いではないです。文章だからこそ言える表現ってあるじゃないですか? それこそ音楽ですら文章に嫉妬するところはあるでしょうし。お芝居が音楽に嫉妬したり、いろんなものがあると思うんですよね。その良さがあることを自分は知っているから、書ける方がたくさんいらっしゃることも分かるので自分が書けるなんて思わないけど、でもそれも自分の表現として、まずは自分の場所からスタートできたらいいなと思いましたね。

──仕事柄、音楽のことを書く文章が多いので、音楽にはずっと憧れと嫉妬を抱いています。

片寄:そうなんですね! 3分とかでいろいろ感じさせるのってずるいですよね。文章は読む人によってリズムも違うのに、音楽は勝手に耳に入ってくれるし、五感の中でも違いますよね。絵を描く画家さんにインタビューさせてもらうと、そういう話がやっぱり出てくるんです。彼らは彼らで音楽に嫉妬していたり、助けられたり。音楽が語らない部分を語れるのはアートの魅力だと僕は思うので、いろんな芸術を自分なりに、少しずつ取り入れた作品になっていたらいいなと思いますね。

──今回のアートワークやお写真も、楽曲との統一感があって芸術的ですよね。

片寄:僕より若いデザイナーの方で、パッケージデザインも「朝日のように、夢を見て」のMVの編集をしてくれたのも同じ方なんですけど、若い世代の方たちが今回すごく力を貸してくれました。思い切ったことができるというのは、同じ頃の自分自身も感覚としてあったし、そういう方々のエネルギーには尊敬を抱いています。ブックレットとも親和性があるデザインを組んでくれて、自分の文章を華やかにしてくれたり、リズミカルにしてくれたデザインだなと感じて、とてもいい制作でした。

──では最後に、今後ソロではどんなことに挑戦していきたいですか?

片寄:ソロでライブをお届けしたい気持ちも強いですし、GENERATIONSとしてはフェスによく出るんですけど、新しい音楽の繋がりや出会いはフェスならではだと思うので、「ソロでこういう曲やってるんだ」って面白がってもらえるような、お客さんとの出会いはフェスで目指していきたいなと思っています。特に僕の場合のパブリックなイメージって、俳優だったりタレントだったり、いろんな一面がある中で、音楽はこういうところなんだねというのを知っていただけると、違った出会いがあるのかなと思うので。音楽ならではの出会いを深めていきながら、自分のメッセージ性をもっと突き詰めていきたいなと思います。

撮影:小山恭史、インタビュー・文:長谷川チエ

片寄涼太 1st Solo Album『Bouquet』
2025. 08.06 Release

▼Streaming & Downlord
https://avex.lnk.to/bouquet

▼CD購入
https://avex.lnk.to/pkg_bouquet


▼アザーカットはInstagramへ

▼関連記事




ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。2017年より『Culture Cruise』を運営開始。 ライター・インタビュアーとしてカルチャーについて取材・執筆するほか、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。ライブレポートや取材のご相談はお問い合わせフォームからお願いします。