THREE1989インタビュー「新しい場所で歌える希望を持てた」夏の終わりのEP『WEEKENDER SUMMER』

9月8日にEP『WEEKENDER SUMMER』をサプライズリリースしたTHREE1989がインタビューに登場! 制作にまつわるお話を伺いました。制作風景の写真とともにご覧ください。

新しいアプローチで音を変える

──今回の『WEEKENDER SUMMER』ですが、THREE1989さんがEPをリリースするのはかなり久々なのではないでしょうか?

Shohei:たしかに! そうですね。

Shimo:2020年の『The Sunset Fiction』以来ですね。それも夏のタイミングでリリースして…いつもほとんどが夏なんですけど(笑)。

Shohei:去年の夏に出したくて出さなかったデモが溜まっていたので、その中から改変した曲を何曲か入れたりして。全部新曲なんですけど、僕らの中では出したかったけど出せていなかった曲たちも入っています。デモボックスにも夏の曲が多かったから、それをしっかり入れていきたいねという話からEPに繋がっていきましたね。

──出来上がったEPを聴いてみていかがでしたか?

Shohei:聴いてみて、やっぱり至らない点っていっぱいあるんですよ。レコーディングマイクの問題とか、技術的な至らない点というのはあるんです。例えば「High Times」(2016年リリースの1stシングル)を今聴くと、ボーカルに関しては荒々しさが目立つんですけど、それと同じような感覚で聴けたんです。ちょっと恥ずかしいというか。今回はデモで録ったものを本テイクとして使っていて、もっと上手く歌えるけど、ここ5年くらいは僕の中ではきれいにまとめようとしすぎていたところがあって。それをあえて外して、今までならきれいにまとめていたボーカルの最後の一節を投げ放ったりとか。それがいい遊び心で、一周回って新しい場所で歌うことができるんじゃないかなと、希望を持てたEPだと感じました。

──今までだったらそれらは修正していたわけですよね?

Shohei:修正してましたね。機能的にはピッチがずれてたら、いくらでもきれいに修正できるじゃないですか。「もっとこうしたい」という部分はめっちゃあるけど、いやこれでいいんだっていう。

Datch:じゃあ今回は補正なし?

Shohei:もう本当に最低限のところだけ。THREE1989の音楽は生楽器で作っていない=トラックは完璧なんです、音の合わせ方とか。そこに未熟な生のボーカルが入ることで人間らしさというか、届くものがあるんじゃないかなというのは感じています。音が外れてるとか、ハモりがずれてたり、本来の音に届いてないっていうところもあるんですよ。だけどあえてそのままやることで表れてくるものがあるんじゃないかなって。聴き慣れてない人たちからすると、それがだめだと感じる人もいる可能性もありますけど。

Datch:僕はMIXとかマスタリングを久々にやったんですけど、既成のものとは違うアプローチを試したいと思いました。マスタリングまでやるミュージシャンは、メジャーフィールドでは少ないと思うんです。そうなると、仕上がりのリバーブとかコンプのかけ方がだいたい同じになってきますよね。それが日本の音楽のイメージにつながると思うんですけど。海外の音と比べるとボーカルの処理も独特なリバーブをかけていたりして色が付きづらいと思うので、あまり使われないリバーブを今回はあえて使ってみたりとか。アレンジ寄りのMIXを試したり、新しいアプローチで音を変えることを目指しました。

Shohei:それが本当に上手くハマったなと思います。僕が作詞・作曲して、Shimoがトラックを作って、DatchがMIX・マスタリングをするという、それぞれが自分のやりたいアプローチをやれて、J-POPの正解じゃなく今まで培ってきたものでアプローチできたから、面白いと感じたのかもしれないですね。「これまでのTHREE1989の曲とはちょっと違うな。雑だけど、でもいいな」みたいな。そこが原点で…もちろん丁寧に作っているけど(笑)、きれいに封をしないというか。

Shimo:製品化されたものに少し飽きたという部分も、本心ではどこかにあると思うんですよね。一回通ってきたので、もう一回それをする意味があるのかとか。挑戦したいので、いい意味での荒々しさみたいなものは無意識的にあったかもしれないです。あと、全体的にはエレクトロ要素も強いんですけど、フルートの音も多くて、それがもう一つの要かなと思います。フルートの吐息感が涼しげで、夏の終わりと合うなと思いました。

Shohei:今までだったら入れてない音を入れたりとかもしてますよね。シングルで出すならやっていなかったとか。EPならではなのかもしれないです。

固定観念を取り払ったEP

──ではもう少し曲単位のお話に絞ってみたいと思います。

Shohei:1曲目の「それっぽい夏」は「こういう曲を作ろう」で作り始めていなくて、降りてきた言葉を詰め込みました。だから支離滅裂で、サビの最後ももっとかっこいい言葉で締めようかと思ったんですけど、それすらもやめてみようということで「それっぽい夏」という言葉にしました。でも意外とハマってくれたので1曲目になっています。

Shimo:2曲目の「Southern Wind」はシティポップというテーマがあって、Datchがこんな曲あるよってシェアしてくれていたんですよね。

Shohei:南風を擬人化させて書きたいというところから始まって、元々違うトラックで作っていたんですけど、なんか抜け感がなくておしゃれじゃないなと思って一度ボツになったんです。でも南風というタイトルで作りたいなと思っていた時にそのトラックを発見して、これにつけたらカラッとして面白いかもと思って。サビのメロディはそこまで変えず、Aメロ・Bメロや構成を少し変えて完成したのが「Southern Wind」です。THREE1989が元々持っているシティポップライクな音楽にも通ずるけどビート感は新しいアプローチなので、なんかこの曲面白いなと思ってもらえたら嬉しいです。サビにも一言「来」と中国語を入れたりして、風が世界各地を回って自分のところに帰って来るというものを曲として表現しました。

Shimo:シティポップのコード感とかフレーズを、先人の方々から拝借させてもらったりもしました。パーツを寄せ集めて構築したという感じで、その作り方が面白かったです。

Datch:ビートはHIPHOPっぽいアプローチなんだけどコードはシティポップで、鳴ってるのはエレクトロだったりもしますね。

Shimo:あと、今回の制作では一部に生成AIを使ってみたんです。「Daylight (instrumental)」の一部分だったり、「それっぽい夏」のアウトロのエレクトロジャズっぽいところも生成AIを取り入れています。いっぱい作った中から選んで切り取って、アイディアだけもらって上からなぞり書きみたいにして。そういう作り方がこれからどう価値を持つのかは分からないですけど、作品に残せるのが単純に面白いなと思ったので。何十年も前にシンセサイザーを面白がって使っていた時代のように、面白そうだから使ってみようという感覚で。こうじゃないとだめという固定観念を取り払いたいと思いました。

Datch:僕は「Daylight (instrumental)」があったから、今回EPにしたかったくらいです。今Skitって使っている人ほとんどいないじゃないですか。でも遊び心とか、情報量が少ないからまた次から曲を聴き直せるし。Shimoから提案をもらった時、ストーリー性があっていいなと思いました。

Shimo:生成AI featuringヒューマンをやったら面白いかなって(笑)。

Datch:聴いてほしい!っていう曲だとさ、聴くほうも熱量がいるけど、こういう肩の力を抜いた曲もあってもいいよね。

Shohei:うん。だから再レコーディングもしなくて良かったなと思いますね。肩の力を抜いて歌った状態のものを使うという、初めての実験ではありますけど。

──怖かったりはしないですか? できてないと思われるんじゃないかという懸念とか。

Shohei:微塵はありますけどね…それ以上に今回はこっちの方がいいんじゃないかなという思いが強いのと、一種の諦めとか手放しじゃないけど、いらないこだわりとか。自分にしか分からないこだわりはもういいかなと思いました。

──「Cherry」は最初のShoheiさんの印象的なボーカルから、転調してどんどんTHREE1989さんっぽくなっていくところがワクワクして、EPの中で一番好きだなと思ったんです。でも今日ここに来る時に歩きながら聴いていたら「Little Twinkle my Seaside」も沁み入るように音がどんどん入ってきて、PCに向かって聴いていた時とは全然違う気持ちになりました。だからどんな状況で聴くかで音楽って本当に形を変えるので、これが一番好きとか思い込んで、そればっかり聴く必要もないなと思いました。

Shohei:うわー嬉しい。でも本当にそうですよね。だから誰に向けてこうやって作りましたとか、あまり細かく言わない方がいいのかなと思うこともありますけど。「Cherry」はシングルで出そうとして作っていた曲でもあって、アルバム『2089』のリード曲を決める時に「Have a Nice Cry !」にするか「Cherry」にするかでチームも含めて会議をしたんです。でも「Have a Nice Cry !」に決まって、「Cherry」もいつか出したいよねって話をしていて、今回のEPで練り直しました。サビ以外はかなり変えましたね。

Datch:「Cherry」はMIXをしてても面白い曲だなと思いました。ベースの動きは、知っている人だったら「これあのフレーズじゃん」ってグッとくるような音を一部使ってたりとか、だけど跳ね感はニュージャックとかダンスビートなんですけど、音色はロックっぽいとか。THREE1989っぽいと言っていただけたのは、そういう混ざったところがあるからなのかもしれないです。

──「weekender summer」のMVはどんな内容になっていますか?

Shohei:みんなのカメラロールの中にあった夏の思い出をつないで、夏のハイライトを作った内容になっています。ここも作り込まず、素の自分たちのままで。撮ろうと思っても撮れないものなので、これまでライブなどで行った各地の余白の部分で遊んだものを使うことで、近く感じてもらえるかもしれないし、純粋に楽しいと思ってもらえたら嬉しいです。

Shimo:恥ずかしいシーンもあったりしますが(笑)。8年分の映像が詰め込まれています。あと「weekender summer」は、初めてエレキベースを弾いて録音しました。普段ベースは弾かないのでめっちゃテイクは重ねましたけど。シンセベースでもなくエレキベースでしかできない表現ってあるじゃないですか。それがフィットしたんですよね。

来年の夏に聴きたいEP

──そもそもTHREE1989さんはどうして夏の曲が多いのでしょうか?

Shimo:チームの人からも「夏のイメージがある」って言われたんですね。たしかに夏の曲は当時から多かったし、ライブが夏に多いというのもあるし、毎年同じこと言って毎年夏にリリースしてるみたいな(笑)。あとShoheiの誕生日が夏なので、そういうのもあるのかな?

Shohei:書きやすいのかもね。海辺の町で育ったのもあるのかもしれないですね。

Datch:相性がいいのかもしれないですね。

Shimo:僕らの基盤にある“踊れる音楽”というところで、イコール夏というのもあるし。

Shohei:THREE1989の音楽はそもそもBGMというか、何かをしながら聴いてほしいねって、聴く人が主人公であってほしいというのが元々あったので、それを繋いでいくとアクティビティをいっぱいする夏の横で聴いてほしいなという思いからの、夏の曲が多いのかもしれないですね。冬より夏の方がみんな集まってドライブしたりするし。

Datch:だから冬のライブだとセトリ…「何する?」ってなりますよね(笑)。

Shohei:むずいよね、ないもんね(笑)。クリスマスアルバムとかもやれたら面白いのかもしれないですね。

──ぜひ聴いてみたいです! 今回のEPは9月リリースとなりましたが、元々は夏に出す予定で作っていたんですか?

Shohei:どうだろう…でもベストタイミングかな。真夏だったらそれもよかったかもしれないですけど、聴いてみると夏の終わりの感じもあるし、来年の夏にこれ聴きたいなと思ってくれたらそれはそれでいいし。

Datch:南半球はこれから夏だし(笑)。

Shohei:遅れてじゃなくて、いち早く出した夏のEPなのかもしれないですね(笑)。

インタビュー・文:長谷川チエ

THREE1989 New EP
『WEEKENDER SUMMER』

2025年9月8日リリース

1. それっぽい夏
2. Southern Wind
3. Daylight (instrumental)
4. Cherry
5. Little Twinkle my Seaside
6. weekender summer

▼配信リンク
https://linkco.re/a8mbdvn6?lang=ja

▼「weekender summer」-Unfiltered MV-
https://youtu.be/ybIFskm7Bbw?si=pxiO_EkDQu2RMgRa

▼THREE1989 公式サイト
https://www.three1989.tokyo/

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ABOUTこの記事のライター

山口県生まれ、東京都育ち。2017年より『Culture Cruise』を運営開始。 ライター・インタビュアーとしてカルチャーについて取材・執筆するほか、小説や行動経済学についての書籍も出版。音楽小説『音を書く』が発売中。ライブレポートや取材のご相談はお問い合わせフォームからお願いします。