三代目 J SOUL BROTHERSが、メジャーデビュー10周年を経て、ベストアルバムとオリジナルアルバムからなる『BEST BROTHERS / THIS IS JSB』を2021年11月10日にリリース。今回は『THIS IS JSB』から先日公開された「Honey」についてレビューを書きました。
0:00 「Honey」を聴く
2020年のデビュー10周年を経てリリースされる『THIS IS JSB』。CD発売はデビュー日の11月10日とあって、メモリアルな1枚となっている。
全13曲の中で最後の公開となった「Honey」は、11月1日0時にダウンロードとストリーミング配信が開始された。
すでに布団に入ってウトウト状態だったがストリーミングで再生する。音数は少なめでも複雑性があり、コライトの良さが出ていると感じた。そして思い出したのは過去の自分のツイートだった。
リバーブで音広がる系、いわゆる空間系エフェクト多めのサウンドというのは、三代目JSBにはどんな曲があったか遡ってみたのだけれど、思ったよりも少なかった。
「RAINBOW」「TONIGHT」あたりだろうか。「線香花火」のトラックや、「100 SEASONS」もそうかもしれない。海外の作家さんのコライトに多いイメージだ。
曲調は違うけど、Mixの施し方が似ていると近い感じがするので、何かそういう分け方をしてしまいます。あくまでも素人判断です。
このあたりは、登坂広臣さんのソロでは大胆に使われていて、「ANSWER…SHADOW」「Colorblind」「Can You See The Light」など、統一性のある世界観を織り交ぜながら、上手く表現されている。
今までの三代目JSBのシングルでは、パキッとした感じ、白黒はっきりしたキャッチーなサウンドが多かったことが改めて分かる。
ライブでも盛り上がるし、覚えやすく定番化もしやすい。もしくはバラードに振り切ったり。
JSBのパブリックイメージはずっとそうだったと思う。前作のアルバム『RAISE THE FLAG』はまさにその象徴という感じだった。
「Honey」のようなエモチルなR&Bサウンドは、これまでの彼らのパブリックイメージとは方向性が違うかもしれない。
しかしそういうところに面白さがあり、いい意味で力が抜けている。この曲からアルバム『THIS IS JSB』が始まると考えると、新たなメッセージとしても受け取ることができる。
19:00「Honey」を観る
さらに同日19時には、MVが公開された。一瞬で終わった直前のインスタライブから追いかけてました。
リバーブが施されたアンビエントなR&Bサウンドが漂う中、ジャンクフードと犬率の高さが目に入ってきて、ちょっとコンセプトを理解するのに時間がかかるところが良い。
今市隆二さんが手がけた歌詞には「あなたという人はこの世界にただ1人だけだから、ありのままでいてほしい」というメッセージが込められているそうだが、MVではポテトを食べている。
メッセージ性の強い歌詞も、あえて視点をずらすと表情も変わるし、素直にキャッチできる。気付いたら受け取っていたというありがたさ。
Culture Cruiseも記事の中で不意におかしなことを言って読者の視点をずらし、そのすきに長文を読破してもらうシステムなので、似てるかもしれません(違う)。
前述したように、パキッとした曲ではないので輪郭はぼんやりしている。普通なら「エモいよね」でぼんやりしたまま終わる。もちろんそれも良いんだけど。
これが三代目JSBの手にかかれば、パフォーマーによってその輪郭が明瞭になり、オーディエンスがそれをなぞっていく楽しさが加わるのだと思った。
ヴァースからサビまでのぼやけた境界線に緩急がつけられていく。想像しただけでもめちゃめちゃ上手かったパフォーマーの皆さん。
「簡単そうに見えて実は高度なスキルを要するダンス」だと小林直己さんがおっしゃっていたが、それはまさに、そのはっきりしないところを表面化させるパフォーマンスが物を言うからではないかなと。
音源として聴く時はレイドバックな雰囲気を楽しみつつ、視覚的にはさらにエッジが立った曲として、もう一段階印象が変わっていきそうだ。
生とエレクトリックな音の並走
これまでのイメージにとらわれず、彼らがどんどん表現の幅を広げていることを、この曲は教えてくれる。
例えば、“美しく咲いて”というフレーズを聴いて、「BRIGHT」を思い浮かべた。
ライブでも欠かせない人気曲になって、まさかここまで出世すると思いませんでした。本当にお疲れさまだよBRIGHTさんという感じ。
当時コスメブランドのタイアップ曲だったこともあり、美しく生きる人や、凛とした女性の輝きを彷彿とさせる。
曲先にしろ、今までならこうしたアッパーなサウンドで作り上げていたと思う。トレンドの変化とともに、そのイメージを変えていくというよりは、「新たな選択肢を増やした」という方がしっくりくる。
その選択肢の幅は、ヴォーカルスタイルにも広がりを見せている。
ヴォーカルスタイルの選択肢
ELLYさんのセクションはいろいろパターンを試した結果こうなったそうで、そんな裏話も今となっては当たり前のように聞いているけれど、それだけ今の三代目JSBにはバリエーションがたくさんあるということが伺える。
以前「TONIGHT」の記事でも、ヴォーカルが3人いるようだと書いたけれど、今回もその印象は継続し、「Honey」ではさらにユニゾンで並走している。
ELLYさんの声にだけオートチューンが効いていたり、その他のコーラス部分もよく聴くとけっこうエフェクティブなので、生とエレクトリックな音がまさに並走する遊び心を楽しめる。
歌とラップの関わり方というのは無限にあるように見えて、ラッパーをフィーチャーするか、グループの誰かがラップパートを担当するかといった中で、構成的にもDメロにラップを入れるとか、何となくパターンがあるものだ。
そこにきて三代目JSBはとてもしなやかな繋がりを見せている。
さまざまな方法を試しながら進んできた彼らだからこそ、可能になった表現の形だと思うし、進化させて、定着させたことが非常に大きな価値を生んでいると思う。
そもそもJ SOUL BROTHERSがラップを取り入れるということ自体に、当初は批判的な声もあったけれど、『THIS IS JSB』を聴いても、まだそう思うだろうか。きっとその人たちだって、今このアルバムを楽しんで聴いていると信じたい。
最初は違和感のあるものほど、開花すれば多くの人を惹きつけるし、続けてみなければ結果が出ない挑戦はたくさんある。
きっと常に挑戦の連続だった7人の活動は、この10年の中で、図らずも少しずつ選択肢を増やしていたのだ。そこから無限に表現の幅を広げていく。
今の彼らは選択することも含めて、楽しんでいるように思える。
そのスタイルこそが、今後の三代目 J SOUL BROTHERSの大きな強みとなるのではないか。そう予感させてくれる曲となった。
「Honey」から始まるアルバム『THIS IS JSB』には、土台を築き上げてきた7人の、その先に向かう意思表示が感じられる。
文 / 長谷川 チエ
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