三代目JSB「Eeny,meeny,miny,moe!」レビュー

三代目 J Soul Brothersが2015年にリリースした「PLANET SEVEN」。このアルバムのリード曲「Eeny, meeny, miny, moe!」の魅力を、この曲が大好きな私なりに考えてみました。



これまでのイメージを覆したファンクサウンド

「Eeny, meeny〜」(以下イニミニ)はMVもあり、ベストアルバム「THE JSB WORLD」にも収録されていますが、シングルカットされていません。だからこそこの曲の存在感をもっと世間にアピールしたい! こんな名曲が広く知られないのはもったいない! ということでこの記事を書いています。

曲調はブラックテイスト満載のアーバンサウンド。トラックがJ-POPにはないクリエイティブな発想で、品格を感じるR&Bです。三代目JSBにしては珍しいブラス音メインで、高音質のスピーカーで聴きたくなる曲。

ファンク色強めのAメロ、徐々にクラップがかるBメロ〜サビまで、すべてのリズムがはっきりと違うので、その変化を楽しむもよし。

作曲されたT-SKさんは初めて作詞を見た時、まだ誰が書いたものか知らなかったのに、LL Brothersっぽいなと思ったら本当にそうだったと語っていました。地味にすごいですね。トラックダウン(最終仕上げの段階)にとても時間がかかったそうですが、それも頷ける完成度の高さです。

「O.R.I.O.N.」や「R.Y.U.S.E.I.」でEDMのイメージが強かった三代目が、生音主流のR&Bをリードトラックにすることは非常に大きな意味を持ちます。アルバムの顔とも言えるポジションにEDMを用いれば、さらなるブランディングはできたはず。

その後EDMの決定打である「Summer Madness」リリースに至るわけですが、アルバムでは決してジャンルを固定せず、さまざまな曲調を取り入れるという指標、今後の方向性を探る実験的要素もあったのではないでしょうか。

だからこそ、渾身のMV制作、この曲を引っ提げた音楽番組出演という訴求があったのだと思います。

私は、流行に合わせつつ挑戦も続ける彼らのバランス感覚の良さが好きなので、どちらに行っても賛同できるのです。そもそもずっとEDMでいくつもりではなかったと思いますが、アルバムではその道を行かないというスタイルが幅を広げたと思います。

※「O.R.I.O.N.」「R.Y.U.S.E.I.」「Summer Madness」についてはこちらの記事もご参照ください。
【三代目のEDM路線が気に入らない?どんなにすごい挑戦かを今こそ語ろう】

どのシーンを切り取ってもかっこいいMV

イニミニはMVがとてつもなくかっこいい。監督は「HiGH&LOW THE MOVIE」をはじめ、ヒット曲のMVも多数手がける久保茂昭さんです。

特筆すべきは山下健二郎さんのステッキのシーン。普段バス釣りではしゃいでる人がこんなことするのかっていう。やれば完璧なのに、それを出さないところが最高にかっこいい山下さん。

誰が映ってもどのシーンを見てもすべてが完璧にかっこいい。画面が切り替わるカット割りが細かくて大胆なところが、その理由の一つと言えます。

通常MVは小節ごとのタイミングで場面が切り替わりますが、そんなものは無視して1テンポすら待たずに切り替わったりします。予測不可能な動きにも、不思議とめまぐるしさを感じません。

シンプルですがとても手が込んでいるので、最高の瞬間が切り取られてメリハリもある。一瞬のキリッとした表情を作るのが上手いNAOTOさんや山下さん始め、メンバーの表情やしぐさが生きています。映像作品としての仕上がりが素晴らしいですね。

衣装やセット含め、白、黒、赤の3色で表現されたシンプルな映像テーマ。無駄を削ぎ落としたからこそ映える世界観が最高にアーバンしちゃってる!こんなにシックなのに華やかなのは、カメラワーク然り、彼ら自身に華があるからですよね。

このMVの細かすぎる発見は、1:35くらいの白い衣装の時、今市さんだけが違うタイプの靴を履いているところです。たまたまかな?足が長いから低い靴にしたのか?謎ですが。

パフォーマンスはもうスタンドマイクを使ったスタイル以外思いつきません。ELLYさんに功労章を授与したい!

夢を追いかけることへの説得力がすごい

サウンドやMVのかっこよさも去ることながら、この曲を語るには詞の内容にも触れておきたいところです。

作詞はLL BROTHERSのTAKANORIさんとALLYさんが手がけています。LL BROTHERSはかつて「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」という伝説的番組のダンス甲子園という企画で一躍脚光を浴び、大人気を博したグループです。

天性のリズム感とたぐい稀なる音楽センス、そして何よりNew Jack Swingによる先駆的なスタイルは、当時から圧倒的な存在感でした。

アイドル的人気で引っ張りだこだったTVの世界から身を引き、曲作りを含め自分たちで作り上げていくスタイルをゼロから始めるなど、紆余曲折な人生を歩んできたご兄弟です。

私はダンス甲子園の頃の記憶はほとんどないのですが、その後の彼らの活動を拝見して、ダンスだけでなく歌のセンスもずば抜けていることを知りました。

♪GIANT SWING – GET UP feat. MICHICO, L.L BROTHERS, WARNER

このMVでサングラスをかけているのが兄のTAKANORIさん。そんな彼が思いを託した詞に、こちらもたくさんの夢を追いかけ実現してきた三代目 J Soul Brothersが歌を乗せるということで、なんとも説得力を増すのです。

当時の私はライターと掛け持ちして、本業はまったく関係ないコンシェルジュの仕事に就いていたので、勤務先だった品川の天王洲アイルという所の運河を眺めて聴いていました。

そして通勤電車の中で何気なく歌詞を見たら、結構なパワーソングだったという。「やばい!夢叶えなきゃ」と突き動かされて、本業に甘えずライターとして土俵に上がろうと決意し、今に至ります。

清々しいまでの熱意が込められた歌詞と、それをあえて前面に出さないブラックテイストとの絶妙なバランスもまた、この曲の魅力ではないでしょうか。

「Eeny, meeny, miny, moe!」は三代目のスタイルとも相性の良い曲調なので、こういう曲をもっと試せたら幅が広がるのではないかと思います。

もちろん、私はEDM含めいろいろなジャンルを試すのは肯定派ですが、時にはタイアップや売上を度外視した体当たりも挑戦の一つ(だと私は思っている)。ぜひともこういったラインで、シングル曲としてもリリースしてほしいなと思っています。

文 / 長谷川 チエ




ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。別業種からフリーライターとして独立後、Culture Cruiseメディアを立ち上げ、『Culture Cruise』を運営開始。現在は東京と神奈川を拠点としている。 カルチャーについて取材・執筆するほか、楽曲のライナーノーツ制作、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。趣味はレコード鑑賞。愛するのはありとあらゆるカルチャーのすべて!!